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7話

「お待たせ秋斗(あきと)!」


 (あかね)は俺を見つけると、手を振って駆け寄って来た。


「ごめん、ちょっと準備に手間取って遅れちゃった」


「いや、いいよ。俺もさっき(1時間前に)来たところだから。その……服似合ってるね」


 涼しげなホワイトのワンピースと可愛らしいピンクのカーディガンがよく似合っている。普段は見られない私服に思わず目を奪われてしまった。


「本当!?ありがとう!!昨日美香から色々教えてもらったんだ。今日は誘ってくれてありがとね!」


「それはその……チケットが2枚余ってて……まぁそれはいいとして早く行こうか。始まるといけないし」


「うん!」


 俺は茜と並んでこの街で一番大きなショッピングモールに向かった。あそこは映画館はもちろんゲームセンターや雑貨屋など、様々な店が入っていて便利だ。ただ広すぎるせいでどこに何があるのかよく分からない。


 確かイコはその日一日茜の近くにいろと言ってたな……もし逸れたりしたらまずい。


「なぁ、茜」


「ん?どうしたの?」


「その…迷子になると困るから……」


「わかった!」


 茜は頷くと俺の手を握った。こんなふうに手を握って歩いていたら周りからは幸せそうなカップルに見えるのだろうな……でも本来だったら今日茜は死んでいた、気を抜くわけにはいかない。








 約90分の映画はあっという間に終わってしまった。正直内容の方はほとんど入ってこなかった。


「面白かった!!あのシーンすごくない!?まさか黒幕が別にいたとは思わなかったよ。それに最後のオチも良かったよね!」


(参ったな…最後どんなふうに終わったっけ?とりあえず適当に相槌を打って乗り越えるとするか…)


「確かにあれはすごかったハラハラしたよ」


「だよね!ねぇこの後はどうする?」


「そうだな…時間的にもそろそろ昼食かな?何食べたい?」


「う〜ん……パスタがいい!」


「パスタか……じゃあ2階にあるカフェテリアに行こうか。子供の頃茜も一緒に家族みんなで行ったことがあったけど覚えている?」


「え〜と、確かテラスがあった所?」


「そうそう。確かそこのパスタが美味しかったはず」


「あっ、思い出した!昔一緒に行ったね。あれ?確かあの時、私が大事に取っておいたウインナーを秋斗取ったよね?」


「そんなことあったっけ?」


「あったよ!どうして食べたの!」


「そんなこと言われても……」


 茜が頬を膨らませて詰め寄ってくる。確かに言われてみればそんな事もあった気がする。そういえば茜がカフェテリアでギャン泣きしていた記憶があるな……食べ物の恨みは怖いものだ。








「いらっしゃいませ、2名様ですか?」


「はいそうです」


「では奥の席へどうぞ」


 俺たちは店員に案内され、外の景色が一望できるテラスの席に向かった。


「ねぇ、何にする?」


「そうだな……じゃあ俺はミートパスタで」


「私は明太子パスタでお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員はそう言い残すとすぐに厨房に戻っていった。流石に昼時だけあって忙しそうだ。


「ねぇ、秋斗、あれって何だろう」


 茜がデパートの駐車場の一角に建てられたテントを指さした。

 

「サーカス団じゃない?さっきそれっぽいポスターを見かけたし」

 

「サーカス団?後で行ってみよ!」


「いいよ。何だか面白そうだし」


 駐車場に建てられたテントは赤と白を基調とした随分とド派手な作りだ。取り付けられた大量の風船が風に揺れているのが見える。


「お待たせしました。こちら明太子パスタとミートパスタでございます」


 店員は俺の顔をチラッとみると何故か微笑ましいものを見るような目で笑みを浮かべた。


「ねぇ、秋斗、やっぱり私達ってカップルみたいに見られているのかな?」


「まぁデートしてるし」


「やっぱりそうだよね。ねぇ、秋斗、どうして急に誘ってくれたの?」


「それは……」


 本当は今日茜は海で溺れて死んでいた。だからそれを防ぐために誘った、なんて言えないしな…


「えっと……この日はどうしても茜と一緒に過ごしたかったんだ。だからデートに……ほら早く食べよ。冷めるだろ」


「そうだね。それじゃあいただきます!」


 茜はフォークを手に取ると一口頬張った。


「うん、美味しい!やっぱりパスタといえば明太子パスタかな!」


「こっちのミートパスタもいけるよ」


 もちもちした麺とミートソースがよく絡みあって美味しい。トマトも程よい酸味で優しい甘味があって食べやすい。付け合わせで出てきたパンともよく合う。


「ねぇ、ちょっと一口頂戴」


「いいけど……っておい!、取りすぎだろ」


「いいじゃん私のも少しあげるから」


 茜は小皿に明太子パスタを取り分けると俺の前においた。


「うん、確かにこれもいけるな」


 贅沢に沢山入っている明太子とコッテリとしたソースがよく合う。どちらもとても絶品だ。


「ふ〜ぅ、ご馳走様。美味しかったね秋斗」


「うん。いい味だったよ。さてと、じゃあサーカスを見に行こうか」


「そうだね。でもその前にちょっとお手洗い行ってくるから待ってて」


「じゃあ荷物持ってるよ」


「ありがとう」


 俺は茜からカバンを預かると食後のコーヒーを一口飲んだ。


「マスター聞こえますか?」


 突然スマホからイコが喋りかけてきた。


「何だよ、あんまり外で話しかけるなよ。変な奴に見えるだろ」


「では簡潔に言います。今すぐ家に帰ってください」


「は?どうしてだよ?せっかく茜とのデートを楽しんでいるのに……」


「この後マスター達はサーカスを見に行くおつもりですよね?」


「そのつもりだけどそれがどうかしたのか?」


「最後のクライマックスでライオンが火の輪をくぐっていくのですが………」


「何だ?まさか失敗するのか?」


「そのまさかです。火はライオンの顔に広がっていき暴れ出します」


「それはひどいな。それで暴れたライオンが俺たち目掛けてやって来るのか?」


「その可能性があります。なのですぐに帰ってください」


「そうか……」


 茜には悪いけどもう帰ることにするか……いや待てよ……


「なぁ、もしこのまま帰ったとしたら俺達以外の観客はどうなる?」


「暴れ出したライオンは観客たちの方に突っ込んでいきます。怪我人が出てもおかしくありません」


「じゃあそれが分かっていて見過ごすことはできない」


「ではどうしますか?」


「前提を覆す」


「と言いますと?」


「サーカスを見に行く。そしてショーを成功させればいい。そうすれば1人も犠牲者は出ないはずだ!」


「健闘を祈りますマスター。ところで1つ言い忘れていましたが、さっきから誰かに後をつけられているのはご存知ですか?」


「誰かに後をつけられている?誰にだよ?」


「やっぱり気づいていませんでしたか……」


「誰なんだよそいつは……「お待たせ秋斗、あれ、今誰かと話していた?」


「いや〜何も、電話で話していただけ。そろそろ行こうか」


 俺達は会計を済ましてサーカス団の会場に向かった。誰が後をつけているのかは気になるが、とにかくショーは成功させる。そして誰も傷付かない未来に先導してみせるんだ!!

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