4話
今日は慌ただしい1日だった。あれから茜はすぐに保健室に運ばれた。もちろん俺と利樹も付き添いで同行した。医務の先生曰く安静にしておけばいいとのことだっが、あれは本当に偶然起きた事故だったのか?それとも利樹が意図的に…
俺は帰り支度をして自分のカバンと茜のカバンを持って教室を出た。
「お〜い秋斗、もう帰るの?」
廊下を歩いていたら利樹とすれ違った。
「そうだけどなんか用?」
「どうしてカバンを2個持ってるんだ?」
「これ?これは茜のだよ、一応届けたほうがいいかと思って」
「そうか………なぁぼくもついて行ってもいいか?ちゃんと謝りたいし…」
どうやらさっきのことで思い悩んでいるようだ。真面目な奴だ。でもこいつのせいでいずれ茜が死ぬ…
「好きにすれば」
俺はぶっきらぼうにそう答えた。
「ありがとう!」
利樹は特に気にする素振りもなく俺の後について来た。
「「失礼します」」
俺たちが医務室に入ると、担任の先生と医務の先生が何か話しをしていた。
「あら2人とも来てくれたのね、宮島さん、南くんと杉浦くんが迎えに来てくれたわよ」
「はーい、今行きます」
ベットの周りを囲うように取り付けてあるカーテンが開き、茜がそこから降りて来た。
「こいつがどうしても謝りたいみたいで…」
俺は利樹に目で合図した。
「本当にごめんなさい。茜さん」
利樹は頭を下げて謝罪を述べた。
「これくらいなんてことないよ、心配しないで、むしろボーッとしていた私の方が悪いよ」
「でも…それでもやっぱり悪いのは俺の方だ、ごめんなさい」
利樹はまた頭を下げて謝った。
「杉浦君、気持ちは分かるけど謝られる側はそう何度も頭を下げられるとかえって困ってしまうものよ」
横で見ていた担任の先生が的確なアドバイスをした。さすが担任だけあって説得力がある。それとも年の功か?
「南君、何か失礼なことを考えなかったかしら?」
「いや、何のことでしょうか?」
冷たい目で睨まれて俺は思わず目を逸らした。逸らした先でしょぼんと反省している利樹の顔がちらつく、随分反省しているみたいだし助け舟を出してやるか…
「なぁ、ちょうど3人とも家の方角同じだし一緒に帰らないか?こいつが美味しいコーヒーを奢ってくれるみたいだし」
俺はちらっと利樹の顔を見た。向こうも何か気づいたようで頷いた。
「もちろん、今日はぼくが奢るよ。だから一緒に帰らない?」」
「コーヒー?、いいね!行く行く!」
「寄り道もいいけどあまり遅くならないようにね」
医務の先生が優しく注意してきた。
「もちろんです。では失礼します」
俺たちはお礼を述べて医務室を出た。
「若いっていいわね…」
「そうですね…」
部屋からなにかぼそっと聞こえたような気がしたけど気のせいか?俺たちは校門を出てコーヒー屋に向かった。もちろん利樹の奢りで。
「あ、美味しい!!」
「でしょ!ぼくも初めてこの街に来たときにたまたま見つけてさ、試しに一杯頼んでみたらそれが美味しかったんだ」
「ありがとね利樹君、美味しいコーヒー屋さんを教えてくれて」
「これくらいお安い御用さ、そうだ、連絡先を教えてもらっていい?」
利樹がカバンからスマホを取り出した
「いいよ」
茜もスマホをとりだして画面を操作しだした。
「どうやって交換する?ふるふる?」
「ぼくそれでうまく行った試しがないからな…QRコードでもいいかな?」
利樹は自分のQRコードを画面に表示した。一応俺も撮らせてもらった。
「なぁ2人とも進路ってもう決めた?」
「私は………将来は美容関係の仕事がしたいから専門学校に進学かな」
「いいね!似合いそう、秋斗は決まっているの?」
「俺?まぁとりあえず進学かな?やりたいことはそのあと決める。利樹の方こそどうなんだ?」
「ぼくはスポーツ関係のトレーナーになりたい。そのためにも一つの部活に入るんじゃなくていろんなスポーツをやるって決めたんだ」
「きっと利樹君ならいいトレーナーになれるよ、だってスポーツ万能だし」
「ありがとう、そうなれるように頑張るよ!」
利樹はガッツポーズをして笑顔を見せた。
「とりあえず皆んな進路が決まってるんだな。てことは遊べるのはこの夏が最後か…」
「そうだね…来年は勉強で忙しくなりそうだし…」
「なぁいつか3人でどこか遊びに行かないか?」
「いいね!いいね!」
茜と利樹は楽しそうに夏の計画をし始めた。
(3人か、多分無理だろうな…どちらか1人がいなくなる)
俺は心の中でボソッとつぶやいて2人の後を少し遅れて歩いて行った。
「イコ聞こえるか?」
「はい、マスター」
俺は家に着くといつも通り自分の部屋にこもってイコに話しかけた。
「今日はどうでしたかマスター」
「体育の時間に利樹がうち返したボールが茜の頭に当たって怪我をした。これはあいつが狙ってやったことなのか?」
「やろうと思えばできますよ。未来なんて些細なきっかけで大きく変わってしまうものですから。そのきっかけさえ分かっていればボールを当てるくらい雑作もないことです」
「そうか…」
「今は茜様を救うことに集中したほうがよろしいかと」
「そうだな、そうする。なぁ、あまり知りたくはないけど茜がどんなふうに死ぬか教えてくれ、流石に死んだ後のことはわからなくてもその手前までの未来なら分かるだろ?」
「はい、可能です。その質問はいずれ来ると思っていたので事前に調べておきました」
「そうか、仕事が早いな。それで茜の死因は何だ?」
「茜様は海で溺れて溺死します」
「溺死…」
溺れて苦しそうにもがいている茜の姿が思い浮かぶ。やっぱり聞かなかった方がよかった…
「一体誰が海に誘ったんだ?そいつの未来を教えてくれ」
「誘った相手も調べてみたのですが、分かりませんでした。」
「チッ、何でだよ、それが一番重要なのに」
俺は机を叩いて舌打ちをした。
「いや待てよ、分からないということはそれって…」
「利樹が関わっていると思われます。未来を見ることができるもの同士は互いの未来が見えませんから」
「そうだったな…ところで茜が溺死するのはいつなんだ?」
さすがにそこまで詳しくは分からないだろう、だから軽い気持ちで聞いてみたのだが…
「4日後です」
イコは特に慌てることもなくさらっと答えた。その声はやはり感情のこもっていない機械声だった。
昨日(2021/10/23)ジャンル別(推理)日間ランキングを見ていたら、6位に入っていたので驚きました∑(゜Д゜)ブックマーク、評価をしていただいた皆様のおかげです(^^)/
これからも頑張って投稿していくのでよろしくお願いしますm(_ _)m