6話
「おっはよ〜茜!!」
学校へ向かって歩いていると突然名前を呼ばれた。この声は…
「おはよ〜美香」
彼女は中学校の時のクラスメイトで、その頃から仲が良く同じ高校に進学した。同じクラスになれなかったのは残念だな…
「あれ?何かいいことあった?」
「えっ?どうして分かったの?」
「顔がニヤついているからすぐに分かるよ。何があったの?」
「実は秋斗から日曜日にデートに誘われたんだ!!」
「秋斗?確か幼馴染の子だったよね?」
「そうだよ。子供の頃は家族と一緒に出かけたりしたけど今回は2人だけ!ちょっと不安だけど楽しみなんだ!」
「そうか、そうか、いいね若いカップルは…よし、では私から一つアドバイス、第一印象が決め手だよ!!」
「第一印象?」
「そう、つまりファッション。普段学校だと制服だからなかなか私服を見る機会はない。だからこそこれはとても重要なこと、ファッションを制するものがデートを制する!!」
「ファッションか…私あんまり服持ってないしな…」
「大丈夫よ、明日空いてる?ちょっと出かけない?私がいい服選んであげるよ。何だったら私がプレゼントしてあげようか?もうすぐ誕生日でしょ?」
「ありがとう。でも大丈夫。自分で買うよ」
「そっか、分かった。それじゃあ明日は朝10時に待ち合わせね」
美香はそう言うと楽しそうに笑った。
(はぁ〜しんどいな…)
昨日は思い切って茜をデートに誘ってみたはいいが、今思い返しても恥ずかしい。穴があったら入りたい。教室に入るのが嫌だな……
俺は憂鬱な気分で教室のドアに手をかけた。中に入った途端何故かクラス全員の視線が俺に向けられた気がした。
(なんだよ、顔に何か付いているのか?)
居心地が悪く俺はさっさと自分の席につくと、隣の席の利樹が話しかけてきた。
「秋斗、噂は聞いたよ!」
「噂?何のことだ?」
「とぼけても無駄さ、今度の日曜日に茜さんとデートするんだろ?」
「なっ、何で知ってるんだよ!?」
「知ってるもなにも隣のクラスの美香って人が話していたよ」
「マジかよ…」
(美香は確か茜の友達だったよな?あの噂好きの…)
俺は机にうつ伏せてため息を漏らした。するとチャイムがなり担任の先生が入ってきた。
「おはよう、出席とるよ〜」
先生が帳簿を取り出して一人一人の名前を読み上げていった。
「よし、みんな来ているね、それはそうと南君」
突然名前を呼ばれて思わずビクッとした。何も悪いことしていないぞ。
「まぁその………休日のことで頭がいっぱいだと思うけど授業には集中するようにね」
担任が意味ありげな笑みで微笑んだ。教室中にクスクスと笑う声が広がる。まさか担任にまでバレていたとは…
いつもなら10分くらいで終わる朝礼が1時間くらいに長く感じた。その日は全く生きた心地がしなかった。
(はぁ〜ようやく帰れる…)
長かった1日も終わりやっと放課後になった。
「秋斗、帰ろうぜ!」
俺が机でぐったりしているといつも通り利樹がやってきた。
「にしても驚いたな……まさかデートに誘うなんてやるじゃん!!」
「そりゃどーも」
(だいたい誰のせいでこうなったのか分かっているのか?)
「それじゃあ今週の計画は延期だな…」
「今週の計画?何だそれ?」
「前話したじゃん、みんなでどこかに行きたいって。だから今週の日曜日に近場の海にでも行こうと思ってたんだ。占いにも海に行くべきと書いてあったし」
「海ね…」
(やっぱりこいつが海に誘うつもりだったのか…)
「いつか3人で行こうな海!」
「そうだな…」
(行くわけねーだろ茜が溺死すると分かっていて)
「まぁそういうわけで楽しんでこいよ!」
利樹はそういうと俺の背中をバシッと叩いた。
「いいね!可愛いよ茜!次はこれなんかどう?」
デート前日の土曜日、私は美香に連れられて近くの洋服屋に来ていた。
「いいけどちょっと丈が短かすぎない?」
手渡されたチェック柄のスカートは、学校の制服だったら生徒指導部の先生に即指摘されそうなくらい短かった。
「いいんだよ!だって夏だし。あとはそうだな…」
美香はまた店の奥に行ってしまった。試しにスカートを履いて鏡で見てみたけどこれはちょっと………太ももがヤバくない?
「じゃあこれはどう?」
次はワンピースを持って来た。白を基調とした涼しげな雰囲気だ。
「さぁ脱いだ脱いだ!!早速これに着替えてみな」
「い・い・か・た」
美香に急かされて早速着替えてみたが…
「う〜ん……いいけど背中が透けて見えちゃうな……」
「じゃあ上からこれを羽織ったら?」
サマーニットのカーディガンが手渡され試しに上に羽織ってみた。すると、
「あっ、これいいかも!!」
薄いピンクの可愛いカーディガンで、白いワンピースとよく似合う。
「よし、決まりだね。じゃあ次はランジェリーショップに行こう!」
「えっ?どうして?」
「見えない所までこだわるのが本当のおしゃれだよ」
「でも初デートだよ?まだ早くない?」
「まだ早い?一体何の事かな?詳しく教えてくれるかな?」
美香が意地悪な顔で見てくる。
「なっ、何でもないよ!ほら早く行こ、細部までこだわるのがオシャレなんでしょ?」
その後も明日のデートの準備は続いた。テスト勉強でもこんなに予習して挑むことはなかったのに……