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9話

 スカイサーカス団のショーは無事に終わりテントを出ると黄昏の空が広がっていた。結局さっきの男は何だったのだろうか?


「今日はありがとね秋斗(あきと)!すっごく楽しかったよ!」


 夕日に照らされた(あかね)が俺を見て微笑んだ。その笑顔に思わずドキッとしてしまう。


 もし今日茜が死ぬ予定じゃなかったらきっとデートにも誘っていなかった。そうなると今の笑顔も見られなかったのか……


「俺の方こそ急な誘いを受けてくれてありがとう」


 自分で言っときながら何だが小っ恥ずかしくて俺は目をそらした。


「あのさ茜、これを受け取って欲しいのだけど……」


 俺はカバンから小さな包みを取り出した。


「これは?」


「開けてみて」


 茜は言われた通り小さな袋をゆっくり開けた。


「可愛い〜!!、私に!?」


 包みの中には鳥の羽をモチーフにしたおしゃれなヘアピンが入っていた。


「今日は誕生日でしょ?」


「覚えていてくれたの?」


「忘れるわけないだろ?」


「ありがとう!ねぇ、つけてみてもいいかな?」


「もちろん」


 俺だって何も準備せずにデートに臨んだわけではない。前日に一度ショッピングモールに行って下見をしたし。プレゼント用の雑貨屋も見て回った。


「どうかな?秋斗、似合ってる?」


 茜は早速、俺が選んだヘアピンを付けてくれた。


「うん、すごく似合ってるよ!」


 夕日に照らされて輝く羽のヘアピンが、茜のサラサラとしたショートボブによく似合う。


「大空を優雅に飛び回る鳥は跳躍や自由を表す縁起の良いもの。だから鳥の羽にしてみたんだ」


「ありがとう。大切にするね。何だかこれがあればどこまでも飛んでいけそうな気がする!」


 茜は大切そうに羽の髪飾りを撫でた。


「でも()()()()()()()()()()……」


 俺はボソッと誰にも聞こえないような声で呟いた。


「えっ?何か言った?」


「何でもない。日が暮れる前に帰ろうか」


「そうだね。ねぇ知ってる?今日見た映画には続編があるんだって!確か来年上映されるはずだからその時も一緒に来ようね!」


()()……」


 イコは確か利樹を殺さない限り茜の未来はないとも言っていた。未来がない=死を表す。それだけは絶対に阻止しなければならない。


「ああ行こう、絶対行こう!必ず行こう!!」


 俺は自分に言い聞かせるように来年の予定を取り付けた。茜はキョトンとした表情をしていたが関係ない。俺が必ず続編を見に映画館へ連れて行くんだ!そしてその時にこそ本当のデートを………










「お疲れ様でしたマスター」


「ああ、疲れたよ…」


 俺は茜と別れて自分の部屋の椅子に腰掛けた。


「どうでしたか初デートは?」


「楽しかったよ」


「それはよかったですね」


「でも普通のデートがしたかった」


「普通?」


「ああ、茜が死ぬ未来を回避するためじゃなくて、もっと純粋にデートを楽しみたかった」


「なるほど…」


「そういえばさサーカスショーで一緒に手伝いをしたあの男は何者なんだ?」


「残念ながら情報が少な過ぎて調ようがありません。せめてその人の名前が分かればよかったのですが……」


「そうか……なぁ、本当に利樹を殺さないと茜は助からないのか? 今日のサーカスショーみたい誰も傷付かない未来は……「ありません」

 

 イコは俺の話を遮るように答えた。


「前に話した通り転校生を殺さない限り茜様は助かりません」


 感情のこもっていない機械声が部屋に響く。やっぱり両方は無理なのか……


「マスターは茜様と利樹のどちらを救い、どちらを見捨てるのですか?」

 

 残酷な二択だ。でも……


「俺は茜を守りたい。何がなんでも守りたい! そのためなら……」


 俺は一呼吸おいてスマホを見つめた。


「そのためなら何だってする。例え自らの手で利樹を殺してでも!」


「いい覚悟ですねマスター」


 イコはどこか満足げな声でそう言った。










「それでね映画を観た後はサーカスショーを見に行ったんだ」


 私はさっそく今日の出来事を美香に報告した。


「よかったよかった、初デート成功だね!」


「うん!」


「いいな〜彼氏がいるの、で茜は秋斗のどこが好きなの?」


「う〜ん……優しい所かな」


「優しい?クラス違うからあまりよく分からないけど、なんか無口で内気な感じがしたけど……」


「確かに1人でいることが多かったけれど、細かいことによく気づくし、結構負けず嫌いな所があるよ。あと一度決めたことは最後までやり通そうとするし」


「へぇ〜意外、詳しいね」


「だって幼稚園からの幼馴染みだもん」


「いいな……私もいい彼氏か欲しい」


「見つかると思うよ美香なら!」


「だといいけどさ」


 その後も話は盛り上がり、気づいたら随分夜遅くになっていた。

 

「じゃあそろそろ寝るね、おやすみ茜」


「おやすみ、また明日学校でね」


 美香との電話を切って窓際に置いてあった充電コードに手を伸ばした。


「あれ?おかしいな…」


 窓の外の星はいつもなら巨大な夏の大三角形が見えるはずなのに今夜は違った。光り輝く3つの星のうち、1つが雲に隠れて見えなかった。

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