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生産性向上を目指します(二)

次の章まで二分割しました。

既に読んでいらっしゃた方はお手数をおかけします。

今後も6000字前後で話を区切る予定です

※   ※   ※


「終わった……」


生産性向上計画を行ってしばらく経った。


最初はバキバキに筋肉痛だったし、正直タイムスケジュールがきつきつな部分もあったが社畜的にはお得意先回りのために一日一万歩歩くのも普通だった。


それゆえ何とか踏ん張れるレベルだ。


というかそう言い聞かせないとやってられない。


まずはメイドの仕事をみっちり仕込んでもらいつつも、いろいろ前世の知識を生かして時短テクニックで掃除を行っている。


シルバー磨きは水と重曹の割合を三対一にして、アルミ箔と一緒に煮る。


これだけでもだいぶ落ちるし、さっと拭けば簡単に汚れが落ちる。


これはマーガレットが残業でやっていた業務だったので残業がなくなったと喜んでいた。


これで夜の蝋燭代が節約できるので一石二鳥だ。


次に導入したのは廃油で作るプリン石鹸の導入だ。皮脂や油汚れが劇的に落ちるこれは、廃油とご飯と苛性ソーダで簡単に作れる。


これも洗濯に導入してほかのメイド仲間であるサーシャ、マーシャの双子メイドにめちゃくちゃ感謝された。


鍋などの油汚れに苦戦していたファゴにも勧めたが渋い顔をして無視された。


無理に押し付けたが使っているところは見たことがない。


汚れは簡単に落ちるということは水道代の節約にもなるというのに……。


水道代の節約ということで、米のとぎ汁と新聞の掃除を導入して窓ふきや床拭きを行い、ワックスがけと汚れを落とすということも導入している。


初日に雑巾でこれをやったのはよかったが、あまりに腰が痛くなるのと非効率ということでクイックルワイパー的なものも導入して、拭き掃除の労力を軽減した。


などなど……。


こうして家事改革は進んでいった。


そして、仕事がひと段落したら、夜に本日の家計簿をつける。それがアドリアーヌの一日のローテーションだった。


さすがに連日の勤務で眠気が襲ってきているが、最後までやらないと明日また怒涛の日々が待っているのだ。


今日も今日とて家計簿付けが待っている。


「ねむ……なんか飲んで目を覚ますかぁ」


そう思ったアドリアーヌはキッチンへと足を向けた。


「あれ?明かりがついている。もう……疲れるから残業やめてって言ったのになぁ……」


もし残業しているのなら、その業務を改善させなくてはならない。


「何してるんですか?」


アドリアーヌが声をかけるとそこにはファゴが何やらごそごそと作業をしている。


明日の仕込みはほとんど終わったと思っていたが何かやり残していたことがあるのだろうか?


アドリアーヌの言葉にファゴがびくりと肩を震わせたかと思うと、ギギギと音が出るのではないかと思うほどにぎこちなくこちらを振り返った。


「あれ……ファゴさん?」

「は!……お……お嬢さん……!」

「どうしたんですか?こんな時間に」

「いや……ちょっと……気になることがあって……な……」

「何か残業ですか?手伝いますよ」

「いや!なんでもない!お嬢さんもなんだってこんな時間に」


明らかに動揺しているファゴの手にはスポンジが握られている。


それに目をとめると、その先にはプリン石鹸が置いてあった。


「これって……」

「あいつらが……よく落ちるっていうもんだからよ……」

「あ!使ってくれたんですね!どうですか?落ちました⁉」


以前渡した時にはファゴは鼻で笑っていたし、その後何も言われていなかったのでファゴの反応が気になって聞いた。


するとファゴは口ごもりながら言った。


「ま……悪くは……ないな」

「あぁ、この鍋ですね。気になっていたんですよ。薄汚れていたし、スープの色が見えにくいんじゃないかなぁって」


ファゴのまずまずの反応にアドリアーヌは嬉しくなった。


良かった。これでまた少し水の節約にもなる。ファゴが使ってくれれば食器洗いにも使ってくれるだろうし、さらに水が節約できるだろう。


気まずそうなファゴは一つ咳払いをした。


「ごほん……それで、お嬢さんはこんな時間に何してんだ?」

「あぁ、家計簿つけたいんですけどさすがに眠くて。飲み物と簡単な夜食でも食べようかなぁって」

「はぁ?まだこれから仕事すんのか?これまでも日中の仕事はきつきつじゃねーか⁉」

「そうですけど、一応ノルマはこなさないと」

「それにしたって……」

「私、売られた喧嘩は買う主義なんです。リオネル様に吠え面かかせてやりたいですからね」


アドリアーヌは冗談交じりに言うと、ファゴは肩を震わせたかと思うと大きく笑った。


「それでここまですんのか?ずいぶんな負けず嫌いだな。いや……骨があるってもんだな」

「それはどうも。……それよりファゴさん、このパスタのあまりもらっていいですか?」

「いいけどよ。もう冷たいぜ。捨てようと思ってたものだしよ」

「大丈夫ですよ」


アドリアーヌはそう言って最近覚えた竃を使い始めた。


最初の火入れと火の加減はやはり難しい。ファゴの様子を見ていたし、見様見真似ではあった。


だが小学校の時の林間学校でやったことを思い出して何とかできる程度には扱えるようになった。


(林間学校で"なんで火起こしからカレーを作らなくちゃならないんだ"って思っていたけど、こんなところで役に立つとは……。本当に何が役立つかはわからないものねぇ)


そんなこんなでまずはパスタをつぶして板状にして、そのあとにミートソースをかける。最後にチーズを掛けてオーブンでさっと焼いた。


「なんだこれ?」

「えーっと、ラザニアもどきってやつですね。食べてみます?」


前世の伸びるチーズほどではないが、カマンベールも伸びるし見た目はあれだが食べれないこともないだろう。


アドリアーヌとラザニアもどきを交互に見たファゴは胡散臭そうにして一口食べてポロリと言った。


「うまい……」

「でしょ?あんまり食べると太っちゃうのでちょっとだけ食べるつもりだったんで、よかったらファゴさんも消費に付き合ってください」


(うん……適当レシピだったけどまぁまぁかな。ほかにもパスタを有効利用する方法も考えようかなぁ)


そんなことを考えて食べていると視線を感じてアドリアーヌは顔を上げた。


ファゴがアドリアーヌをじっと見つめた後、はぁと大きなため息をついた。


「認めてやるよ……あんたのおかげで仕事が楽になった。火の扱いも……見よう見まねでよくやったよ」

「本当ですか!?」

「あぁ。あんたは立派な使用人だ。ってのも変だな。とにかく、リオネル様がなんか言っても使用人代表として一発言ってやるよ!」


あの見るだけで殺されそうなリオネルの視線を受けて、ファゴは大丈夫なのだろうかと思いつつ、そう言ってもらえるのは素直に嬉しかった。


「ありがとうございます!!」

「本当に頑張ってる。だから……その、無理はするな。コーヒー淹れてやるからさっさと飲んで仕事片付けて寝ろ」

「はい。じゃあ、コーヒーいただきますね」


そうしてアドリアーヌはコーヒーを片手に自室へと帰ることにした。


廊下を歩いている時にも、ファゴにも認められたことの嬉しさを噛みしめていた。


例えリオネルに気楽なお貴族のお嬢さんと思われるままでも、こうしてみんなの役に立てただけで本望だ。


その時だった。


「……なにか……泣き声しない?」


アドリアーヌは聞こえてくるか細い声に足を止めた。


この時間、みんなは寝静まっているはず。なのに、どこからともなく聞こえてくるこの声は何だろう。


(まさか……幽霊……とか?)


これだけの歴史のある屋敷だ。幽霊が出てもおかしくはない。


が……アドリアーヌは科学では証明できない得体のしれないものだけは大の苦手だった。


ホラー映画やゲームでさえも見るのも嫌だし、ちょっと目にしてしまった日には寝れなくなるほどだ。


だが、人間は怖いと思ったものを確かめずにはいられないものである。


アドリアーヌも声の方にゆっくりと進んでいった。


初日にシシルに立ち入らないで欲しいと言われた廊下の方だった。


一瞬そのことを思い浮かべて躊躇したが、これまでもずっと泣き声が聞こえてきたし、やはり根本解決は必要だろう。


廊下を少し進んだところで部屋の扉の隙間から明かりが漏れていた。


(ここって……誰の部屋でもないわよね。でもここから声が聞こえているような気がするし)


アドリアーヌはドアノブに手をかけつつ、小さくドアをノックした。


その時、泣き声が一瞬止まった気がしたが、なんのレスポンスもない。


アドリアーヌは意を決してそおっと扉を開けた。


そしてそこには……天使がいた。




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[一言] 蝋燭使う背景の世界で、アルミ箔やご飯や苛性ソーダがあるんか…!日本製エンタメコンテンツの異世界便利!
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