第一話:異世界に召喚されちゃいました。
割とよくある異世界転移ものです。
魔法あり、魔物あり、戦闘はあるかな……?
とりあえず、のんべんだらり、月一くらいのペースを目標にやっていこうかなって思っています。
よければお付き合いください。
2022/11/11追記 故あって、構成変えました。冒頭部分を別枠に移しました。あとは何も変わりません。
2023/8/15追記 改めて読み返して、やっぱり二つに分けたいなって思ったので分けました。今後もこういった整理することがあると思います。内容は一切変わっていないので、ご了承いただけると幸いです。
いつもと変わらず、雲ひとつない空がちょっと恨めしくなる以外は特別なことも無い日。朝起きて、顔を洗っている間に食パンをトーストして、ティーバッグで淹れた紅茶と一緒に流し込んだら、出かける準備をして、でもおめかしのひとつもしないで、大学に向かうのが朝のルーティン。9時には始まる講義に間に合うようにバスに乗って、大学前のバス停で降りるとちょうど10分前。講義が行われる大教室に入ると5分前です。同じ講義を取っているはずの友人たちの姿がないことを確認して、溜息をつくまでがワンセットなのがちょっと悲しいですが。ソシャゲを回しながらぼーっとしていればチャイムが鳴って、講義が始まります。面白いかどうかと聞かれるとそうでも無いのが、なんとも言えません。日本語の表現について、近現代の文学を例に取り、語られるだけといえば、そうなので。
朝の眠気と戦いながら講義を聞いて1時間強。チャイムが鳴るよりも先に講義が終われば、次の時間は空きということで、『いつもの場所』へと向かいます。特に約束してる訳でもないのですが、仲間内での決まり事があります。そのひとつは集まる場所です。そこそこ広い大学の敷地で、約束もなしに目的の人物に会うのは中々現実的ではありません。なのでいつからか、C棟の3階にある休憩スペースが私達の集合場所になってました。5,6人なら余裕で座れる椅子とテーブルがあるだけの狭い場所で、人目につきにくく、講義が行われる教室も少ないので、ちょっと騒ぐくらいならお咎めのない場所。お昼ご飯もここで食べれます。他の人も来ないので空き時間の友達が、講義に行く人の荷物番をするなんてこともして、1日中占拠することだってあります。良くはないとは思いますけれど、怒られたこともないし、いいかなと甘えているのが現状です。多分、3年目ですし、大学側も諦めてるんじゃないかなって勝手に推察もしてます。
「おはよう」
「おはよー、アレン」
「アレン〜、さっきの講義の板書見せて〜」
「え、嫌だ」
「即答、流石アレン」
『いつもの場所』に向かえば、思った通りにいつものメンバーがお出迎えです。私以外の全員がきっちり集まってました。ちなみにアレンというのはあだ名です。チャットアプリに本名を入れるのが怖くてハンドルネームを入れた結果、あだ名として定着しました。今やそれが本名と思われている始末です。
「寝坊もサボりも自己責任でしょ、私は知らないよ」
「えぇ〜。まぁいいや、来週は出るから」
「口だけじゃないことを祈るよ」
彼女は羽山美雨。
栗色のパーマが特徴の、ザ・都会っ子です。おしゃれさんで、今日もバッチリとメイクを決めてます。耳元で揺れているピアスは彼女に良く似合う黄色いドロップ型の飾りがついたもの。明るく積極的で、物怖じせずに男女関係なく意見が言える気の強い子でもあります。とはいえ、可愛い見た目を維持する努力はできるのに、勉強にリソースをひとつも割かない、典型的な良くない大学生です。でもきっと、真面目に勉強すれば優秀でしょう。勉強嫌いだけが難点なんです。それが一番の問題でもありますが。
「来週は出なきゃな~、流石に出席ヤバイよな」
「あの講義は必修だもんな。昨日、先生から流石に出てねって言われたわ」
「なら出なさいよ……」
先に発言したのが、元町宗士。
がっしりとした体格に黒の短髪。いかにも体育系という外見に違わない体育系です。脳筋という言葉がここまでしっくりくる人もそうそういないだろうな、と思うような人です。本人も勉強嫌いを公言していて、じっとしているのも苦手。高々1時間くらいの座学も我慢できないくらいには身体を動かした方が性に合うと言って晴れやかに笑う、こちらも良くない大学生。
もう一人は豊崎隼。
宗士とは逆に細身の体型で、どちらかというと頭脳系。美雨の彼氏でもあります。なんでも、高校の時からの付き合いだとか。彼は真面目な方なのですが、流されやすい気質の様で、勉強嫌いの美雨に付き合って講義に出ない事が良くあります。あまり興味がない講義に耳を傾けるよりも、仲間達とあれこれ喋ってた方が楽しい、と云う事なのでしょう。気持ちはわかりますが、必修科目くらいは出て欲しい物です。というか、教授に声を掛けられるレベルなら出なさいよという話です。
「ねぇ、アレン。今日は何取り上げてた?」
「詩人が多かったかな。北原白秋とか、石川啄木とか」
「名前だけは聞いた事あるね。図書館に本あるかな」
「あるんじゃない? 有名どころだし」
彼女は吉田明香里。
肩口までの黒髪に簡素なヘアピンを挿しています。地方からやって来て、独り暮らしをしているそうです。大学に入るのを機にこちらにやって来たので、まだ都会に染まりきっていない感じが特徴、と言ったら失礼ですかね。独り暮らしで気ままにやっているからか朝は弱いようで、朝からの講義はいないことが多いです。食生活もまともにやっているわけではないらしいので、卒業するまでに大事にならないかだけが心配です。
「石川啄木は知ってる。『一握の砂』よね」
「うん。先生、めちゃくちゃ好きみたいでいつも以上に熱弁してたよ」
「あははッ、想像つくわね」
この子は門脇成実。
ブリーチのかかったウルフカットの茶髪に利発的な目元の眼鏡が特徴の子。真面目だけど、親からの自立を目的に沢山バイトをして貯金してて、そっちを優先するから講義が疎かになるという何とも言えない悪循環をしている子です。話を聞く限り、ちょっと遅い反抗期的なもののようですが、本人が真面目に語っているので頑張れとしか言いようがありません。前に一度、講義の方を優先してはと言ってみたら猛反発を喰らったので、余計なアドバイスは避けようと心に決めています。
この5人と、私。同じ大学に入って、同じ講義を受けた縁で繋がった仲間達です。色々とありましたが、3年は関係が続いているので良好な間柄で在る事には違いないでしょう。もう少しばかり、真面目に講義に参加してくれとは思いますが、それももう半分諦めです。自己責任ですし。
「近代文学ってそこまで面白いか? まるでわからん」
「宗士には無理だろうねぇ」
「うわっ、ひでぇ。でも言い返せないのが現実なんだよなぁ」
「あたしも高校で『山月記』とか『こゝろ』とかやった覚えはあるんだけど、内容全然覚えてないわよ」
「『山月記』はウチも覚えあるな~。いきなり漢詩出てきて、なんで現文で漢文やらされんの! って思ったもん」
「中島敦は中国文化について詳しかったらしいね。漢詩の勉強とかしてたんだって」
「へぇ」
「わたし、それ知らない。『山月記』ってもしかして都会で必修?」
「どうだろう。教科書には載っててもそれをやるかどうかは教員次第らしいし。俺は読んだ覚えあるけれど授業でやった記憶はない」
「……隼と美雨って同じ高校でしょ? 美雨がやった覚えあるなら、隼もやってんじゃない?」
下らない話題に花が咲くのは、次のチャイムまでの間です。次の講義の時間は、美雨と隼と明香里が居なくなるので、少しだけ静かになります。本当に彼等が講義に行けば、の話ですが。多分、行かないんだろうなぁ、と思いながらもみんなと会話をしている時でした。
ゴーン、と。
低く重たい、鐘の音がいきなり聞こえて来たのです。いつも聞くビッグ・ベンのチャイムではありません。除夜の鐘のような、大きな鉄製の鐘を丸太で撞いたとでも言えばいいのでしょうか。私だけに聞こえたのなら、間違いなく空耳だと思ったでしょう。でも、それはここにいる全員に聞こえていたようです。誰も彼もが怪訝そうな顔であたりを見渡しています。
「なんの音?」
「鐘、だよな」
「チャイムじゃないわよね」
「え、ちょっと……、怖いんだけど……」
「誰かのスマホの着信とかじゃねぇのか?」
「ボケるところじゃないでしょ」
何事かと身構える私達。二度目の鐘の音が響きます。美雨が大袈裟に肩を跳ねさせて、隼が手を握りました。明香里は成美の裾を掴んでいて心細そうです。何が起きてもいいように、宗士は辺りを警戒しています。三度目の鐘。それと同時に、足元が光り出しました。
「なっ?!」
「なによコレ?!」
直ぐに離れればいい物を、驚きの余り誰もその場から動けません。……後から思えば、動けないような仕様になっていたのかもしれませんが。四度目の鐘の音が聞こえてきて、視界が光で塗り潰されました。腕で顔を覆って、堅く目を瞑ります。私が顔を上げたのは歓声が聞こえてからでした。
わかりやすい喜びの声。
決して多くはない数の声でしたが、どんなスタジアムよりもよく響いていたと思います。反響しやすい素材で作られた部屋であった、という事情もあるのでしょう。そんなことはともかくとして、顔を上げてみると、そこは見慣れた大学のC棟の3階にある休憩スペースではありませんでした。いかにも怪しいローブを着た方々が、床に描かれた大きな模様を取り囲む、いかにも怪しい薄暗い部屋。
「ああ……」
その光景を見た私は、何故か納得した声が出ました。実際、納得してしまったのです。大いに混乱していて、混乱しすぎていて、逆に冷静だったのでしょう。
「テンプレ展開だ……」
嘆きに似た呟きは、どうやら歓声に掻き消されたようでした。