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悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか~  作者: イトカワジンカイ


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それは太陽のような-Sideサイナス(二)


本日の目的はアドリアーヌに対するリオネルの謝罪のためだ。


だが元々少ないリオネルの口はさらに重く、言葉が少ないために謝罪はものの数分で終わってしまった。


早々にお暇するつもりだったが予想外にもムルム伯爵からディナーの誘いを受けることになった。


この機会を逃す手はない。


サイナスとしてはこの機会に色々と探りたいと思った。


寡黙で実直なリオネルがこうまで心を奪われたのも、他人に無頓着なロベルトが執着を見せたのも何故そうなったのか気になる。


(何よりもクローディスに不利益をもたらす存在かが問題だな)


アドリアーヌもディナーに誘うと、アドリアーヌの表情が固まったような気がした。


わずかな表情の硬さだが、サイナスはこういうのには目ざとい。


そうでなければ古狸の多い貴族社会では生きていけない。


「……わ、分かりました……。まずは準備をして参りますね。では失礼します」


だがアドリアーヌの表情の変化はすぐに消え、優雅に一礼をしたアドリアーヌは扉を閉めた。


まさか次の瞬間にダッシュしていることなどはさすがのサイナスでも気づかなかったのだが……。


やがてドレスに着替えてディナーにやって来たアドリアーヌは確かに公爵令嬢然としていた。


さすがは元王太子婚約者で王太子妃になる予定だった人間だ。


礼儀もマナーも完璧だった。


「さぁ、ではディナーを始めようか」


ムルム伯爵の声で始まったディナーだったが、目を見張ったのはそのメニューだ。


最初には酒を酒で割ったキールという食前酒が出される。


「これは……不思議な味わいですね」

「お口に合わなかったですか?」

「いえ……逆です。ワインに……なにか混ぜてある?」

「はい、クレームドカシスを混ぜてあります」

「酒に酒を混ぜるのは……なかなか面白い発想ですね」


始めは何かと思ったがなかなかの味わいで飲み口もいい。


目新しいものを好む貴族に提供すれば喜ばれるかもしれない。


そして続くのはニンジン入りのパン、ニンジンのポタージュ、そしてニンジンのグラッセとニンジン尽くしだ。


こんなにニンジンが好きなのかというほどのニンジンの数々に驚く。


だがそれがどれも美味しいし、そのメニューの内容も逆に面白く感じる。


しかもそれを考案したのはアドリアーヌというのだから驚きだ。


(……グランディアス王国ではこういうニンジン尽くし料理が流行っているのか……?表敬訪問が近々あるからその時のネタにしよう)


その時、今度はリオネルがアドリアーヌの些細な変化に気づいた。


「体に気を配れと言ったはずだ」

「えっ?」

「その右手。傷をつけているだろう。庇って食事をしているが……違うか?」

「違い……ません……」


サイナスは文官であることから人の表情や機微などには目ざといが、リオネルは武官であるがゆえに身体の変化に目ざとい。


僅かな怪我等はすぐにばれてしまう。


さすがリオネルと思うが問題はそこではない。


もしかしてと思って聞いてみる。


「と言うことは、これはアドリアーヌ嬢が作ったのですか?」

「はい……使用人の真似事と怒られてしまうかと思いますが……できる限りは協力しているつもりです」


その瞬間、サイナスの中には驚きと興味が同時に存在した。


(マジか!?この女がこの料理を作ったのか!?…………メニューを考案して作るとか…………本当に公爵令嬢なのか?)


にわかには信じられない。


ここまでで分かったのはアドリアーヌがかなり普通の貴族令嬢とは異なっているということだった。


毛並みの変わった令嬢ということでリオネルとロベルトは新鮮に感じ、何かしらの好意を持ったのだろう。


だが、サイナスとしてはそこに興味はない。


ステレオタイプではない令嬢など少ないもののサイナスの周りにもいるのだ。


それよりも確認したいことは別にある。


サイナスはゆっくりと言葉を選ぶように話題をすり替えた。


「リオネルから聞いてますよ。賭けをして今では立派に仕事をこなすとか」

「いえ、私などまだまだです。早く伯爵への恩に報いたいのですが……」

「賭けと言えば……あなたが作成した資料を拝見しましたよ。ずいぶん計算された文章でしたね」

「いえ……あのくらいならば皆さん作れますよ」

「それに巷では経営コンサルタントと言われているではないですか?あなたは能力が高いのですね」

「経営コンサルタント!?いえ……先ほども言いましたが小娘の戯言。経営コンサルタントなどおこがましいです」


そうおだててみればアドリアーヌは謙遜をする。


ただの謙遜ではなく本心からのようだったのは意外だった。


アドリアーヌという人間は謙遜はしてもどこか斜に構えるような人間ではないかと想像していたからだ。


公爵令嬢であるなら口では謙遜しても心の中ではそうは思っていないとなるのではないか?


そこでサイナスは一つアドリアーヌを試してみることにした。


「謙遜を。あぁ、僕からも一つ相談をいいですか?」

「私でお答えできるのであれば」


「最初に一つ言っておくと、あの資料からは伯爵家全体の経済状況は分からなかったので、ご安心ください。それで……可能な範囲でお答えしていただければですが、我が家の財政も少し引き締めたいと思っているのですよ。やはりあの資料にあったように食費の削減と家事改革……あたりですか?」


「そうですね……」


花屋でのやり取りでアドリアーヌはガディネ家が宰相家だと知っている。


そんなガディネが本気で財政難だとは思わないだろう。


それなのに財政を引き締めたいというのは少々難題でもあった。


ムルム伯爵のように食費削減などでは到底効果は薄い。


張りぼて経営コンサルタントであればムルム伯爵家の対処と同じものが返ってくるはずだ。


(さぁどうする?)


少々の期待といたずら心で見ていると、アドリアーヌは暫し考えている。


何を考えることがあるのだろうか?


どうせムルム伯爵と同じことを言うに決まっていると思っていたサイナスは若干の驚きを覚えた。


「ちなみに現時点で使用人の方々の給与はいかほどですか?」

「そうだね……」


急に給与の話になり、サイナスは戸惑った。


その後も使用人の待遇について聞いてくる。


そして最後にアドリアーヌから出た結論としては〝実力主義の導入〟だった。


そのために使用人たちの意識改革が必要だということだ。


それまで使用人は決まった仕事を決められた通りにすればいいのが普通だ。


そこに余計な思考など不要。


なのにその使用人に自分から考えるということを与えることを要求したのだ。


最後には財政における年間計画。


それを半年ごとの修正の指摘。


(これは……面白い視点だ。この国に何かしらのメリットを与えるかもしれねーな。使える……)


にやりと心の中で笑ったサイナスではあったが、やはりアドリアーヌの存在は不安要素なのは変わらなかった。


アドリアーヌはサイナスにとっては興味深い存在にもなったが、だからこそ手元に置きたいと思った。


現在メルナードの国の財政は逼迫している。


長く続いていた戦争により軍事費がかさんでいるのと、一部の貴族が税を誤魔化しているために税収が少ないのだ。


このままではクローディスが王になる頃には赤字国家になり、どこかの国に蹂躙されてもおかしくない。


それを何とかしなくてはと思っていたサイナスにとっては、アドリアーヌの存在は何らかの視点を与えてくれ、現状打破の一手になると思ったのだ。


(この女のコンサル能力を悪徳貴族に利用されても問題になるな。ここは大人しくこっち側に引きずり込むか)


そう思ってアドリアーヌに王宮で働いてみないかと打診しては断られる。


今より良い暮らしができると提案することにした。


「公爵令嬢ともあろう方が贅沢な暮らしはしたくないのですか?聞けばムルム伯爵邸での生活は非常に質素だったということではないですか。王宮の給与であれば好きなドレスも宝石も買えますよ」


「私はこの街で平穏に暮らすことが夢なのです。貴族社会を離れてゆっくりと地に着いた生活をする。多少の小銭はコンサルの仕事で賄えますし、過分な贅沢もしたいとは思わないのです。贅沢だけが幸せのバロメータではないですから」


そう言うがそれが本心かは分からない。


サイナスが見るところには本気でそう思っているようだったが、いつ心変わりをするかも分からないし、いつ他の貴族に目を付けられるかも分からない。


貴族に目を付けられる前に早々にアドリアーヌを囲う必要がある。


焦るサイナスは今度は色仕掛けで動くことにした。


「今は女性としてのあなたに魅力を感じています。あなたは聡明で美しい。私との人生のパートナーになってくれたらなどと思ってしまうのですよ」


ガディネ家はこの国では屈指の家柄だ。


将来的にはサイナスが宰相になることもほぼ確定の事実だ。


サイナス自身は何とも思わないが悪くもないらしい顔のお陰で、妻の座を狙う人間は数知れない。


一言甘く囁けば熱を上げる女など数多くいる。


これはアドリアーヌにも一定の効果があったようだが、それでも陥落には至らなかった。


(ちっ、しぶといな。とにかく今日は引くか)


あまり熱烈に求愛しても後々面倒にもなるかもしれない。


焦る気持ちを一旦落ち着けるように思ったサイナスは、裏の感情を感じさせないいつもの笑顔でアドリアーヌに返答した。


「ふふ……まぁ、今日はこのくらいにします。ですが、僕は諦めが悪いので、またお誘いしますね。公事の方も考えて欲しいですが、私事の方の誘いも前向きに検討ください」


そう言ってアドリアーヌを見送ったサイナスはまた内心で舌打ちした。


色々と面倒な女だ。


さっさと陥落してくれればサイナスもこんなに煩わしいことをしなくても済むのだ。


(ちんくしゃ女のくせに生意気だ)


アドリアーヌの顔は別段醜いわけではないし、寧ろきつめの美人ではあったが、なんとなくそれを認めるのが癪でサイナスは心の中でどついた。


だがその後、まさか脅しの現場を見られ、自分の本性がばれるとは、つゆとも思わなかったのだった。


サイナス視点もう少し続きます。

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