第三十一話:異世界でのパーティの準備は一旦お休みです。
連載を始めて1年と2カ月半。
予約投稿なるものを発見して、使ってみた次第。
これ使ったら遅刻しなかったやんけ、って半年くらい前の自分に言ってやりたいです。
7つ目の鐘が聞こえてから少しして、昼食の準備が部屋の中で行われている最中にスヴァンテ様がいらっしゃいました。
「お待ちしておりました」
覚えたてのカーテシーでお出迎えすれば、スヴァンテ様は嬉しそうに笑います。
「いえ、こちらこそ突然押しかけてしまって申し訳ございません。快く受け入れて下さったこと、感謝いたします」
美しいの一言に尽きる所作。私のカーテシーなんか霞んじゃいますね。流石、最初からこの世界の王子様として生を受けただけはある方だ。せめてビジネスパートナーとして相応しいくらいにはならないとなぁ。とりあえず部屋に招き入れて、昼食の用意された机に向かい合って座ります。
「お元気そうで何よりです」
「スヴァンテ様もおかわりないようで。先日はお手紙、ありがとうございました。お返事も出せずすみません」
「お気になさらないください。手紙に書いた通り、行き違いになりますから。また手紙をお送りした時にはお返事、お待ちしてます」
社交辞令みたいな挨拶を交わしつつ、昼食に手を付けます。
「それで、ご用件はなんでしょう?」
「まずは今日のパーティのことなんですけれど、アレン様のエスコート役を務めさせていただくことになりました」
「それは、よろしいのですか? 婚約されてる方はいらっしゃらないとは確かに聞きましたが……」
「英雄様と聖女様のお披露目パーティの慣例なので問題ありませんよ。今回は女性4名に対して男性が2名でしたので、ボクとファビアン兄様がそれぞれエスコート役をすることになったのです」
「そうなんですね。では、本番は宜しくお願いします」
「はい、精一杯務めさせていただきます」
エスコートがないと恰好つかないってことなんでしょう。これは国が決めてる方針だから私が口を出すことではありませんね。隼と美雨は固定として、宗士は明香里かな。いや、成美もファビアン様のことよく思ってないみたいだし、顔に出やすすぎるから、宗士は成美、明香里がファビアン様って組み合わせかな。その時にならないとわかりませんが。
「他にも何かありましたか?」
「用件という用件はこれくらいで、あとは単純にお話がしたくて……。パーティの間は落ち着けませんし、明日は朝一でアカデミーに戻るので今の時間がチャンスかと思ったんです」
どこか気恥ずかしそうにスヴァンテ様は言います。半分は予想通りだったみたいですね。わざわざ出向いて報告するようなことでもなかったのに、話がしたいがために直接、って感じだったようです。この前の話の続き、みたいな感じでしょうかね。気負うことはないようなので、それなら私も気軽にお話させていただきましょうか。お披露目パーティに向けて、落ち着かなかったし。緊張を紛らわせるには丁度いいですね。助かる。
「そうだったんですね。もちろん、喜んでお相手させていただきます」
「ありがとうございます。お声がけしてよかったです」
ホッとしたようにスヴァンテ様は言います。まぁ、最初から断られるとも思ってないでしょうけれど。断るなら昼食を一緒にどうかとお伺いをたてられた時点で断ってますしね。でも断られなくてよかったって思う気持ちもわかります。
「聖女教育が始まったと聞きましたが、どうですか? 簡単ではないとは思いますが」
早速、お喋りに移行するようです。それに思ったことや、疑問に思ったことなんかを率直に返せば、スヴァンテ様は興味深そうに頷きます。私も復習がてら、聖女教育で教えてもらったことを語れるのでとても楽しいです。
雑談していれば時間もあっと言う間で、9つ目の鐘が鳴りました。パーティまであと4時間ですね。まだドレスの直しは終わっていません。2人はしっかりと集中して作業を続けています。スヴァンテ様の位置からではパーテーションに遮られて見えませんが、私の位置からは進捗状況を確認できるように位置を調整したんですよね。進捗8割ってところでしょうか。今のペースならあと1時間もすればレース部分の直しは終わりそうです。流石、優秀ですね。2人とも。
「長居してしまいましたね、準備もあるのに、申しわけございません」
「いいえ、お気になさらないでください。どうせドレスの手直しが終わらなければ動けませんから」
「……それほど時間がかかるのですか?」
きょとりと目を丸くされました。まぁ、普通はそこまで時間は掛からないでしょうね。身体に合わせて裾上げしたり、袖を詰めたりするくらいでしょうから。うーん、どこまで言うかな。ブティックその物にダメージが行くと、関係ない従業員さんたちまで巻き込みかねないですし。
「少々面倒なドレスを選んでしまったものでして」
「そうなのですね。……それにしても、針子の姿は見えませんが」
「そこまで可笑しな状況でもないでしょう。第二王子がいらしてるんですから、目隠しの向こうで皆さん息を潜ませてるだけですよ」
適当にそれっぽい理由を付けてみましたが、スヴァンテ様は難しい顔をしてしまいました。誤魔化されてはくれないみたいです。まぁ、家名なしの聖女候補の噂は城にいれば誰でも聞くことでしょうし。子供達まで知ってた話ですからね。基本、アカデミーの寮にいるとは言っても彼も情報は入れてるでしょう。その噂が具体的にどういったもので、どんなふうに言われているのか私自身は知らないので、何をどう考えれば正解なのかはわかりませんが。
「女同士の戦いみたいなものですよ。ご心配は無用です」
「そう、なのかもしれませんが……、これはあまりに酷い」
ぐっと眉間に皺が寄りました。それが様になるんだからイケメンってのは得だなって思います。第二王子の見事に台無しになった顔を無意味に思い出します。やっぱり性格って顔にも出るんだなぁ。
「もし、必要ならボクの方から手伝いを出しますよ」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。私のシルヴィアは優秀ですから。今、作業をしてくださってるお針子さんも真摯な方です。パーティには確実に間に合います」
「そうですか……」
いたく残念そうです。スヴァンテ様、なんでこんなに私に懐いてるんでしょうかね。異邦の話をするだけなら他の皆でもいいと思うんですけれど。まぁ、でも同じものを知ってても満足できるレベルでの会話が成立するかはまた別の話ですし。聞きたい内容と話せる内容の相違とかで、私が一番都合がよかったっていうだけの話かな。私もスヴァンテ様とお話するのは楽しいので、ちょっと嬉しいですね。
「気にかけてくださってありがとうございます」
「いえ、ボクはその……、王族として、異邦の方がこちらの世界で過ごしていただくのに、不便がないようにするのは当然ですから」
「それは国王陛下のお仕事でしょう? スヴァンテ様がご自身でそうしたいと思ってるなら隠さなくていいことですよ」
「う……、アレン様には隠し事できませんね……」
「明らかに建前だってわかる言い方でしたよ、今のは」
まだまだ甘いなぁ。王族として、王位継承権を持ってる者として、英才教育を受けててもまだ経験が伴ってないみたいですね。まぁ、社会に出たことのない私に言われたくはないでしょうけれど。中高生くらいの子って考えるなら、本当にしっかりとした素晴らしい人物だとは思いますけれど。まだまだ子供だって思う部分があると、応援したくなっちゃいます。スヴァンテ様はちょっとだけ悔しそうにして、それから真っ直ぐ顔を上げました。一つ、覚悟を決めるみたいに深呼吸してから言います。
「今回この世界にいらして下さった異邦の方々の中で、ボクはアレン様が一番、素敵な方だと思ってます。なので、貴女に一番に協力したいと思ってます。困ったことがあるなら力になりたい。必要とあらば相応の支援をしたい。それはボク自身の紛れもない本心です」
これは建前抜きの本音ですね。真っ直ぐに「素敵な方」とか言われちゃうと、めちゃくちゃ照れますが。まぁ、うん、でも嬉しいな。こういうところで真っ直ぐな意見が言えるのも、まだまだ甘い子供って感じもしますが。清一郎さんたちが私達を「まだ若い」って評するのと同じことでしょう。先達の方達ってこんな心境で後続を見てるんですね。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
その覚悟に対する返答にしては、ちょっとあっさりだったかもしれませんが。照れ隠し込みってことで許してくれないかな。まぁ、ともかくとして。今後の後ろ盾になってくれるかもしれないって考えたらとても心強いですね。第三王子にどこまでの権力があるかはまだ未知数ですが。国王陛下の次くらいの盾にはなるかな。それなら必要な時には遠慮なく使わせてもらいましょうかね。今、ここで協力してもらうことはありませんが、暇つぶしくらいは付き合ってくれそうですしお願いしてみましょうか。
「そしたら、お時間があるようでしたらもう少しお付き合い願えますか? ドレスの直しが終わるまで暇なんです」
「ええ、もちろん。喜んで」
心底嬉しそうにスヴァンテ様は頷きました。ワンコって言葉が良く似合うなぁ、本当に。微笑ましく思いながら私はブラッドに飲み物を淹れてもらえるように頼みました。




