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異世界賛歌~貧乏くじ聖女の異世界革命記~  作者: ArenLowvally
あまりにも、よくある話。
50/86

第四十九話:異世界の生き物は不思議なようです。

異世界の単位がメートルなのは可笑しいやろ! って話題でSNSが盛り上がってた頃に書いたんですよね、ここ。

まぁ、そういうこともあらざぁね、と思いながら、じゃあこの世界だとどうなんだろうと突き詰めた結果、面倒な方へ持って行くことになりました。

バカじゃん? 未来の自分に期待しすぎじゃない?

そういうわけで、過去の自分の期待をどうにか背負って行こうと思います。


 休日にやることはないので、明香里と成美と一緒に改めて屋敷を歩き回ります。特に庭の方とか、ちょっと出ただけで見て回りはしませんでしたからね。厩舎とかも見たかったので、ゆっくりと見て回ります。


「この辺りの花壇は来週には咲くかな」

「もうちょっとかかるんじゃない? 来月の中頃だと思う」

「花が咲くとこの辺りの景色はガラッと変わるかしらね」

「そうだね、東屋もあるし、天気がいい日はここでお昼食べるのとかいいかも」

「人呼んだ時にここでお茶してもいいかもね」


 ゆっくりと庭を歩きながらお喋りします。広い芝生もあるので、ガーデンパーティなんかも想定してあるみたいですね。全体的にこちらの様式を基準にしてある作りです。まぁ、個人の部屋の間取りしか指定しませんでしたからね、こっちは。そういうものだと思ってましたし。建物全体をどうしたいとかって意見が出なかったのは、やっぱりマンションを想定して話し合ったからでしょう。基本、間取りとか決まってるところに、自分の希望を合わせていく形ですからね。外観も重要と言えば重要ですが、まずは間取りが希望通りかどうかが重要。多様性の時代がこんなところでこだわりの無さに発露するとは……。何事も実際にならないとわからないものですね。

 ゆっくりと歩き回ること1時間半くらい。生け垣が目隠しになる位置に厩舎があります。こういうので景観を損ねないように工夫してあるの、すごいなぁと思います。馬車を引くための馬と、私たちの護衛騎士の乗る馬がいる、そこそこ大きい建物です。本城ほどではないにしても放牧地もあって、そこそこ快適そうです。厩舎に入れば作業していた厩務員がやってきます。

 厩舎全体の管理をしている壮年の男性です。名前はアーベル・ヴァン・リンドグレーン。厩務員であり、獣医だそうです。その腕は確かで、本城の方でも活躍していた方だそう。


「こんなところまでいらっしゃるなんて……。なんのおもてなしもできませんが、ゆっくりなさってください」

「うん、ありがとう。姿が見えない人もいるけれど、別の場所で作業中?」

「ええ、放牧地の方にテリーとステファノが。事務所の方にオットーがおります」


 テリーとステファノは馭者。オットーはもう一人の厩務員です。今ここで作業しているのは残りの馭者ですね。


「お休みの日なのに、みんな大変ね」

「生き物相手に休みはありませんからなぁ」

「放っておけるわけじゃないもんね」

「そうだね。こうやってアーベルたちが毎日しっかり面倒見てくれてるから、私たちが安心して馬車を使えるんだよね」

「ありがたいことね」

「うん、毎日ありがとう」

「いえいえ! 勿体ないお言葉をありがとうございます」


 お礼を言えば、アーベルはにこやかに頭を下げました。それに笑いながら放牧地の方に足を向けます。柵で囲われた芝生。のんびりと歩き回ったり日向ぼっこしたりしている馬たちの姿が見えます。

 二種類の馬がいるのがわかります。馬車を引く馬、輓馬(ばんば)っていうんですかね。護衛騎士の馬も大きいけれど、こちらはもっとがっしりした印象です。大きな馬車を引くために必要な持久力を備えた身体付きだとわかりますね。異邦でもこんな感じで色んな種類の馬がいたのでしょうか。競走馬しか見たことがなかったから、色々調べてみるのはありだったかも。

 私たちが来たのに最初に気付いたのはウォーリアでした。大きく嘶いて、挨拶してくれます。


「あははっ、すっかり顔覚えられちゃった」

「馬にも人気なのは流石と言っていいことなのかしらね」

「たらし込むのは人だけにした方がいいと思う」

「人たらしにも馬たらしにもなった覚えはないんだけれどなぁ」


 鼻を伸ばしてきたので、挨拶を返して撫でてあげます。ゴキゲンにブルブルと鼻を鳴らす様子が可愛いですね。

 戯れていると向こうから青年が一人駆け寄ってきます。こげ茶の短髪にライム色の瞳。あとは泣きボクロが特徴の彼がテリー・ボン・ゴッディです。


「大丈夫ですか?!」

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。ウォーリアは賢いし、ね?」


 声をかければウォーリアは自慢げに鼻を高くしました。前にも本城の放牧地で助けてくれた実績もありますしね。撫でてあげると嬉しそうに尻尾を振ってすり寄ってきます。その様子を見て、テリーは感心した声を出しました。


「すごい……、グラニーが主人以外にこんなに懐くことがあるのか……」

「グラニー?」

「馬の品種のことじゃない?」

「馬にも種類があるの?」

「あ、はい。こちらの体長5~5.3シャクで体重120~140カン程の馬がグラニー種。あちらにいる体長1ケン前後で体重260カン以上の馬をスレィル種といいます」

「……1尺ってどれくらい?」

「30cmくらいだったはず」

「5尺で150cm、6尺で1間ね。180cmくらい。貫は? 流石に知らないわ」

「4kg弱、だったかな。だから、グラニー種が450~500kgちょっと、スレィル種が……1tってところかな」


 この国、メートル法じゃなくて尺貫法なんですね。平安からずっと日本人、それも技術者がこっちに来てるって考えたら、当然と言えば当然か……。今更メートル法に直せないんだろうなぁ……。いや、そもそもメートル法が入ってきてないっていう可能性もあるのか。だからと言って今、私たちが持ち込んだところで定着するとは思えないなぁ。実際にそれを測れる道具があれば、また話は変わるでしょうけれど。


「それで、グラニー種? はそんなに気難しいの?」

「気難しいというか、主人とその他大勢という大雑把な認識しかしません」

「それはまた……、極端だね」

「だからこそ使われているということでもあります。特に王族なんかは馬による事故に見せかけた暗殺なんかも珍しい話ではありませんでしたから。グラニーは主人として忠誠を誓った相手を違えることはありませんし、訓練すれば簡単な魔法くらいは使えるようになります」

「えっ、馬って魔法使えるの?」

「すべての馬が使えるわけじゃありません。グラニーは人と暮らせるように品種改良された魔獣なんです。だから魔力を保有していて、スレィルなどの魔力を有さない品種よりも賢く、魔法も使えます。魔法を使う時には額が光るんです。魔獣だった頃はそこに角があって、それを使って魔法を操っていました。今はその器官が退化して、見目にはわからなくなっていますが」


 感心した声を出して、明香里と成美はウォーリアを見上げます。ウォーリアは私たちの会話の内容をある程度把握しているのか、これでもかと得意げです。すごいだろ、褒めろ、とでも言っているようです。


「ああ、だからテリーは慌てて来てくれたんだ。私がウォーリアに攻撃されてるって思って」

「そうです。まったく心配はいらなかったようですね」

「だね。でもありがとう、心配してくれて」


 笑いかければ、テリーは気恥ずかしそうにして仕事に戻っていきます。その背を見送って、私は構えと頭をこすりつけてくるウォーリアを撫でてあげます。本当に、びっくりするくらい懐いてるなぁ。


「他の人間に懐くことはないって話し、ちょっと信じられないわね」

「そうだね。ここまでアレンに懐いているんだから、そういうものだと思っちゃうよね」

「うん。なんなら主人なはずのエルネストはガン無視だもんね。なんで気に入られたのかはわからないけれど。……エルネストは心当たりある?」

「歌だと思いますよ」

「やっぱそこかぁ……」


 そんな予感はしたけれどね? 他の人間とは全く違うことをしたから覚えられたということでしょうかね。あの時他の馬が集まって来たのも、魔力を感知したから気になって寄って来たっていうことだったんですかね。


「アレン、どこでも歌うもんね」

「ちょっと反省してる」

「今更遅いわよ」

「そういうこと言わないでぇ」


 改めて言われるとちょっと悔しいです。そんな私のことなんかお構いなしに明香里と成美は笑ってくれます。ちくしょう……、自分達がやらかさないからって……。自業自得はそうですから、諦めて一緒になって笑います。歌という単語に反応してか、ウォーリアはせがむように頬を突いてきます。


「おお、なんだ。歌が聞きたいのか。仕方ないなぁ、特別だぞ~?」


 魔力操作もある程度できるようになりましたからね。広がらないように気を付ければ、他のグラニー種も近づいては来ないでしょう。歌そのものが気になって寄ってくるかもしれませんが。


「I’ll coming get you 覚悟してて?

 ありったけの想い 君だけに向けて

 そのハートめがけて一直線!

 狙いを定めて BANGってね♡」


 わかりやすいガールズバンドのアップテンポなラブソングですね。可愛らしくて、元気で真っ直ぐ。あざとさの中で純情な気持ちを明るく歌った、いかにも女の子然とした曲。ギター弾きながら歌うアーティストさんがカッコよくて、MVもよく見ました。懐かしいなぁ。曲は何時でも聞けるけれど、MVは見れないんですよね。

 広がろうとする魔力を捕まえて、できるだけ留まるように操作します。これ、もうちょっとちゃんと操作できるように訓練したら、そもそも魔力を放たないようにもできるでしょうかね。そこはもう、魔法の使い方を習うまでどうにもならないかもしれませんが。歌い上げればウォーリアは楽しそうに耳を動かしています。


「魔力を持ってる馬だからかな、いい歌とかわかるんだね」

「たぶんね。まぁ、下手の横好きに毛が生えたレベルのもので申し訳ないんだけどさ」

「こっちの世界に来てから魔法で補正かかたんじゃない? カラオケで聞いた時よりずっと上手いわよ」

「うっそだぁ」


 っていうか、普通に下手だと思われてたんですね。技術的な話がどうのって関係なく歌うのが好きだから歌ってましたけれど。でもこう、実際に下手だと言われると悲しいものです。まぁ、だからと言って上手くなろうとしてたわけでもないので、そういうものでしょうけれど。でもなんだか複雑な気分だ……。とはいえ、この世界でのいろんなきっかけは歌であることには違いないんですよね。歌がなければそもそもフラーディアは生まれてないし、もっと言えば私を認めてくれる人達にだって出会えてなかった。そう考えると上手いとか下手とか、そういうこと以前に歌が好きでよかったなって思います。


「Sing a Song to my LOVERS

 愛しい世界のすべてにありがとうを

 わたしはここにいるよ あなたもそこにいてね

 絶対届けるから 聞いていて」


 まぁ、歌を褒められるのにはまだ全然慣れませんけれど。でもきっと、これからもこれが何かしらのきっかけにはなるんだろうなとは思います。どうせ今更辞められることでもないので、やらかしたときにまた頭を抱えましょう。どうとでもなる。きっと、たぶん、おそらくは。


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