19話
「いや〜うまい、やっぱり奢ってもらったカフェオレはうまいな!そういえば2人とも、ちゃんと仲直りはしたのか?」
「「もちろん」」
「それはよかった!心配してたんだよ。ところで今週の休みなんだけどさ……」
利樹が何かを言おうとしたその時だった、俺の足元を何かがものすごいスピードで通り過ぎた。
「うわ、何だよこれ?」
利樹のひざに白い塊?が飛び乗った。よく見るとそれは真っ白な子犬だった。
「うわ〜カワイイ!おいで!」
茜が子犬を抱き抱えて優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
「どうしてこんな所に子犬が?」
「さぁ?」
利樹と俺は顔を見合わせて首を傾げる。
「君はどこからきたの?」
茜が子犬と会話を試みるが、キャンキャンと可愛く吠えるだけで何も分からない。
「どうする?」
「どうすると言われてもな…」
さぞ飼い主も困っているだろう。落とし物?は交番へ、早速向かおうと歩き出したその瞬間、茜の腕から子犬がするりと抜け出しあの交差点に向かって走り出した。
「危ない!!」
茜も後を追うように駆け出す。
「待て!行くな!」
(何だろう?このデジャブな感じは、嫌な予感がする。場所もあの交差点だし……)
俺は反射的に茜の腕を掴んだ。
「ちょっと!早くしないと…」
茜が何かを言い終える前に目の前を猛スピードで車が走り抜けた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう助かった。でも子犬が…」
道路の中央に横たわって動かない白い塊が……
「確認してくる」
利樹が急いで子犬を抱き抱えて戻ってきた。
「ねぇ、目を開けてよ!」
茜が必死に呼びかけるが、子犬はピクリとも動かない。さっきまであんなに元気だったのが嘘のようだ。
「ごめんね、私がもっと強く抱き抱えていたらよかったのに…」
「茜さんのせいじゃないよ」
利樹が茜を慰めている中、俺は全く別のことを考えていた。あと少し、ほんの少しでも判断が遅れていたら?きっとそこに倒れていたのは子犬ではなかっただろう。この交差点で交通事故が起きたのはこれで4回目…… 今の出来事は本当に偶然なのだろうか?
「お帰りなさいませマスター」
家につき自分の部屋に入ると、早速イコが話しかけてきた。
「なぁイコ、もう本当に茜が死ぬ未来は無くなったよな?結果的に信彦が死んだわけだし」
「……人間は誰しもいつかは死ぬのでその未来がなくなることはありません」
「そういうことじゃない!茜が事故とか事件に巻き込まれる可能性だよ。今日の帰りは危うく車に跳ねられそうだったぞ!」
「……たまたまだと思います。誰しも一度は死にそうになった体験はあるじゃないですか?」
「まぁそうだけどさ……」
なんだろう?上手いこと誤魔化された気がする…
「マスター、例のお悩みサイトにメッセージが一件入っていました」
「早いな、内容は?」
「送り主は医者で新薬を開発中だそうです。しかし実際に使うにはデータが少なく動物実験をしようにもなかなか許可が降りなくて困っているようですが…」
「それでお前はどうする気なんだ?」
「こっそり実験用の動物を提供しようと思います」
「そんなことができるのか?」
「雑作もないことです。そうなるように未来を操作するだけなので」
「なるほど……ちなみにどんな動物を使うんだ?」
「マウスやモルモット、うさぎや犬など多種多様です」
「犬か……ちなみに実験が終わった後、その動物達はどうなるんだ?」
「痛みを伴わない安楽死をさせることになっていますが、実際はどうでしょうね……」
「………」
「どうかしましたか?一体何を迷っているのですか?」
「本当にそれでいいのか?人間の都合で動物を利用しているようにしか見えないが……」
「では今日どうして子犬を見捨てて茜様を救ったのですか?」
「それは……ん?待てよ、どうしてそのことを知ってるんだ?俺は一言も子犬のことは話していないぞ?」
「そんなことはいいので早く決めてください、誰も救えなくなりますよ!」
イコにせかされ俺の疑問は流されてしまった。
「なぁ、両方救う方法は……」
「ありません」
間髪入れずにイコは俺の言いたいことを否定する。
「選択が遅れるほど助かるはずだった人が減っていきます。最悪この実験が流されて誰も救えなくなるかもしれません、それでもよろしいのですか?
「………」
「マスターは動物と人間、どちらを救う未来にレールを切り替えるのですか?」
「………」
その日の夜、大量の動物たちが死ぬという未来が確定した。後に素晴らしい新薬が作られメディアはその効果や凄さを放送するだろう。だが何の罪もない動物たちが死んだことは一切報道しないに違いない。その新薬開発の裏には大量の動物たちの犠牲があって完成したのだが……