これがざまぁというものです(二)
「アンジェリカ?使者殿と知り合いなのか?」
「使者?」
「あぁ、この者がクローディス殿下の夜会の招待状を届けてくれた使者だが……」
そんな二人を見ながらロベルトはいつもの王子様スマイルを浮かべた。
ある意味白々しい演技でもある。
ロベルトは一歩アンジェリカに近づく。
「やぁ、お花さん。またお会いできて光栄だよ」
「どうして……ここに……?」
「どういうことだ?確かにこの間俺の主催で歓迎の夜会を開いたが……君も会ったのか?」
「い……いえ……」
戸惑うアンジェリカの不自然な様子にルベールも戸惑いの表情を浮かべている。
「……アンジェリカ、どういうことだ?」
言葉に詰まっているアンジェリカを見ながらロベルトはもう一歩近づくと、アンジェリカは反射的に一歩後ずさる。
それをただ事ではないと感じたルベールはアンジェリカとロベルトの元に割って入り、庇う様に立った。
「君、どういうつもりだ!アンジェリカを怖がらせているじゃないか!」
「僕は僕の恋人を迎えに来ただけだよ」
「恋人だと?」
ルベールの眉がピクリと上がった。
「〝あぁー愛しい人。どうしてあなたは私を置いてメイナードなどに帰ってしまうの?〟」
そう言いながらロベルトは一枚のカードを懐から取り出した。
「せっかくの情熱的な君の言葉を皆にも教えてあげたいな。続きを読んであげよう。『ロベルト、私はあなたを心の底から愛してしまった。でも許して。私がメルナードに行くにはクローディス殿下にお会いしなくては。あの月夜のことは私も忘れていないわ。心変わりなんて絶対にしないからクローディス殿下にお会いさせて頂戴。愛する私の王子様へ アンジェリカより』」
ゆっくりと歩きながら意味ありげにロベルトはアンジェリカに視線を送る。
それを遮るようにアンジェリカの声が響いた。
「止めて!」
「愛……だと?嘘だ……アンジェリカは俺の恋人だ!そんなはずはない!」
「じゃあ、その首筋の跡はどう説明するわけかな?」
「跡?」
その瞬間アンジェリカは首筋に手をやった。
「ほら、そのチョーカーを外せば動かぬ証拠になるかな?僕が外す?それとも元カレのルベール殿下に外してもらった方がいいかな?」
ルベールはその言葉に弾かれるようにアンジェリカのチョーカーを乱暴に外した。
アンジェリカは短い言葉を発してそれを止めようとしたが、時はすでに遅く、その首筋にくっきりと残された口づけの後があらわになった。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!アンジェリカはそんな女ではない!」
「では、これはどうかな?」
そう言ってクローディスもまたカードを取り出した。
「先ほど証言を得たようにこの家紋はラスター家のものだと先ほど証言を得たな。これも読み上げようか?アンジェリカ嬢」
正直に言おう。
アドリアーヌはラスター家を叩くとは聞いていたが、事の顛末がどうなっているのかは分からない。
要は何が起こっているのか、アドリアーヌ自体も状況が飲み込めないでいた。
(えっと……ロベルトがアンジェリカに何か罠を仕掛けているのよね?多分ルベール様を裏切らせるとかそういう類だろうけど……クローディス殿下とアンジェリカがどういう繋がりになるわけ?)
だが当のアンジェリカは何らかの罪が暴かれることの恐怖からか青ざめたまま呼吸を荒くしていた。
ちんぷんかんぷんといった表情のアドリアーヌに向かって、そして同時にルベールにもクローディスは笑いながら説明交じりに言ってくれた。
「ムルム伯爵の力を借りて、少し調べたことがある。アドリアーヌが国外追放になってからのグランディアス国の内情だ。グランディアス王国の筆頭貴族でもあるミスカルド家はアドリアーヌが国外追放になったことを受け、責任を取る形で第二王子ルベール殿下から距離を置いて領地に引きこもった」
アドリアーヌも国外追放された段階では家に見放されてこの地に追いやられたが、実家のミスカルド家がどうなったかは少なからず心配であった。
(まぁ、あの両親のことだから……ダメージなんて受けてなさそうだけどね)
アドリアーヌの予想は当たった。
「まず筆頭貴族で公爵家のミスカルド家が政治を離れたことで正直国政が回らなくなった。その上で第二王子支持を取りやめ、第一王子支持層へと近づいた」
ある意味で愛娘を国外追放した国王と第二王子に対する復讐といったところだろう。
第一王子は聡明ではあるが側室の子でもある。
しかも本妻のグランディア王妃が彼の命を狙っていたのだ。
ただ、ミスカルド家は第一王子の母親の遠縁であり、王妃から睨まれるのを避けるためと、第一王子を陰から守る代償としてアドリアーヌを王太子妃に据えることで恭順の意を表していたに過ぎない。
だが、国政が乱れたことによりいかにミスカルド家の力が偉大であるかを示し、王妃への牽制をするとともに、第一王子擁立で王家への反旗を翻した形となる。
(まぁ……それだけウチの家は実は無駄に権力があるからなぁ……)
「ここで焦ったのはラスター家と第二王子の恋人であったアンジェリカ嬢、あなたですよ。ルベール殿下の婚約者になれば王妃の座も手に入れられるのに、第一王子が王位を継ぐことでほぼ決定となってしまった」
「なんだって……兄上が王位を?」
「おや、王太子殿下はそれをご存じない?そうですよね。アンジェリカにうつつを抜かし、貴族たちがどのようにあなたを見ているのかも知らなかった。そもそもアドリアーヌを手放したことで政治バランスが崩れた事にも気づかないとは。それに……貴族たちの心がルベール殿から離れた要因はアンジェリカ嬢にもある」
「わ……私?」
「あなたはアドリアーヌの跡を継いで王太子妃教育を受けたがほとんどの授業をすっぽかしていたそうだね」
「すっぽかすなんて人聞きが悪いわ。ルベール様が休んでいいとおっしゃったわ。君の自由に生き生きと生きる姿が好きだから無理に王太子妃教育を受けなくてもいいって!アドリアーヌみたいな堅苦しくてつまらない女になる必要はないって!」
「そうだ!俺が許可したんだ!」
「その結果、彼女は王太子妃としては相応しくないと判断され、それを容認しているルベール王太子殿下の評判も下がったんですよ」
一度は嫁ぐことを決めていたルベールからの言いようにアドリアーヌは若干傷ついたが、それよりもこのような事態を考えなかったルベールに対する呆れの方が強かった。
(だから、何度も一人の貴族への肩入れは良くないって忠告したのよ!)
「話を戻そうか。第一王子が王位を継ぐことになった時点でアンジェリカ嬢は焦った。王妃の座を貰えると思ったのにその計画が泡となってしまった。そこにメルナードからの使者としてロベルトを使者として送らせてもらった。美しいと評判のグランディアス国第二王子殿下の恋人と一目お会いしたいと……」
「あれは……罠だったのね……」
あと一話でざまぁが終了します。
もう少しだけお付き合いください




