第二十八話:異世界での勉強はもう少し続きます。
小難しい話をこねくり回す閑話は以上です。
考えていくと本当、楽しくて。
いつまでも話が進まなくてすみません。
次回からちゃんと進めていきたい所存です。
本日の講義は魔法についてのお話です。魔法師団、魔法研究室の室長さんが直々に教鞭をとってくれるとの事。なんて贅沢。お仕事もあるでしょうに、有難いことです。まぁ、私にとってはやっぱり復習でしかなかったんですけれど。
魔文字と呼ばれる表意記号を並べ、そこに魔力を注ぐことによって現象を発動させる。言葉にすれば簡単な魔法です。現在、使われている魔文字は全部で53種。陣という形にした魔法は冊子にまとめられて、それを利用することでその場での魔法を使用する。
魔道具はその応用。魔石と呼ばれる、魔力を貯め、放出することのできる宝石を電池として、陣を起動させることで魔力の扱いに自信のない人でも安全に魔法で家電を扱えるようにしたって感じです。聞き覚えのある話をただ聞くだけってちょっと眠くなっちゃいます。私の歌による魔力操作を研究するためもあって、先にこの世界の魔法について色々聞いてますしね。
「この世界の人間の身体には魔力を生成し、貯蔵するための臓器があります。心臓の隣、ちょうど胸の真ん中にあるイメージです。しかし、異邦の方にはその臓器はありません。身体そのものに魔力が貯蔵されているのではないか、というのが通説ですが未だ解明には至っておりません」
臓器っていう単位で魔力を管理するこの世界の人間と、身体っていう単位で魔力を管理する異邦人、って感じですかね。そもそも、異邦には魔力はないわけですし。やっぱりこっちの世界に来る時に何らかの要素が働いて、身体に詰められるだけ魔力を詰めてるって考えるのが良さそうです。この世界で生きる為には魔力っていうものが必要不可欠で、でも元の世界にはそれがないから、空っぽの容器に魔力を注ぎ入れてるって感じ。この大量の魔力のお陰で、この世界に馴染めるってことですかね。不思議な世界には不思議な世界で、これまた不思議なことがあるものだ。
「このような身体機能の違いがあるので、この世界の人間と異邦人との間で子どもを作ることはできません。正確には産むことそのものは可能ですが、親子共に長く生きることはできず、記録では2年以内に亡くなるケースがほとんどです。親の持つ魔力がすべて子供に渡るのですが、その所為で親となる異邦人は身体機能に異常を起こし、子供の方はその膨大な魔力に身体が順応せず亡くなる、と記録が残っております。最後の記録は3世代前の聖女様のものです」
そんな制約あるんですね。でも考えてみればそうか。膨大な魔力を持ってて、且つ、時代を変える力を持つだけの優秀さが期待できるわけですから。王族とか、その血を混ぜたいって思うものですよね。でも歴代の異邦人がこの世界の人間と婚姻を結んだとか、その子孫です、みたいな話一個も聞いてない。異邦人とこっちの世界のハーフとか、いれば確実に顔を合わせてるでしょうし。光代さんたちも子供がいる様には見えませんでしたしね。こっちの世界では異邦人は結婚できない。異邦人同士ならまだしも、でしょうけれど。
あ、でもそれでも子どもに魔力が渡っちゃうから異邦人同士のカップルでも子ども作らないようには言われるんですかね。こっちに来た異邦人の子供もいないみたいですし。魔力っていう、元の世界にはなかったエネルギーの保有法の違いによって起きるのだろう、っていうのが定説で、これもまた解明されてないことだそうです。そもそもこっちの世界の人間は子供に自分の魔力を明け渡すなんてことは起きないようですし。これはあれですかね、世界のシステムが働いてるって話ですかね。こっちの世界にとって異邦人は本来いちゃいけない存在だから、異邦人の血が世界に混ざらないようにするための神様が作ったシステム。……あり得なくはないな。
で、直近の例を出すことで釘を刺しておくわけですか。何代かに一回くらいの頻度で事故るんだろうなぁ……。やるなって言われてもやるのが人間ですから。避妊しておけば大丈夫だろ、みたいな楽観思考でやらかすのもいたでしょうし。
……嫌なこと思い付いちゃった。気に食わない家の適当な子女に異邦人を襲わせて子供作らせれば、一家の評価を落とせると同時に邪魔になった異邦人を排除できる。すぐには死ななくても2年内に間違いなく異邦人は死ぬし、子供も残らないし。評判落とされた方はどれだけ陰謀だって声を上げても、その手の話は根強く残るもの。払拭されるまでどれだけ時間がかかるやら。事が上手く運んで襲わせたってバレなければ一石二鳥どころか一石三鳥だぁ。……これは私、気を付けた方がいいか?いや、そこまで考えるような奴は早々いないでしょう。そう願いたいです。
「魔法の扱いに関しては、座学が落ち着いた頃に訓練所にて指導させていただきます。最初は魔力を感知する訓練をします。それが安定してできるようになれば、ご自身の持つ魔力を操作する訓練。実際に魔法陣を使った魔法の操作の訓練、といったように、徐々にレベルを上げて訓練していきます」
本来はこの英雄・聖女教育で魔法の扱いについて学ぶ、とは最初に聞かされましたね。それを思いっきりすっ飛ばしちゃいましたけれど。まぁ、ちゃんと使えるわけじゃないから訓練は必要でしょう。自由に魔力を出し入れできるわけでもないですし。いちいち歌わないとならないっていうのも面倒ですしね。魔法訓練は楽しみにしておきましょう。
この世界における魔法概念についてのお話は以上のようで、7つ目の鐘が鳴る前に今日の講義は終わりました。早めに食堂に移動してきて、お昼の準備ができるまで雑談タイムです。内容はやっぱり魔法についてですね。
「魔法って呪文唱えてどーんって感じじゃないんだね」
「魔文字、だっけそれを組み合わせて魔法を作るって大変そうだよな」
「こっちの世界の言葉覚えるだけでも大変なのに、その魔文字っていうのも覚えなきゃいけなくなるってことだよね」
「そうね。思ってるよりもこの英雄・聖女教育って大変だわ」
「でも魔文字って漢字の派生形だから、元の漢字とイコールで結べれば難しくないと思うよ」
「そうなの?」
「うん。前に魔法師団の見学させてもらった時に、魔法研究室の子とそんな話ししたんだ」
「へぇ~、流石アレン。予習済みなんだ」
「そういうわけじゃないけれど」
興味があるから好き勝手聞いて回っただけですからね。みんなはこの辺りの話、聞いて来なかったんでしょう。まぁ、興味がなかったらわざわざ聞かないっていう気持ちもわかる。宗教関連のことも魔法関連のことも、興味があったから色々聞いたけれど、それ以外についての話は一個もわかりませんから。みんなはみんなで、私の知らない人の名前平気で出しますしね。美雨や明香里が話してるこの世界の流行の話とかも全然わからないし。宗士は騎士団の人たちと混じってずっと身体動かしてたみたいで、既に訓練兵の人たちと一緒に打ち込み稽古をしてたって聞いてましたし。隼と成美も、多くは語りませんけれどそれぞれに興味がある方面で色々やってたんでしょうね。……でも私程やらかしたって話が出てこないのがなぁ。やっぱりもうちょっと大人しくしておくべきだったか……。
まぁ、講義を受けている間はやらかすようなことは何も起きないでしょうし。やらかす暇もないでしょうし。正式に英雄・聖女になったら否が応でもみんなも注目されて、目立つようになりますから。私だけの功績じゃなくなる。今の悪目立ちも、そうなれば落ち着くと信じましょう。とりあえず今は目の前のやるべきことに集中して、その後のことはその時に考えるっていうことで。7つ目の鐘が鳴って、昼食が運ばれてきます。今日のお昼は鶏肉の醤油ソテーでした。




