5話
「4日後に茜が死ぬ!?」
俺は思わずそう聞き返した。4日後?いくらなんでも早すぎる。
「落ち着いてくださいマスター」
「落ち着いていられるか!!あと4日しか猶予がないのに!」
「助ける方法はあります」
イコは俺とは対照的に慌てる素振りもなく答えた。
「なんだ?どうすればいいんだ!?教えてくれ!!」
「簡単な事です。その日一緒に過ごせばよいいのです。それだけで助かります」
「一緒にいる?でもその日は日曜日だから学校はないけど?」
「………鈍感ですねマスターは」
普段は全く感情がないくせに何故だろう?馬鹿にされた気がする。
「デートです。茜様をデートに誘うのです」
「はぁ!?何を言ってるんだ!?」
「デートです。安心してください。最近流行りの映画のチケットを2枚とっておきました」
「いや、そう言う問題じゃなくてさ…」
「それともう一つ忘れてはいけないことがあります。今週の日曜日は茜様の誕生日ですよ」
「それは知ってるけど…」
イコの提案はあまりにも予想外だった。確かにデートに誘えば一緒にいられる。だけどデートなんてしたことがないから不安だ。正直うまくいく自信はないけどフラれてしまったら茜が溺死する。失敗は許されない。もし失敗したら…
俺の未来もないだろうな……
「おはようございますマスター」
「………」
「聞こえていますかマスター?」
「聞いてるって」
「寝不足ですかマスター?」
「おかげさまでな!」
俺はベットから起き出してスマホを手に取った。昨日は全く寝られなかった。それもこれもこいつのせいだ!
「なぁイコ、どうやってデートに誘えばいいか教えてくれ」
「それくらいは自分で考えてください」
いつもなら何でも教えてくれるのに何故か答えてくれない
「何でだよ?」
「男なら真正面から自分の気持ちを伝えるべきです!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
「女々しいですねマスターは」
普段は寡黙なくせに今日はやたらとうるさいな…
「あんまりそういう口の聞き方をしているともう喋れないように改造するよ?」
「ではマスターのスマホを乗っ取って、クラス中に迷惑メールを送りつけてあげますよ。もちろんマスターの名前を添えて」
「そんなことができるのか?」
「雑作もないことです。このスマホの中のアプリは自由自在に操れます」
何となくイコの声が誇らしげに聞こえた。
「でも簡単にデートに誘えって言うけど大変なんだぞ。もしクラスの誰かにこの事がバレたらどうなると思う?たちまち噂は広がっていく、そうなったら俺の居場所がなくなる。お前には分かるかこの気持ち?」
「すみません、よくわかりません」
イコが棒読みで謝罪を述べた。
「はぁ……分かったよ、自分で何とかする」
「はい、それがよろしいかと思いますマスター」
俺はスマホをカバンにしまって学校に向かった。でもこれといった作戦はなく、結局何も言えないまま放課後になってしまった。
「おーい秋斗、聞いてるか?」
誰かに呼ばれてふと我に返ると、利樹と茜がカバンを持って俺の前に立っていた。
「何?」
「帰るよ」
「帰る?」
教室の時計を見てみると、時刻はもう下校の時間になっていた。
いつも通り3人で帰って、恒例のコーヒー屋に寄り道。たわいもない会話をしながら帰る下校、今ではすっかりこれが日常となっていた。
でも今日はいつもとは違う。この後茜をデートに誘わなければならない。失敗は許されない。失敗=茜が死ぬ、俺は気持ちを落ち着かせるためにカフェオレを一口飲んだ。なぜだろう?味が全く分からない
「じゃあまた明日学校でな!」
利樹と別れて俺と茜は並んで帰った。
「ねぇ秋斗、何か悩んでいるの?」
茜が心配そうな声で聞いてきた。
「悩み?う〜ん、特には……」
「そうは見えないよ、もしかしてあの交通事故のこと?」
「………」
「あの事件でドライバーの人が亡くなったのは秋斗のせいじゃないよ、もし秋斗がいなかったらきっと私も隣にいた小学生もみんな轢かれていた。秋斗が苦しんでいると私も苦しいよ……だから元気出して!!」
茜が俺の顔を覗きむ。
そういえばあれが全ての始まりだったな…あの時は無我夢中で茜を助ける事だけを考えていた。前回はうまくいった。だから今回も……
「ありがとう、少し元気が出た。ところでさ今週の日曜日って暇?」
「日曜日?うん、特に何も予定は無いよ」
(よし、とりあえず第一関門は突破。次は映画のことについて少し触れて…)
「その〜実は最近流行りの映画のチケットが2枚あるんだよね…」
(後もう少しの辛抱だ…ここを乗り越えなければ明日はない!)
「よかったら一緒に行かない?」
「え…!!それってもしかして!」
茜はもう俺が何を言いたいのかを察したのか声が弾んでいる。
「こんなこと照れ臭くてあんまり言いたくないんだけどさ…」
俺は息を深く吐いて呼吸を整えた。激しい鼓動が体全身に打ちつける。
「今週の日曜日、俺とデートしてくれ!!」
「お疲れ様ですマスター」
「まったくだよ」
俺は自分の部屋に入るなり早速文句を言ってやった。
「今思い出すだけでも恥ずかしい」
「ふふ、こんなのはまだ序の口です。これからが本番ですよ」
なぜかイコの声も明るい、こいつさては楽しんでいるな?
「ところでデートプランは出来ているのですか?」
「まぁ一応…とりあえず映画を見て、それが終わるのが昼くらいで、ランチを食べた後は店をぶらついて…」
不安だ、デートなんてした事が無いし…考えれば考えるほど自信が無くなる、とにかく何事もなく無事に終わってほしいものだ。そう、無事に………