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悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか~  作者: イトカワジンカイ


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これって運命?偶然?(二)

だが、アドリアーヌはすぐに自分の行動選択が誤ってたことに気づいた。


夜会の庭園……そこは逢引の場に変貌を遂げている。今までグランディアス王国王太子の婚約者ということで、会場内にいることがほとんどで夜会の庭園などに出たことはなかったため、まさかこんな風に活用されているとは知らなかったのだ。


薄暗がり……夜会と言えば出会いの場……


いわば社会人が合コンで意気投合して、燃え上がったままに夜の公園で愛を語り合う……的な感じだ。


(ここにもカップル……ここにもカップル……)


逃げるように庭園を彷徨っているうちに、屋敷からだいぶ離れてしまっていた。


だが、ここは人気もなく、少しゆっくりできるだろう。


近場にあったベンチに座り空を見上げると上弦の月が浮いていた。闇夜に輝くそれを見ると何故かほっとする。


自分はこれまで太陽の元で飾り立てられて生きてきた。あまりに眩しくて息もつけないほどに。


だが、今は心の余裕もできてこうして月を見上げては物思いに耽ることもできる。


(あぁ……すごくリラックスできるわ……。あの頃は月も見ないで終電に乗って帰っていたしなぁ)


グランディアス王国のことを思い浮かべると、次は前世の頃が思い浮かぶ。


あの頃は仕事に追われ星や月を愛でるなど風流なことなどできず、明け方に帰ることも多々あったし、幸運にも夜に帰れても終電に揺られ、家に帰れば気絶したように眠っていた。


それを思えば今はなんて贅沢な時間を過ごしているのだろうか。


(だからこそ……絶対に二度目の断罪は避けたい。私はターシャ・デューダのように自然に囲まれてゆっくり暮らしたいのよ!あくまでも平穏無事無事に過ごしたいだけなのよね……)


ターシャ・デューダはアメリカの絵本作家で、五十代あたりから自給自足でスローライフを送っていた女性だ。


『定年になったら絶対こういう生活をするんだ!』


と意気込んでいた前世ではあったが、結果として過労死という悲惨な終わり方をしたため、その生活への執着は現世では凄いものだと自分でも思う。


だが……と考えると、メルナードに来てからはロベルト、リオネル、サイナス……と続編の攻略対象と何かと関りを持ってしまっている。


ここで王太子クローディスと出会ってしまったら、もうそれは断罪に向かう運命なのではないかと勘繰ってしまう。


だからこそ、クローディスとの出会いは回避しなくてはならない。


(まぁ、この夜会が終われば、賭けの件を謝罪したいというリオネルも満足して関わらないだろうし、ロベルトの件も売り上げが間もなく三倍だからコンサルの仕事も終わって距離を置ける。サイナスは宰相候補で忙しいからそうそう関わることもないだろうし……ない……よね……)


後半についてはだいぶ不安要素はある。


サイナスのあの顔は絶対に何か企んでいると思う。


王子スマイルの裏にある何かよくわからないものが何なのかは見当もつかないが。


なんとなくその不安が悪寒となってアドリアーヌは身震いした。


(そろそろリオネルも帰ってきているかしら。〝彼〟っていう人が見つかっているといいなぁ)


そして夜会など終わらせてさっさと帰り、すべての攻略対象と縁を切りたいところだ。


そう思ってため息を一つつくと、ちょうど垣根の裏側から男の声がした。


「えっと、サージナルドは……確か鉄鉱石が豊富なんだったか。あと話題になりそうなのは……」


何やらぶつぶつと言っているが、アドリアーヌが気になったのはサージナルドの観光資源であった。


鉄鉱石ではなくあそこはルビーの産出地だ。


そのあとも各国の地理や王族名などを思い出して呟いているようだったが、間違いも多くアドリアーヌは内心「そうじゃなーい!!」とツッコミの嵐だった。


何ともなしに聞いてしまったが思わず聞き耳を立ててしまったことを反省し、その場を立ち去ろうとしたとき、その男は面倒になったように大きな声で憂さ晴らしのセリフを吐いた。


「あーーーなんだって他国のことまで覚えなくちゃならないんだ!!確か『詩はただ病める魂の所有者と孤独者との悲しい慰めである』だったか。……はぁ……詩で慰められるならいくらでも聞きたいものだな」

「いやいや間違えてますよ」


思わず内心のツッコミが口に出てしまっていた。


「誰だ!?」

「あーすみません。あまりに真剣にお勉強されているようだったのですけど、色々間違えていらっしゃるので一応訂正した方がいいかと思いまして……」


男は赤紫の髪だった。月明かりに照らされてその絹のような髪は独特の色合いを醸し出し、不思議な魅力を感じさせた。


瞳は紫で切れ長の目は涼やかで薄い唇のその持ち主は、一瞬見惚れるほど顔の造作が整っている。


(はぁ……イケメンだ……)


などと思って見ていると、男は少し怒ったようにこちらに近づいてきた。


上質な布をまとっていることからも、かなり高位の貴族だろう。


多分流れから察するに貴族のお坊ちゃまが将来の出世のために勉強を叩き込まれているといったところだろう。


各国のことを覚えようとしているところを考えると、外交官あたりを目指しているのかもしれない。


それに最後の詩は遙か東国に伝わるものだったと記憶している。


自分も王太子妃になるためにかなり仕込まれていたから、その程度の知識はある。


「それで?俺の何が間違えているって?」

「まずですね……鉄鉱石が主力なのはサージナルドの隣の国!サージナルドは宝石ですね。ルビーの生産が豊かでこの国では75%がそこの産地ですよ」

「お、おまえ!!聞いていたのか!?」

「それに詩の部分。そこは〝悲しい慰め〟じゃなくて〝寂しい慰め〟が正解」

「!!」


その指摘に男の顔が羞恥に赤くなったのが分かった。


「お……女のくせに、生意気だ」


(あーやっぱりそうなるのよね……)


今までもよくあることだ。


前世でも誤りを指摘しても、「小娘がこざかしい」とか「女のくせに生意気」とか言われ、悔しい思いをしたことは多々ある。


だが、自分の否を認められない男は出世しないのはいつも見て知っていた。


「人の話を後ろで黙って聞いているその根性もムカつくな。育ちが知れる」

「申し訳ありません。休んでいると耳に入ってしまいまして」

「ふん。どうせこんなところで一人だとすれば、男に相手にされないのだろうな?こんなこざかしい女、一緒に居たら息が詰まる」

「そうかもしれないですね」


(我慢……我慢……一緒に怒っても何の得にもならない)


と自分に言い聞かせていた矢先だった。


穏便にこの場を離れようとしたアドリアーヌを男が最後にこう言ったのだ。


「あーあ、もし俺がお前の婚約者ならば逃げ出して、もっと可愛げのある女を選ぶな」


それはアドリアーヌにとって地雷だった。


元婚約者であるルベールが自分を捨て、可愛げのあるアンジェリカに乗り換えたことと重なった。


一瞬心に痛みが走る。


それを押し込めるように、これまでの限界とばかりに反射的に反応していた。


「貴方貴族よね。そんな器量の狭い男が一国の政治を担おうだなんて片腹痛いわ!」

「は……?」


「その小娘に間違いを指摘されて、あまつさえ逆切れして。この国の程度が知れるわ。こんな男たちがのさばる国家に未来などないわ。知っている?女性がいるからこの世界は成り立っているの。町では女が活躍して、それはもう活気があるわ。貴族だけよ、こんな男尊女卑の世界に固執して。女に仕事をとってかわられるのが怖いのよね。能力がないから!」


「お……お前は……」


「世間知らずのお坊ちゃんは、もっと市民に目を向けた方がいいわよ。この国の八割は市民なんだからね」


鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした男は、何か反論述べようと口を開けたが頭が回っていないようだった。


これ以上いても殴られるかもしれないと思い、アドリアーヌはさっさとこの場を立ち去ろうとした。


(はっ、ボンボンが……この程度で黙るなんて。私に盾突こうなんて百万年早いつーの!)


アドリアーヌも思わず鼻息を荒くしてくるりと踵を返すと、その場から大股でぷりぷりと怒りつつも夜会へと戻ろうとした。


だが、後ろから男が追ってくる。


「待て、お前!」

「何?話すことなんてないわよ!」

「お前の名前を聞いてやろう。その減らず口を今度は黙らせてやる!」

「私?私の名前は……」


アドリアーヌが名乗ろうとしたときだった。後ろから知った声がアドリアーヌにかけられた。


「あぁアドリアーヌ嬢。こちらに居ましたか?」

「あ、サイナス様」

「おや……これはどういう状況ですか?」


サイナスが状況を飲み込めないといった様子ながら、今にも取っ組み合いの喧嘩でもしそうな体勢に苦笑していた。


そこに男から予想だにしない言葉が発せられる。


「おい、サイナス。この女と知り合いか!?」

「え?えぇ。アドリアーヌ嬢ですよ。ほら、この間少し話題に出た……」


(え?この人、サイナス様と知り合いなの?)


サイナスが自分をどんな話題に出したかも気になったが、男とサイナスが知り合いだったのも驚きだった。


その言葉を聞いて男はまた皮肉そうに笑いながらアドリアーヌを見て言った。


「あぁ、こいつがリオネルとサイナスが気にかけている女か」

「え?何?この状況?私を……知っているんですか?」

「なんだ、たいしたことない女だな。リオネルが執着するからもっと美人かと思ったが……」

「はぁ?あなたに顔の造作について言われる筋合いはないわ!」

「まぁ、お二人とも落ち着いてください。アドリアーヌ嬢、クローディス殿下」


サイナスの言葉を聞いて、アドリアーヌは固まった。

今、サイナスは何と言ったのだろうか?

再び男の顔を見る。クローディス殿下。ということは彼はこの国の王太子クローディス。


(ということは……続編の攻略対象!?)


男……もといクローディスはその反応に満足したように優越感を浮かべた顔でアドリアーヌを見下ろすのだった。



詩の部分は萩原朔太郎のものを引用させていただきました。文アルしてたので朔太郎大好きです

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