12話
「なぁ、そろそろ何があったか教えてくれよ〜」
翌日、放課後いつも通り3人で帰っていると利樹が俺と茜を見比べて質問をした。
(今日は学校で茜と会話どころか目も合わせなかったからな……まぁ不審に思うよな)
「別に何も……(原因はお前なんだけどな)」
「じゃあ茜さん、代わりに教えて」
「うん……ちょっとね……」
茜も気まずそうに目を逸らす。
「なんだよこの重い空気は、こんな時はパーッと何かしようぜ!」
「パーッとって何だよ?」
「いつも寄ってるコーヒー屋があるだろ?今日は1周年記念でイベントをやってるから行こ!」
利樹が暗い雰囲気を紛らわすために明るい声で提案してきた。
とりあえず今のところは順調だ。昨日の夜イコと話した通りだ。利樹が俺たちをコーヒー屋に誘う。そして今日は1周年記念のイベントをしている。
もしこのままうまく行ったら、こんな風に3人で帰るのも最後かな……
「こんにちはマスター、いつものください!」
俺達は店に入ると早速、利樹が注文をした。1周年と聞いたが店はいつも通りの落ち着いた雰囲気だった。
「ちょっと待った。俺はホットコーヒーをお願いします」
「かしこまりました。本日のブランドは苦味が強い豆なので、砂糖をお入れしますか?」
「大丈夫です。そのままで」
「かしこまりました」
何故かよくわからないが昨晩イコにブラックを頼むように言われた。普段は濃いコーヒーを飲まないけど仕方ないか…
低くて渋い声のマスターが答えると、手際よく作業を始めた。
「マスター聞いたよ、今日は1周年記念でしょ?」
「ご存知でしたか、よろしければそこのくじを引いてください」
マスタはーはカウンターの上にポツンと置いてある箱を指さした。
「くじ引きか!いいじゃん!早速やってみよ!」
くじ引きの前には数人の客が列を作っている。その中に1人見覚えのある人物が……
「あっ、すみません!」
利樹がその男に手を振った、向こうも視線に気づいたのか、こっちを振り返った。2人は知り合いなのか?
ひょろりとした男性で髪はボサボサ、みるからに不健康そうだ。忘れもしない茜と初デートをしたときにいたやつだ。サーカスショーでは一緒にお手伝いとして舞台に上がったな……
「2人はどう言う関係?」
俺は交互に見比べた。とても接点があるようには思えない。
「転校初日に曲がり角でぶつかったんだ。あの時はすみませんでした。危うく遅刻しそうでして……」
「いえいえ、お気になさらず。そういえばあれからスマホの調子は大丈夫ですか?ぶつかった拍子に画面が割れてしまいましたが……」
「特に問題ないですよ」
「そうですか。それはよかった。ところでこれからくじを引くおつもりですか?」
「もちろん!せっかくの1周年記念だしね」
「では占ってみたらどうですか?もしかしたら良いアドバイスが得られるかもしれませんし」
「占い?なるほどいいかも!」
利樹はスマホを取り出すと何やら操作し始めた。
「え〜と何々、左手で引きなさいか……まぁ試しにやってみようかな?」
利樹は箱の前に立つと左手を穴の中に突っ込んだ。イコによるとこいつは4等を引くはずだ。これから死ぬやつが4を引き当てるとは何とも皮肉なことだな……
「これだ!!」
箱の中から一枚の紙切れが選ばれた。
「よっしゃー、1等だ!!」
利樹は俺たちの方を振り返るとガッツポーズをした。
「1等?そんなわけあるかよ、見せてくれ」
俺は紙切れを受け取り番号を確認した。一体これはどう言うことだ?そこには1等と大きな文字で書かれていた。
「秋斗はどうだった?」
「俺はハズレだった」
「じゃぁ茜さんはどうだった?」
「私?私はね……」
茜は俺たちに紙切れを開いて見せた。
(えっ?どうして茜が?)
そう、茜が引いた紙切れには4という数字がはっきりと書かれていた。
「では1等の方には当店の特製ブレンドコーヒー豆です」
マスターは店の奥からコーヒー豆の入った袋を利樹に手渡した。
「続いて4等の方にはこちらのナッツの詰め合わせです」
「あっ、すみません私ナッツがアレルギーでして……」
「それは大変失礼いたしました、すぐに取り替えます」
マスターは違う景品を取りに行こうとした。
「ちょっと待ってください。茜さん、俺のコーヒーブレンドと交換しないか?」
「えっ……でもせっかくの1等なのにいいの?」
「気にせずに受け取って。ただし秋斗と2人で仲良く分けるように」
利樹がそう念を押すと茜に渡した。
「私としては秋斗と利樹の2人で飲んで欲しいけどな……」
茜がちらっと俺の方を見た気がするが聞こえなかったふりをしておいた。
この後俺たちはいつも通り並んで帰るのだが、例の交差点で利樹がトラックに轢かれるはずだ。だけど狂い始めた未来はもう誰にも止められない。待っていたトラックはいつまで経っても現れなかった。その代わりに……




