第三話:異世界の料理を頂きました。
月一と言ったな、あれは嘘だ(キリッ
料理文化の違いって、同じ世界間でも大きく違うのに、異世界に行ったらトンデモなく違うんだろうなぁって。
だからといってやり過ぎた感は否めない……。
鐘が鳴ったと思えば、お昼だからと私達は食堂へ通されました。驚きの連続で時間を忘れていましたが、そう言えばお腹が空いた気もします。通された食堂はこれまた豪華絢爛です。長いテーブルにクロスがかけられ、中央には銀の燭台が置かれています。彩光を調節するためか、大きな窓にはレースカーテンが引かれていて、目に優しい明るさです。
メイドさんに案内されるままに椅子に座ります。わぁ、座る時に椅子の位置を調整して貰うなんて、本当にお姫様にでもなった気分。ちょっとだけ楽しくなっちゃいます。
目の前に並べられていく料理は見目に鮮やかな物でした。お菓子もそうですが、見た目だけは美味しそうなんですよね。これに味が伴わないのは如何してだろう、と疑問に思います。味が伴ってないかどうかは、実際に食べないとわかりませんが。
「異邦からお越しの皆さまお初にお目にかかります、フンベルト・ボン・ラングハインと申します。シャングリラ城で料理長を務めさせていただいております、以後お見知りおきを」
丁寧なお辞儀をした料理長さんは料理についての説明を始めました。これもきっと、お客さんに対する礼節の一つなのでしょう。彼の説明はとてもわかりやすく、面白い物でした。食材そのものは私達の世界とあまり変わらないようですが、名前が違ったりして、覚え直すのが大変そうです。
「それでは皆様、お召し上がりください」
にこやかな挨拶で締めくくられれば、手を付けてもいいという合図なようです。が、私達は皆困ります。どうしてって、テーブルマナーなんて一つもわからないからです。確か、フォークとナイフは一番外側から使うんでしたっけ。そのあたりも、国がやってくれる教育に含まれるのでしょうか。とりあえず今日はとやかく言われないようなので、冷める前に料理は頂きましょう。
「いただきます」
礼儀がどうなのかはわかりませんが、とりあえず手は合わせます。緊張する手でナイフとフォークを手に取って、メインディッシュらしいステーキにナイフを入れます。柔らかいお肉はそんなに力を入れなくても直ぐに切れました。おお、中はレアに仕上がっていて奇麗なピンク色。そんな高級ステーキなんて食べたことないですよ。中まできっちり火の通ったお肉しか食べたことない私の人生、初のレアのお肉ですよ。
恐る恐る口に入れれば、びっくりするぐらい塩辛かったです。うん……、濃い味付けが正義なんだね。素材の味を活かそうとか、そういう考えはないようです。
「しょっぱい……」
「せっかくのお肉なのになぁ……」
私が手を付けたのを見て、皆も一口食べたみたいです。うん、直球で美味しくないって言わなかったのは褒めてあげよう。ちらっと料理長さんを見れば、どことなく悲しそうな顔をしています。うん、私達の為に一生懸命作った物だもんね。あまり美味しくないっていう感想もらったら悲しいよね。
「私達の故郷とは味付けの仕方が違うようです。文化の違いでしょうから、あまり気を落とさないでください」
なけなしのフォローをしてみます。すると彼は慌てた様に頭を下げました。
「とんでもございません! 異邦からいらした方々へ、料理でおもてなしするのが私共、料理人の務めです! 皆様のお口に合わないのはこちらの不手際です、直ぐに違う物をご用意いたしますので……!」
「大丈夫ですよ、顔を上げてください。この料理も、味付けが濃いだけで食べられないわけではありませんし」
特急で料理が下げられそうなのを慌てて押しとどめます。どう頑張ったって、私達の舌に合う物は出てこないと思うので、そこに無駄な労力と食材を使う必要はないでしょう。食文化の違いは徹底的な擦り合わせと妥協、それから実際に食べて理解することが重要だと私は思っています。外国の方が、日本のファミレスやコンビニ弁当で感動するなんて話は良くあることですし。
「でもアレン、これは流石にしょっぱすぎて食べられないよ」
「サラダには何も掛かってないでしょ。小さく切ったお肉と、葉野菜を一緒にして食べれば少しは緩和されるんじゃないかな。あと、パンを一緒に食べるとか。行儀は悪いけど」
「……野菜嫌いなんだよなぁ」
「子供みたいなこと言ってる」
ぶすくれる宗士を、美雨が笑います。何気に同じことを隼も思っているようで、口には出さないものの親の仇のようにサラダを睨んでます。野菜嫌いって本当にもったいないとは思うんですけれどね。
「今回の料理はこのまま頂きます。皆さんが私達の為に用意して頂いたものに私達自身で手を加えながら、になりますが。作っていただいた事には本当に感謝しています。なので、そんな顔をなさらないでください」
「お気遣い感謝いたします。ですがやはり、無理をしてお召し上がりになる事もございませんので、残して頂いて一向に構いません」
再度頭を下げて、料理長さんは言いました。確かに味は濃いけれど、誤魔化せば食べきれないことはないでしょう。今回ばかりは多少の行儀の悪さに目を瞑って貰うことにして、私達は昼食を食べ進めました。
結局、完食したのは私だけでしたが。皆はさっきお菓子も食べてるもんね。そこに更に、明らかに過剰なしょっぱさの物を持ってこられたら食べきれないのも仕方ないよね。
食べ終わって手を合わせて、食器が下げられました。その手際のよさは流石なものです。メイドさんや執事さんって本当にすごいなぁ。
「たぶん、晩御飯も同じような物が出るよね?」
「だと思うよ。あれがこの世界の料理のスタンダードだろうし」
「考えただけで食欲なくなる……」
「もう少し薄い味付けにしてもらえれば食べられるんだけれどな」
「じゃあ、私達の舌に合う様な物を作って欲しいって、直談判してみる?」
提案が通る様子はありません。直談判も面倒ですからね。でもあの料理に慣れるまでは時間が掛かるでしょうし、正直私もあんなに味の濃い物は得意じゃありません。
「私、さっきの人に相談してみるよ」
「あたしも一緒に行くわ」
「わたしも」
「じゃあそれは3人に頼んだ。俺達は城の中見て回ってみるわ」
「面白いものあったらアレン達にも教えてあげるね」
「晩メシの時にまた会おうぜ」
「うん、そうしよう」
なんだかよくわからない役割分担ですが、これが私達です。離席して、成美と明香里と私は厨房に、美雨と隼と宗士は城の中の案内をそれぞれメイドさんに頼みます。やって来た厨房はとても広く、今もまだ沢山の料理人の方が忙しなく動いています。私達は今しがた昼食を食べ終えたところですが、他にも沢山のひとがお城で働いています。その人達の昼食を作ると考えたら、まだ忙しいのは当たり前なんですよね。
「失敗したなぁ。もっと後に来ればよかった」
「どうする? 声かけられる様子じゃないし」
「落ち着いた頃を考えるなら、後2,3時間はかかりそうだね。また後で来ようか」
邪魔にならない様にひそひそと相談していれば、私達の来訪に気付いた料理長さんがやってきました。あ、メイドさんが呼んでくれたのか。確かに有能なんですね、彼女達。
「すみません、お待たせいたしました」
「いえ、私達こそ忙しい時間に押しかけてしまって申し訳ありません」
「私共は全く構いませんよ。それで、やはり先ほどの料理についてですよね?」
「さっきの料理、やっぱりあたしたちには食べづらいですから」
「わがままでごめんなさい。でも、もう少しだけ味の薄いものを作れませんか?」
今さっきなので、流石に用件にすんなり入れました。申し訳なさそうな顔をしながら言う成美と明香里に、料理長さんは「尽力します」と答えます。嬉しい要求でもないのに、にこやかに受け入れた彼はとても器の大きい方です。
「あの、普段私達が食べている物を実際に食べて頂ければ、味付けの参考になると思うんです。お手透きになった時でいいので、料理の一つを作らせていただけませんか?」
こういう提案は、物語では割と通るものだけれど。料理メインの物語だからっていうのもあるんだろうなぁ。私達のこの体験は、どんなことがメインの物語になるんだろう。戦闘は避けたいなぁ……。
「なんと……、異邦の方は様々な物に精通しているとお聞きしますが、まさか料理もできるとは思いもしませんでした! ええ、もちろん、今後の参考にさせて頂きます。むしろこちらからお願いさせてください!」
「え、ええ、はい、わかりました。精一杯、作らせていただきます」
勢いよく頭を下げられてびっくりです。余計な事を考えている暇なんてありませんでした。とりあえず、了承は得たので料理を作るのは確定です。
私は成美と明香里を振り返りました。
「成美と明香里も料理、できる?」
「「…………」」
「揃って目を逸らさないで?!」
予想はしていました。ええ、していましたとも。気ままな一人暮らしで外食がメインの明香里と、実家暮らしで親の作ったお弁当を持ってくる成美。付き合い始めて3年目ですもん。そのあたりの事情は見えてましたよ、ええ。
「2人も、お城の探検行って来れば?」
「でもアレン一人で大丈夫?」
「ごめん、ストレートに言う。普通に邪魔」
「あ、はい」
手伝いもしないのに隣に立たれてると邪魔以外の何でもないんですよね。料理の手順を見たいとか、教えてるんでもなければ厨房では動かない人はいない方がいいです。流石に理解したのか、2人は気落ちしながらもまた後でとあっさり厨房を出て行きました。探検したいのは皆同じなようです。私もこれが終わったら早速探検しようと思ってますし。
「あ、でも今の時間じゃ私も邪魔ですよね。落ち着いた頃にまた来るとか」
「いや、今で問題ありません。周りは騒がしいかもしれませんが、隅の方にある調理台なら今は使っていないので。そこを使ってください。落ち着いた頃だと夕食の仕込みにかかってしまいますから」
「ああ、なるほど。わかりました。それじゃあ、お邪魔します」
という訳で私は厨房の隅にある調理台のところまでやって来ました。流石に立派なものです。
コンロが5つもあるし、オーブンも物凄く立派な大型の物。調理器具もプロ仕様。か、家庭料理しか作れない私が、触っていい物じゃない……! でもここで尻込みしていても仕方ありません。よし、作ってやるぞ、ただの一般家庭の料理を!
「そういえば、名乗ってませんでしたね。アレンとお呼びください」
「これはご丁寧にありがとうございます。アレン様ですね。改めまして、フンベルト・ボン・ラングハインです」
様、と付けられるほど偉くもないですが、ここは堪えましょう。異邦人は国が率先して扱うお客さんですから。料理長……ラングハインさんはにこやかな表情で丁寧にお辞儀してくれました。
「使っていい食材はありますか?」
「こちらの冷蔵庫に入っている物をお使いください。どれを使っても問題ありません」
「わかりました」
示された業務用冷蔵庫。バイト先でも見たことがない大きさの冷蔵庫ですね。開けて見ると冷ややかな空気が流れ出てきます。仕様そのものは元の世界の物と変わりありません。
「電化製品が普通に復旧してるんだぁ……」
「でんかせいひん?」
「あ、私達の世界にも同じものがあったので。それは電気で動いてるんです。これは、魔法で冷やしてるんですか?」
「ええ、その通りです。冷気の魔法が使える魔法陣が箱の中に描かれていましてね、それに魔石で魔力を注入して動かしているんです」
「へぇ、そうなんですね」
電池式の冷蔵庫って考えると、面白いなぁ。生き物に宿っているだけものじゃないんだ、魔力って。生き物が持っているのとは別に結晶化したものが魔石かな。そのあたりはどうなんだろう。早く知りたいな。
ともかく、作るメニューです。あ、でも材料だけあっても仕方ないですね。
「調味料は何がありますか?」
「お持ちいたしますね」
ラングハインさんは直ぐに調味料の瓶を持ってきてくれました。
「こちらがソール、これはペパー、この赤いのがハリーサです。こちらの瓶に入っている黒い液体はショユウです」
「塩と胡椒は殆どそのまんまなネーミングだ。醤油もあるのか……どこかのタイミングで異邦人が持ち込んだのかな。ハリーサは……どんな調味料ですか?」
「辛いです。チリルを潰してペーストにしたものですね」
「チリソースみたいなものかな。ソールみたいな見た目で、甘い調味料ってありませんか? お菓子に使うと思うんですけれど」
「シューガですか? お菓子作りには使いますが……、料理にも使われるのですか?」
「ええ、甘味も使いようによっては立派な調味料ですよ」
お願いして持ってきてもらえば、確かに砂糖です。調味料は殆ど揃ってますね。でも料理酒の概念がないらしいです。醤油はあるのに、みりんと日本酒がないのは不思議ですね。
「あの、お酒って何がありますか?」
「酒ですか? それも料理に?」
「ええ、私達の世界では良く料理に使われる調味料の一つです」
「不思議ですね、酒は飲む物でしかないと思っていました。お待ちください、酒もお持ちしますね」
こちらの世界の常識にないことを言っても、忌避せずに受け入れてくれる。とてもありがたい事です。異邦人と言う物に対しても理解がある様ですし、何十年に一度呼ぶと言ってましたし、この世界の発展は異邦人によってもたらされる物なのかもしれないですね。じゃないと醤油が存在している理由がわからない。
「お待たせしました。シャングリラ城で飲まれるのはワイン、ウィスキー、チョーチュウの3種類です」
「チョーチュウ……、ちょっと訛ってるのは聞き違いの所為かな……。うん、これなら十分。ありがとうございます。これだけあれば作れます」
顆粒だしみたいなのが無いのだけが残念ですが、なくても問題ないでしょう。冷蔵庫から鶏肉と思しきお肉を拝借して、照り焼きを作りです。付け合わせは塩ゆでのにんじんとじゃがいも。必要になる道具を一式そろえれば、調理開始です。
「まず、鶏肉にチョーチュウを掛けます」
「どうしてですか?」
「臭み取りと柔らかくするためですね。それに、香りづけにもなります」
計量スプーンがないので、目分量で大さじ3くらいを薄くした鶏肉にかけて、暫くバットの上に放置です。なんで軽量スプーンないんだろう。不便じゃないのかな。
「それしか使わなくていいんですか?」
「はい、全体が濡れる程度で十分ですよ。少し時間を置いてから焼き始めるので、今は置いておきましょう。この間に付け合わせを用意します。野菜の皮を剥きます。手伝っていただけますか?」
「ええ、もちろん。キャロルとポテトですか、グラッセ風にするんですか?」
「いえ、塩ゆでです」
にんじんはキャロル、じゃがいもはポテトなんですね。なんでじゃがいもだけは何の捻りもないんだろう……。醤油も焼酎も若干訛ってたのに……。
2人で野菜の皮を剥いて、にんじんは乱切り、じゃがいもは同じくらいの大きさにざく切りします。お湯を沸かす間に照り焼きの合わせ調味料を作ります。小型のカップに醤油、酒、砂糖を2:2:1くらいで入れます。酒は余り多くなくていいんですけれど、みりんがないので代用ということで。こちらも目分量で計ってカップの中で合わせて混ぜます。
「……それしか使わないのか……」
「ラングハインさんならどれくらい使いますか?」
「そのカップの下のところに付いている印を目安に使いますね」
確かによく見てみれば、カップにメモリが付いています。その半分も使いませんね、今回は。このメモリだと、60ccくらい? もうちょっと? 道理で計量スプーンがない訳だ。全部計量カップで計るなら、スプーンなんて使う訳がないですね。わけわからない位味の濃いものが出来上がる理由も其れでしょう。どうしてそうなったのだろう……。潤沢に材料があるから、多く使うのが富の象徴、となるのはわかるけれど……。調味料は贅沢する物じゃないと思うのだけれどなぁ……。考えている間に、鍋に張った水がぐらぐら言い始めます。
「お湯が沸きましたね、ここにソールを一つまみ入れて、キャロルとポテトを茹でます」
「それでは味が付かないでしょう」
「調味料は味を付けるだけのものではありませんよ。素材を良くするための物でもあるんです」
「はぁ……」
これは実際に食べてみないとわからないでしょう。散々味の濃いもので慣れた方が、素材そのものの味に気付けるかは、わかりませんが。置いておいた鶏肉に軽く塩胡椒を振って、強火で焼きます。ジュウ、と良い音がします。焼き目を確認してひっくり返して、表面に焼き色を付けたら調味料を投下して火を弱める。あとはじっくり火を通しながら調味料が蒸発するまで焼きます。
「野菜はもう大丈夫そうですね。上げて皿に盛り付けましょう」
「やりますよ。アレン様はメインディッシュに集中してください」
「ありがとうございます」
味付け以外は完璧ですからね、盛り付けは任せても何も問題ないのがいいです。たれをかけながら火を通すこと10分ほどでしょうか。いい感じに表面が照って、美味しそうな匂いがしてきました。さっき食べたばかりなはずなのにお腹が空く……。セルフ飯テロですね。
火を止めて、鶏肉を一口サイズに切って盛り付けます。最後に少しだけフライパンに残ったソースを上からかけてやれば、鶏の照り焼き、塩ゆで野菜添えの完成です。
「できました」
「ほう、とても美味しそうですね。いい匂いだ。頂いても?」
「もちろん」
召し上がってくださいと言えばラングハインさんは早速フォークを手に取りました。緊張の瞬間です。プロの料理人に素人の家庭料理を食べて貰うなんて、普通に考えたら可笑しな構図ですから。
「これは確かに美味い!」
「本当ですか? ああ、よかった!」
「ははっ、今まで自分が作っていた料理に自信がなくなりますね」
「そこまでは、流石にほめ過ぎかと……」
とりあえず、第一関門は突破のようです。大量の調味料を使わなくても、美味しい料理は作れるということを理解していただけたみたいで胸を撫でおろします。ラングハインさんはそのまま塩ゆでのにんじんを口にして目を丸くしました。
「何の味もついていないのに、美味い。……甘い? 野菜なのに、不思議な感じだ」
「ソールは塩味……しょっぱさを足すだけじゃなくて、甘さを引き出す効果もあるんです。お城で使われているお野菜はどれも一級品ですから、濃い味付けをしなくてもそれそのものが美味しいんですよ。サラダがドレッシングなしで食べれるくらい美味しかったので、もしかしたらと思ったんです」
「なるほど、野菜そのものが美味いのか。考えたこともありませんでした。料理とは、調味料で味付けしたものを提供するべきだと思い込んでいましたから」
なるほど、逆を返せば調味料で味付けされていないものは提供できない、と云う事だったんですね。だから、味が付いていると強調する為に濃い味付けになっていく。それが行き着いた先が、今のこの世界の料理なのでしょう。
「アレン様、ありがとうございます。ご夕食からはこの味を再現できるよう尽力します」
「いえ、こちらこそ我儘を聞いて頂いてありがとうございました。美雨達も喜んで食べてくれると思います」
自分が美味しい物を食べたいと思うのは当然ですから。これで食べ物の問題がなくなったと考えれば、ここでの生活も良くなりそうです。気付けば繁忙時が過ぎたようで、手の空いた料理人の方がこちらの様子を伺っています。退散した方が良さそうですね。
「では、私はこれで失礼しますね」
「出来る事なら料理についてもっと教えて欲しいものですがね、他の連中も手が空いたようですので、この料理を教えて、夕食に出そうと思います」
「楽しみにしています」
なにもそんなに急ぐ必要はないのだけれど。料理人としての性でしょうか。目を輝かせるラングハインさんは生き生きとしています。挨拶を交わして、私は厨房を出ました。なんだかいい仕事をしたような気がします。高々、一介の小娘がプロの料理人にケチをつけただけの話なのですが。楽しそうな、嬉しそうな顔をするラングハインさんの顔を思い出すと、悪い様にはならないと確信が持てます。夕食が楽しみです。