10話
「放送席、放送席、秋斗君が教室に入場してきました。早速インタビューしたいと思います。秋斗君、日曜日はいかがお過ごしでしたか?」
教室に入るとクラスのお調子者の男子がやって来た。朝から騒がしいやつだな……
「そんなこと急に言われてもな……」
「ちなみに何をしていたのですか?」
「何って、映画を見たりとか……なぁもう行ってもいいか?」
「ありがとうございました。それでは現場からは以上です!」
俺は荷物をロッカーに突っ込んで自分の席に向かった。ふと教室の入り口を見てみると茜も同じようなインタビューを受けていた。
「おはよう秋斗、初デートは無事に終わったようだな」
隣の席の利樹が面白がっている様な声で話しかけて来た。
「まぁとりあえずは……」
「それはよかった。なぁ今日の家庭科は調理実習だよな?」
「あ〜そういえばそうだった」
「一緒の班になろうぜ!実は今朝、占いを見たら隠し味になるものを教えてくれたんだ!」
「占いが隠し味を教える?前から思っていたけど変な占いだな。ちなみに何を入れるんだ?」
「それは食べてからのお楽しみだろ?」
利樹はそう言うと、子供がいたずらを思いついたような無邪気な顔で笑った。
「ねぇ何を話しているの?」
いつの間にか俺と利樹の間に茜がやってきた。あ!俺が昨日プレゼントしたあのヘアピンを付けている。
「あれ?茜さんそのヘアピンどうしたの?オシャレだね」
「これ?秋斗からもらったんだ!実は昨日誕生日で」
茜は髪から外すと、宝物を見るような目で眺めた。気に入ってくれたようで嬉しい。
「そうだったんだ!やるじゃん秋斗!」
利樹が俺の肩を肘で突いてくる。
「恥ずかしいから言いふらさないでくれよ」
無駄だとは思うが口止めをしておいた。
「ところで2人とも何を話していたの?」
「いや何も……「今日の調理実習の話、茜さんも一緒の班にならない?実は隠し味を持ってきたんだ」
「待ってく……「いいね、美味しそう、私も入れて!」
俺の警告は届かず同じ班になってしまった。できることならこいつと茜を関わらせたくない。
「早く調理実習の時間にならないかな〜」
利樹は楽しそうにしているが俺は不安で仕方がない、何も起こらなければいいのだが……
「今日作るのはパンケーキです。それでは皆さん始めてください」
家庭科の先生の合図と共に慌ただしく調理が始まった。それもそのはず調理に時間がかかると食べる時間が少なくなる。さらに食べ終わった後は片付けがある。ダラダラやっていると授業の時間内に終わらない可能性も出てくる。
「秋斗それとって、卵といて」
茜が手際良く指示を出していく。
「茜さんうまいね!普段も料理するの?」
「1人では作らないけど、お母さんの手伝いをしたりするかな。たまにお菓子作りとかもするよ」
「そっか、よかったな秋斗! そのうち茜さんの手料理が毎日食べれるぞ!」
「そうだね……うん? 今何って言った?」
他事を考えていたせいで適当に答えてしまった。利樹はニヤついているし茜は赤くなっている。変な事でも言ったか?
「はい、では班の中で誰か前に来て油と砂糖とバターを持っていってください!」
家庭科の先生がバターを切り分けながら取りに来るよう指示を出した。
「俺とってくるよ」
「じゃあ私も手伝うよ、利樹くんちょっと溶いた卵とパンケーキ粉を混ぜておいて」
「了解!」
俺と茜は材料を取りに席を外れた。どうせ席を立ったついでだから皿とフォークも準備しておくか……
俺たちは必要な素材と道具を集めて自分たちの机に戻った。
「よし、じゃあ焼き始めるよ!」
茜は生地をフライパンに流し込んだ。バターの香りと砂糖の甘い香りが部屋に広がる。
「うまそう!早く食べたい」
「まだ生焼けだよ。もう少し待ってね」
本格的な調理は茜に任せ、料理ができない俺たちは溜まった洗い物を片付けた。これだって立派な料理だ!
「よし、焼けたよ!お皿出して」
「待ってました。早く食べたい!!」
利樹がナイフとフォークを手に取って催促している。子供か、
俺は茜からパンケーキを貰うと、ナイフで一口大に切って口に運んだ。美味い!本当に美味い!パンケーキってこんなに美味いものだっけ?
焼きたての生地はふわふわで砂糖の甘みが広がる。鼻に抜けるバターの風味がいい。上にかかっているメープルシロップもいい仕事をしている。何だか笑えてくるな。でもなんだこの香ばしい香り?
「気づいたか秋斗、俺の入れた隠し味?2人がバターとか皿を取りにいってる最中にこっそり入れたんだ。何だと思う?」
「まさかナッツ!?」
「正解よくわかったな」
「おい茜、手をつけるな!!」
俺は勢いよく振り返った。茜の皿を見てみるとパンケーキが一口無くなっていた。
「っう………苦しい…」
茜は胸を押さえてバタッと倒れ込む
「どうしたの茜さん!しっかりして!!」
利樹が急いで駆け寄る。
「しまった、見落とした!」
「なんだよ!?、どういうことなんだ秋斗?」
利樹は狼狽しながら俺の肩を揺すった。
「茜はな……酷いナッツアレルギーなんだよ!!」
「何だって!?」
楽しかった調理実習が一瞬にして一変した。すぐさま救急車がやって来て茜が運ばれて行く。
「ぼくのせいだ、ぼくが隠し味なんか入れたせいで」
隣で利樹が嘆いている。
「お前のせいじゃない」
俺は利樹の背中を叩いた。
「秋斗……」
そう、これは利樹のせいではない。俺のミスだ。2人を近づけてしまった俺のせいだ。もうこれ以上茜のそばに居させるわけにはいかない。
俺は担架で運ばれていく茜の姿を見ながら決意を固めた。