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8話

「本日はお越し頂きありがとうございます。我々スカイサーカス団が皆様に最高の舞台を披露いたしますので是非最後までお楽しみください。」


 ステージ中央にスポットライトが当てられ、やたらド派手な服を着たピエロが客席に向かって一礼した。


 テントの中は薄暗く中央にステージがあり、その周りを囲うように客席が作られていた。


「ではまずはこちらをご覧ください!」


 ピエロはポケットからボールを取り出すと器用にジャグリングを始めた。カラフルなボールが次々と宙に舞う。


「まだまだこれで終わりじゃないですよ!」


 ピエロは腰に差したナイフを抜くと、それも投げ始めた。会場からは自然と拍手が沸き起こる。


「ありがとうございます。ですがこれはまだ序の口、次はもっと凄いですよ!」


 ピエロが指を鳴らすと、ステージが煙で覆われド派手な衣装を着た人たちが現れた。そしてあっという間に人間ピラミッドが出来上がった。


「凄いね秋斗(あきと)!」


「うん、俺達が小学校の運動会でやったものとは次元が違う」


「確かに、やっぱりプロは違うね」


 会場から歓声がおくられると、ピエロは満面の笑みを浮かべて客席を見渡した。


「さぁ続きましては、我らスカイサーカス団のアイドルをお呼びしたいと思います。さぁ出ておいで!」


 ピエロがステージの裏に向かって呼びかけると低い呻き声が会場に響いた。ついに来るのか?


 俺は身構えてステージを凝視した。するとのそのそと歩きながら巨大なライオンが現れた。


「ねぇあれって本物かな?」


 (あかね)が俺の耳元で囁いた。


「多分……」


 あんな巨大なライオンが暴れ出したら無事では済まないな……


「ねぇ秋斗、もしかして怖いの?」


 茜がイタズラっぽい表情で俺の顔を覗いた。


「いや別に怖くなんか…」


 正直めちゃくちゃ怖い。あんな巨大な爪で引き裂かれたら一撃で死ぬ。気合の入ったタスキも無駄だろうな……体の震えと冷や汗が止まらない。これは何が何でもショーを成功させなければ!


「大丈夫だよ、何かあったら今度は私が秋斗を守ってあげるから」


「それはちょっと……」


(流石に女子に助けてもらうのは情けないかな……)


「少し手伝ってもらいたいのですがどなたか2人よろしいですか?」


 ピエロが会場を見渡した。できることなら選ばれたくない。だけど黙って見ているわけにはいかない。大体何のためにここに来たんだ?ショーを成功させるためじゃなかったのか?


 俺は自分を奮い立たせ、恐る恐る手を挙げた。


「お!ありがとうございます。ではステージまでお越しください」


 ピエロは俺の目を見て手招きをした。


「秋斗大丈夫?私も付いて行こうか?」


「いや、1人で大丈夫だよ」


 俺は引きつった笑顔でステージに向かった。


「後もう1人欲しいのですが……おっ!ありがとうございます。貴方もこちらにどうぞ」


 ピエロは嬉しそうに声を上げた。呼ばれた男性はゆっくり立ち上がってステージに向かい俺と目が合った。

 

 ひょろりとした男性で髪はボサボサ、目には酷いクマができている。本当に大丈夫なのだろうか?


「では2人のご協力者に拍手をお願いします」

 

 客席から拍手がおくられる。これだけ大勢の人がいると何だか緊張してきたな……


「ではこれを使ってリングをしっかり握ってください」


 ピエロは俺たちにトングのような道具を手渡した。


「ではよーく見ていてください」


 ピエロは右手をあげて指を鳴らした。すると何も持っていない手から松明が現れた。まぁ横から見ていた俺からは普通に隠し持っていたことが見えたが……


「着火!!」


 ピエロは俺たちが持っているリングに向かって火を放った。


(おいおい、危なくないか?)


「安心してください、落としたりしない限りは問題ありあせん」


 ピエロが俺達に笑みを浮かべたが全く安心できない。


「やっぱり来たんだね。秋斗君」


 突然目の前にいる不健康そうな男がボソッとした声で話しかけてきた。


「やっぱり?どういうことだ?それとどうして俺の名前を?」


「ほら、始まるよ」


 目の前の男がライオンの方をちらっと見た。


「ねぇ、もしライオンがこの輪を飛び越える瞬間に手を離したらどうなるかな?」


「はぁ?何を言ってるんだ?ダメに決まってるだろ!!暴れ出すかもしれない」


「じゃあそうなったらどうする?」


「そんなことはさせない!もし仮にお前が手を離しても俺1人で支える」


「ふ〜ん、なるほどね」


 男はつまらなさそうに答えた。


「では皆さんご注目ください!今からこの輪をくぐり抜けていきますよ。さぁ行ってこい!」


 ピエロの合図にライオンは駆け出した。そして大きくジャンプして輪をくぐり抜けた。さらにもう一度急転回してリング目掛けて突っ込んできた。ライオンは臆することなくくぐり抜け華麗に着地してみせた。観客席から歓声が湧き上がる。


「よかったね、もし君がいなかったらこの手を離そうかと思ってたんだ」


 男が小声で呟いた。


「おい!それはどういう…「それでは皆さん勇敢なお2人に盛大な拍手をお願いします!!」


 拍手喝采を受けて俺の質問はかき消されてしまった。拍手が鳴り止むまでしばらくステージに立ち尽くしていたら、気づいた時にはもうあの男はいなかった。

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