2話
「やばい遅刻する!転校初日に遅刻はまずい!」
ぼくは息を切らしながら住宅街を走り抜けた。
(えっと、学校は右方向だったからこっちか?)
スピードを落とすことなくカーブを曲がったその時、前から人影が!
「っわ!!」
全力で走っていた所で突然誰かとぶつかった。あたりに荷物が散乱する、
「痛てて…すみません!怪我はありませんか?」
ぼくはすぐさま荷物をかき集めて謝った。相手はひょろりとした男性で髪はボサボサ。目には酷いクマが出来ている
「すみません、あの…」
「大丈夫です。そんなことよりもスマホが……」
男は地面に落ちた2台のスマホを重ねて拾い上げると片方を自分のポケットにしまい、もう片方の僕のスマホを手渡した。
最悪だ、画面が割れている……まぁ自分のだったからまだマシかな?
「本当にすみませんでした」
「気にしないでください。そんなことよりも学校はいいのですか?」
男性からそう言われ時間を確かめると、もうあと10分で朝礼がはじまる。
「これはまずい、すみません失礼します」
ぼくは画面の割れたスマホをしまうとまた全力で走りその場を後にした。
「参ったな…寝坊をした」
昨日はよく眠れなかった。突然イコから近い将来に茜が死ぬと言われぐっすり眠れるわけがない。
俺はスマホで時間を確認した、朝礼まで後5分。まぁ問題ないだろう。
呑気にグラウンドを歩いていると背後から誰かが走って近づいてきた。
「ちょっとそこの君、職員室はどこ?」
突然見慣れない生徒からを声をかけられた。
「一階の廊下の突き当たりだけど、君はどこのクラス?見たことがないな…」
「ぼく?そりゃそうだよ、だって今日からこの学校に通う転校生だからな!」
「転校生?お前が?」
俺は思わす聞き返した。
「そうだけど、そう見えないか?まぁそうだよな、転校初日ならもっと早く登校するよな…」
転校生は苦笑いしながらそう答えると、また走り去っていった。
あいつがイコが言っていた例の転校生なのか?俺は走り去っていく転校生の背中を眺めながら昨日のことを思い出した。そして自分が朝寝坊していてもう時間がないことも思い出し、駆け足で教室に向かった。
「おはよう秋斗、昨日は大丈夫だった?」
教室を入って自分の席に着くと早速茜がやって来た。
「まぁ何とか、その…心配かけてごめん」
俺は素直に謝った。事故が起きた直後は色々と動転していて1人で帰ってしまったからな…
「気にしないで、私はいいの、ありがとね助けてくれて」
茜が俺の顔をじっと見つめ微笑んだ。
「あ、…うん」
真剣な顔で見つめられると何だか照れ臭い。返事に詰まっていると同じクラスの男子が俺の肩を肘で突いてきた。
「おい秋斗、茜さんと何かいいことあったのか?」
クラスで一番のお調子者の男子生徒が俺に絡んできた。
「え?秋斗君がどうしたって?」
これまたクラスの中でもうるさいことで有名な女子生徒がやって来た、まずいこの2人が同時にやってくると面倒くさい、案の定俺は2人から質問攻めにあった。
正直こんなふうにわいわいガヤガヤと迫ってくるのは苦手だ、俺には専門外だ。1人で本を読んでいる方がよっぽど快適だ。頭の中でそうボヤいていると廊下の方から誰かが走って来る足音が聞こえてきた。
「おーいお前たち、大ニュースだぞ!」
うちのクラスの学級委員長が教室に入ってくるなり大声で叫んだ。
「何だよ大ニュースって?」
「なんとこのクラスに転校生がやってくる!!」
委員長が息を切らしながら答えた。
「マジかよ!!」
「え?転校生?」
「どんな子?顔は?イケメンだった?」
クラスの生徒たちは興奮気味な口調で委員長に詰め寄った。転校生が来るという一大イベントに教室がざわつく、みんなどこかワクワクした顔付きだ。
「とりあえずみんな席についてくれ、ホームルームが始まったら先生に聞いてみる」
さすが学級委員長だけあってすぐにみんなを席につかせた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り朝のホームルームの時間になった。
「みんな、おはよう〜」
教室の扉が開き全員が一斉にそっちを見た。しかし入って来たのはいつもの見なれた女性教師だった。
「なんだ先生1人かよ」
クラスの男子生徒がボソッと呟いた。
「独身教師で悪かったわね、はい、じゃあ出席とるよ」
先生が生徒を軽くあしらうと、出席簿を取り出して、淡々と名前を読み上げていった。
真面目で少し厳しい先生だけどむしろ俺としては生徒と馴れ馴れしい教師よりもずっと信頼できるし頼もしく感じる。
「はい、みんなちゃんと来てるね、では1つ重大な発表があります」
クラス全員の視線が一斉に担任に注がれ、次の言葉を静かに待った。
「何とこのクラスに転校生がやってきます。女子たちよかったわね、かっこいいイケメンがやって来たわよ」
「やった!!」
「本当ですか!?」
クラスの女子たちは目をキラキラさせながらはしゃいでいる。男子生徒たちも新しいクラスの仲間に興味深々な面持ちだ。ただし俺1人を除いて。
「いいよ、入っておいで」
ゆっくりと教室のドアが開き、転校生が入って来た。予想通りそいつは数分前に会ったばかりのあの男だった。
「イケメンとか言われると入り辛いですよ先生〜」
それが彼の第一声だった。どこか困ったようにはにかんだ笑みは一瞬でクラスの女子たちを虜にした。確かに彼はイケメンという分類に入るのだろう。スラリと背が高く、人懐っこそうな雰囲気がある。俺とは正反対だ。
「はい、じゃあ自己紹介してもらってもいいかな?」
転校生は黒板の前に立つとチョークを手に取り自分の名前を書き出した。
「初めまして、杉浦利樹です。趣味は走ることです。今日は危うく転校初日から遅行しそうだったので全力で走って来ました。よろしくお願いします」
利樹は一礼するとクラスの仲間を見渡した。教室からは自然と拍手が湧き上がる。俺はできるだけ関わらないために目を逸らそうとしたのだが遅かった。
「あ!そこの窓際に座ってる君、朝会ったよね」
「え?あ……うん」
ばっちりと目が合ってしまった。
「あら、そうだったの、ちょうど隣の席も空いているからそこに着席して」
担任の先生が俺の隣の席を指さした。
「はい、そうします!」
利樹が元気よく答えると早速俺の隣にやって来た。
「よろしく!」
「うん…よろしく」
俺は軽く挨拶を交わすと目を逸らし拒絶オーラを出した。今なら襲い掛かるコマも避けれそうだ。向こうも何か感づいたのかそれ以上は話しかけてこなかった。
???
「やれやれ、うまくいったかな?」
男はボサボサの髪をかき上げると不気味な笑みを浮かべた。
「後は頼んだよミキ」
男は呟くようにその名を呼んだが、あの機会声の返事は返ってこなかった。