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1話

 プロローグ


 線路を走るトロッコ、切り替え機の前に立つ貴方。もしこのまま何もしなかったらトロッコは真っ直ぐ進み、先にいる5人の作業員を轢き殺す。


 だけど貴方自身の手でレールを切り替えるとどうなるか?5人の作業員は助かるが、今度は別の作業員1人が犠牲となる。貴方ならどちらを選ぶ?


 トロッコ問題、誰もが一度は聞いたことがあるだろう。1人を殺すのが合理的と言う人や、トラブルに巻き込まれるのを恐れ、何もしないと答える人もいる。


 考え方は千差万別で様々な意見がある。だけど俺はどの答えにも納得がいかない。俺はこの問題が嫌いだ……










 重要人物紹介


 南 秋斗(みなみ あきと)  主人公


 宮島 茜(みやじま あかね)  主人公の幼馴染


 杉浦 利樹(すぎうら としき) 後に来る転校生


 倉田 信彦(くらた のぶひこ) ???


 






「おーい、ねぇ、聞いてる?ねぇ、秋斗(あきと)!」


 机に肘を突き教室の窓からグラウンドを眺めていると突然、肩を突かれた。


「ごめん(あかね)、何か言った?」


「だ・か・ら、この数学のプリントの解き方教えてよ!今日までに提出しないと居残りだよ〜」


「しょうがないな……」


 俺の名前は南 秋斗(みなみ あきと)どこにでもいる普通の高校2年生。特別顔が良いとか頭が良いわけではない。周りに100人いたらその他大勢と括られるようなレベルである。


 そして目の前でこのプリントが解けないと嘆いているのが俺の幼馴染みの宮島 茜(みやじま あかね)。保育園の頃からの付き合いでよく俺の所に来ては面倒ごとを押し付けてくる。元気で明るく、肩まで伸びたボブがよく似合う。クラスのなかでも彼女を嫌う人は一人もいないだろう。俺とは正反対な性格をしている。


「はい、できたよ。途中式も書いておいたから後でちゃんと復習しておけよ」


「ありがと助かる。やっぱり持つべきものは友だよね!」

 

 俺は茜にプリントを返すと帰り支度を始めた。


「そうそう秋斗、ついでにこの問題も解いてみて」


 茜はスマホを取り出すと何やら操作し始めた。


「さっさと帰って早くゲームの続きがしたいな…」


「すぐ終わるから大丈夫だよ」


 茜は俺の意見などお構いなくスマホを机に置いた。


 画面にはここを押せと言わんばかりにデカデカとスタートと書いてある。BGMもどこかやる気がなく見るからに安っぽい。広告でよく見かけるマフィアのゲームの方がよっぽど面白そうだ……


「画面を押してみて」


「はいはい」


 さっさと帰りたいから言われた通りに進めていくと画面が切り替わり、レールの上をトロッコが走り出した。しばらくすると線路が2本に別れその手前にはレバーが置かれている。


「これってもしかして…」


「そうトロッコ問題!ここを押せば線路が切り替わるからやってみて」


「嫌!」

 

 俺はキッパリと断った。


「なんで?」


「嫌いなんだよこのゲーム」


「そんなこと言わないでよ、ほらあと5秒しかないよ急いで!」


 茜が横からせかしてくる。仕方がなく俺はスマホの電源を落としてやった。


「ちょっと何するの!」


「スマホの電源を落としてこの問題を解かない。これでどちらも死なずに済む」


「いやこのゲームはどちらを選ぶかが重要なの!!」


 茜は不満げな顔で頬を膨らませる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ほら、さっさとプリント提出しないと補習になるぞ」


「あ!そうだった、すぐ行かなくちゃ」


 茜はプリントを手に取ると大慌てで教室を出て行った。


(慌しいやつだな…さて帰るとするか)


 俺はカバンを肩に背負って教室を出た。外に出るとあたりはどんよりとした薄暗い雲に覆われている。


(これは雨が降ってもおかしくないな……)


 天気を調べようとスマホを開いてみたらメールが一件入っていた。どうせ広告か迷惑メールだと思うけど①と付いていると何となく気になる。内容は……


 [今日の下校中に小学生5人がトラックに跳ねられて死ぬ。それが嫌なら茜と一緒に帰れ]


(なんだこれ?不気味だな)


 俺は即座に迷惑メールをゴミ箱に捨て学校を出た。一体このメールを送信した奴はどんな神経をしてるんだ?こんな事をして何が楽しいのか俺には全く理解できない。


「おーい秋斗!ちょっと待ってよ〜」


 校門を出かけた所で誰かに呼び止められて振り返ると、茜が小走りにやって来た。


「一緒に帰らない?」


 普段なら断るがさっきの変なメールが少しだけ、ほんの少しだけ気がかりだった…


「いいよ」


「え、本当?珍しい、いつも断るくせに」


「なんだよそっちが誘っておいて」


「へへ、確かに」


 茜はニコッと微笑む。一緒に家に帰るだけなのにどうしてこんなに楽しそうなんだ?


「ねぇ秋斗知ってる?昨日近道を見つけたの!ついて来て」


 茜はカバンを脇に挟むと急に走り出した。


「ちょっ、待てよ!」


 急いで呼び止めてみたが聞こえていないようだ。俺は慌てて後を追った。


 いつも通り学校に行き、退屈な授業を受けて家に帰る。何の変哲も無いありふれた学校生活。でもそんな日常は今日をきっかけに終わりを告げた。


 この日、この下校中に起きる事を俺は決して忘れないだろう。全ての物語はここから始まった。あの一通のメールが全ての始まりだ。ここから俺の日常は狂い始めていく。一度動き出した未来はもう誰にも止められない。それはまるで暴走したトロッコのようにどんどんとスピードを上げながら……










「へぇ〜ここに繋がっていたのか」


 狭い路地裏を抜けた先にはいつもの見なれた交差点が現れた。


「そう!すごくない!これなら遅刻しそうになっても安心だね」


「別に俺は遅刻しそうになったことはないけどな」


 しかし随分と早く家に着きそうだ。この時間帯だと小学生達の下校と重なりそうだ。そんなことを考えていたら早速、横断歩道を渡っているのが見えた。


 [今日の下校中に小学生5人が…]


「ちょっと待った!!」俺は思わずそう叫んだ、


「びっくりした!どうしたの急に大きな声を出して?」


「これを見れくれ」


 俺はスマホを取り出し例の迷惑メールを探した。けれど何故か見つからない


(くそ、どこにいったんだ?どうしてこういう時に見つからないんだ!)


 画面をスクロールして上から順に探していると、小学生5人がこっちにやって来て話しかけてきた。


「ねぇねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんもしかしてカップル?」


「うん、そうだよ」


 茜はかがみ込んで目線に合わせると、とんでもない事を言い出した。子供たちはうれしそうにキャーキャー騒いでいる。その間も俺は必死に迷惑メールを探していた。


「あった、ここを読んでくれ」


「なに?どうしたの」


 茜が横から俺のスマホを覗き込んだ。


「えっと、今日の下校中に小学生5人がトラックに跳ねられて死ぬ。何これ?」


「分からない、ただ帰ろうとした時ふとスマホを開いてみたらこんなのが届いていたんだ」


「迷惑メールでしょ?」


「だと思うけどな…」


 やっぱりただの悪戯か?でもなんだか胸騒ぎがする。


「ねぇお姉ちゃんたちあれを見て」


 小学生の1人がふと交差点を指さした。正直今はそれどころではないが何気なく車道を見てみると…


「おいおい嘘だろ?」


 どこかのんびりとした可愛らしい口調とは裏腹に迫り来る現実は全く可愛くない。車道から大型のトラックが俺たち目掛けて突っ込んで来た。そう、あのメールが予言していた通りに……












(どうする?どうすればいい?子供たちを突き飛ばして助ける?無理だ5人もいる間に合わない。なんとかドライバーに危険を伝えないと死ぬ!)


 俺は運転手の顔を覗き込み絶望した。


(こいつスマホを触ってやがる、脇道運転か?せめて茜だけでも助けたい!!)

 

 俺が茜を突き飛ばそうと腕を限界まで伸ばしたその瞬間、世界が止まったような感覚に襲われた。


(なんだこれ?)


 さっきまでの子供達の話し声や周りの雑音が一切聞こえない。これはあれか?もう俺は死んでしまったのか?だとしたら随分と早い人生だった。もし異世界ものだったら、轢かれて死んで転生がお約束なんだけどな……


「そんなことを言ってる場合ではありません。今すぐカバンをトラック目掛けて投げてくださいマスター」


 突然聞き慣れないどこか機械じみた声が聞こえてきた。


(誰だ?)


「早くしてください!」


 機械じみた声が俺を急かしてくる。確かに今は考えている暇はなさそうだ。


 俺はトラックの運転手めがけてカバンをぶん投げた。ゴンと鈍い音を立ててぶつかり、その衝撃でハッと我に帰った運転手は急ハンドルを切った。


 タイヤが擦れる音がした次の瞬間には鼓膜が破れるほどの大きな音を立てて電信柱に激突した。


「助かったのか?」


 小学生たちはワーワー泣き叫び、隣にいた茜はガクガクと震えて座り込んでいる。


「大丈夫か?」

 

 俺は茜に手を差し伸べた。


「ありがとう、大丈夫」


 茜は俺の手を握ると、フラつく足取りで立ち上がった。俺は恐る恐る横向きに横転しているトラックに近づいて中の様子を確認した。するとそこには……


「これは酷い……」


 運転席にはドライバーが見るも無残な姿で押しつぶされていた。


 その後すぐに警察がやってきて俺は事情聴取を受けた。いろいろ聞かれたが内容はほとんど覚えていない。茜は心配そうな面持ちで俺のことを見ていたが正直今は話をする気力が残っていない。


 周辺住民の人たちは何事かとぞろぞろと外に出てきた。あたりは野次馬で溢れ騒然とする。何やら様々な話が飛び交っているが、そんな話声をかき消すかのように上空に稲妻が走り雷鳴が響き渡る。急にあたりが薄暗くなり次の瞬間には大粒の雨が俺の背中を叩きつけた。それはまるでドライバーを殺したことへの罪悪感を象徴したかのようだった。











「ただいま」


「おかえり、ちょっとずぶ濡れじゃない!風邪引く前に着替えなさい」


 母親はタンスからタオルを取り出すと、俺に手渡した。


「わかったそうするよ…」


 脱衣所に行ってびしょ濡れの服を脱ぎ捨てて着替えると、俺は自分の部屋に向かった。


「おめでとう、いい判断だったよ」


 またさっき聞こえた機械音が話しかけてきた。


「何だこれ?一体君は誰なんだ?」


 どこから話しているのか分からず俺は天井に向かって話しかけた。


「ここだよ、ここ、スマホを開いてみて」


 言われた通りにスマホを開いてみると、見慣れないアプリが入っていた。開いてみると何やら検索画面が現れた。


「私の名前はイコ、未来を見ることができるAI」


「未来が見える?じゃあこのメールは?」


「そう、私が送ったもの」


 無機質な機械声がスマホから発せられる。


「………本当に未来が見えるのか?」


「見えるわ、例えばそうね…このあと君の母親から夜ご飯が少し遅くなると言われるわ」


「いいや流石にそんなこと分かるわけ「秋斗、今晩少し遅くなるけどいい?」


 一階から母親の声が聞こえた。


「あと電話が掛かってきます。そして20分後に晩御飯が出来上がるわ」


 イコがそう言い終わると同時に電話が掛かってきた。発信者は茜だった。


(これはすごいな…)

 

 詳しい話しは後日とし、軽く説明をしてスマホを置くと……


「秋斗、ご飯できたわよ」


「分かった、今行く」


 母親の声が聞こえて時計を見てみると、イコが言った通り20分経過していた。










 俺は流し込むように夕飯を食べるとすぐに自分の部屋に戻ってアプリを開いた。


「君は合格よ、小学生5人を救い、犠牲を最小限に抑えることができた。誇っていいことよ」


 イコは誇っても良いと言うが、とてもそんな気分にはなれない。


「人が1人死んだ……もっといい方法はなかったのか?」


「今の君には無理ね、それにどうみても悪いのはスマホを触っていたドライバーでしょ?」


「………」


「君に一つ質問、とある線路に暴走したトロッコがやって来た。君はちょうど切り替え機の前にいる。もしこのまま放置したら5人が死ぬ。でも君自身の手で線路を切り替えたら犠牲は1人ですむ、さぁどうする?」


 俺はスマホの前で腕を組み深く息を吐いた。


「有名な問題だな、でも俺はこの問題が嫌いだ!どの答えにも納得がいかない。でも今ようやく答えが見つかった」


「へぇ〜それは何?」


「トロッコ自体を止める。この未来を見る力があればそれがきっとできる。俺がみんなを導いて誰も悲しまない未来を作ってみせる!」


「うん、いい答えだ、君こそが人類の()()()()


 イコはどこか満足そうな声で答えた。


「先導者……それにしてもすごいなこの力はまさか本当に未来が見えるとは…」


「試しに気になる人の未来を調べて見たらどう?」


「そうだな、じゃあ茜の未来を教えてくれ」


「分かりました検索欄にその人の名前を書いてください」


 俺は検索欄に茜の名前を書いた。


「しばらくお待ち下さい、今調べています」


 イコはそう言うと黙り込んだ。


「結果が出ました。しかしこれは…」


「どうかしたのか?」


「それが…」


「何だよ何かあったのか?」


 何故か嫌な予感がする。一体イコはどんな未来を見たのだろう?


「茜様の()()()()()()()()


「未来がない?どう言うことだ?」


 イコはなせがその続きを話そうとしない。


「おい、どう言うことなんだ?未来がないって?」


 イコが申し訳無さそうな声で話し始めた。


「茜様は近い将来………()()()()()()…」


 









 


「亡くなる?嘘だろ…」


 (何を言ってるんだこいつは、どうして茜が死ななくちゃいけないんだよ!)


「私はマスターに対して嘘はつけません。ですが安心してください。1つだけ茜様を救う方法があります」


「何かあるのか、教えてくれ!何だってする!!」


 俺は食い入るようにスマホを見つめた。


()()()()()()()()()()()()。あなた自身の手によって。先に言っておきますが両方救うことはできませんよ、転校生を殺さない限り茜様の未来はありませから」


 イコはなんだか試すような声で話を続けた。


「幼馴染みである茜様と見知らぬ転校生、マスターは一体どちらを救いどちらを見捨てるのですか?どちらを選んでもいいのよ、だって全てを決める権限は貴方にあるのだから…」











???


「この交差点で小学生5人が死ぬ。そのはずだったよね?」


 1人の男がスマホに向かって話しかけた。すると……


「はい。そのはずでしたが……」


 機械じみた声で返事が返ってきた。


 さっきまで騒然としていた事件現場が落ち着きを取り戻し、野次馬もすっかりいなくなっていた。


「あの高校生は一体何者なんだ?」


「さぁ分かりません。試しに調べてみましたけど……」


「どうだった?」


「妨害されましたわ」


「妨害?なるほどね……」


 男はボソッと呟くと不気味な笑みを浮かべた。その目には酷いクマができている。


「作戦がある手伝ってくれるよね()()


「はい、マスター」


 男はボサボサとした髪をかき分けるとスマホをポケットにしまった。


「君も未来を見ることができるんだね……」


 男はそう言い残すと現場から消えていった……






 ご覧いただきありがとうございましたm(_ _)m


 今回は前回の反省点を踏まえて、ワクワクするような、先が気になる書き方を意識して作りました。まだ試行錯誤の日々ですが、色々と試して確かめていこうと思いますp(^_^)q


 ブックマーク、評価していただけると嬉しいです(^^)/面白そう!続きが気になる!と思ったら星5つ、イマイチだったら星1つ、もちろん正直に感じた感想で大丈夫です。


 それでは第2話以降でお待ちしていますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 投稿お疲れ様です! 2作目読みました。構成や情景描写めちゃくちゃいいです。簡潔で読みやすい文章も健在で、世界観に入り込みやすいと思いました。 やっぱり学園ものはスリル・ショック・サスペンス…
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