自衛隊怪談「ネットカフェ」
自衛隊時代に先輩から聞いたネットカフェに関する怖い話です。
※登場人物はすべて仮名です。
独身の自衛隊員はよくネットカフェを利用しています。
自衛隊では自由に外出することができません。
おまけに普段の生活も集団生活なので、周りは先輩隊員ばかりの部屋に入れば心休まる時間が無いこともあります。
実家が近ければ家に帰ってゆっくりしたりするのでしょうが自分の家からだいぶ離れた県外の駐屯地に配属される隊員もいます。
そんな隊員たちが休日によく使用するのがネットカフェです。
休みの日には一人になるために個室タイプのネットカフェに泊まり込みで過ごす隊員は少なくありません。
ビジネスホテルより安く、パソコンもマンガも飲み物もある。
脚を伸ばして眠れないこと以外は十分な環境でした。
私の先輩隊員である塚本さんが若い頃に体験した話
「あの頃は彼女も友達もいなかったし、街に出ても何もすることはなかったから外出したらまっすぐネットカフェに行っていたな」
今は結婚して家庭を持っている塚本さんですが、独身の若手隊員だった頃はほとんどの休日をネットカフェで過ごしていたようです。
そんな塚本さんがよく行っていたのは繁華街のど真ん中にあるチェーン展開している有名なネットカフェでした。
「駐屯地近くのネットカフェだと知り合いに出くわしたりほとんどの部屋が自衛隊で埋まっていたりするからイヤでさ」
それが理由でわざわざ街中のネットカフェに行っていた塚本さんはその日もいつも通りネットカフェで過ごしていました。
薄暗い店内、個室といっても板で仕切られただけの一畳あるかないかの広さ、誰かの大きなイビキも聞こえてくる。
しかし塚本さんにとっては最高にリラックスができる空間でした。
スナック菓子を頬張り、ドリンクバーで取ってきた炭酸飲料を飲みながらネットカフェで配信されている映画を観ていました。
映画も終わり飲み物を新たに取りに行こうとブースを出てドリンクバーへ行きました。
飲み物も補充し終えて戻ろうとしていた塚本さんでしたが驚いて一瞬足が止まります。
というのも自分がいるブースの右隣のブースから黒いボールのようなものがピョンと飛び出しているのが見えたからです。
ボールに見えたそれは、仕切りから頭を出して隣のブースを覗いている人の頭でした。
後頭部しか見えませんが、長いサラサラとした髪と小さな頭から察するとおそらく女性のようです。
塚本さんは背の高い方でしたが普通に立っても隣のブースを覗くことはできない造りでした。
なのでおそらくブースに設置されているリクライニングチェアーの上にでも立って頭を乗り出しているのだろう、と思っていました
塚本さんが自分のブースに入ると小さな声ではありますが隣から高い声でクスクスと笑い声がする。
なるほど、隣に友達か誰かいてブース越しに話でもしているのだろう。
しかし気になるほどでもないし、ヘッドホンをしてしまえば外のことなど気にならない。
塚本さんはヘッドホンをして2本目の映画を観はじまめました。
2本目の映画を見終えて、すっかりドリンクを飲み終えてしまったのでブースから出て、トイレを済ませてからドリンクを注いで自分のブースに戻ろうとした塚本さんは驚きました。
あの頭がまだ仕切りから出て隣のブースを覗いているるのです
あれから映画を一本観ていたので最低でも2時間ちかくは経っていることになります。
まさか最初に見たときからずっとあのままってことはないだろう。
あんな体勢でずっと話すくらいなら仕切られたネットカフェになど来なければいいのに。
塚本さんは不思議に思いながらも、たまたまあの体勢のときに見てしまったんだろう、と自分を納得させました。
すると自分のブースから2個右隣、つまり女が覗いていたブースから男が出てきたのです。
派手な髪でホスト風の格好をしたその男は覗いている女のことなど意にも介さないように歩きながらドリンクバーの方向へ進んでいきます。
それと同時に覗いていた頭も後頭部を向けたまま、横にスライドするかのようにスーッとホスト風の男を追っていきました。
仕切りがあるはずの空間をまるで足下に車輪でもあるかのように、もしくは首だけが浮いているかのように。
塚本さんは目を疑いましたがすぐにこう思いました。
アレは明らかに生きている人ではない、と。
塚本さんは急いで目を伏せました。
怖かったというのもありますが、塚本さんが一番恐れたのはそのまま頭がスライドしていくと後頭部しか見えていなかったそいつの顔を見ることになってしまうのを防ぐためにです。
しばらく目をつむってうつむきながら立ち尽くしているとホスト風の男がブースに戻ったのが分かりました。
恐る恐る目を向けると動いていた後頭部も元の場所にあり先ほどと変わらずホスト風の男がいるブースを覗いています。
「あの男に取り憑いているのか」
そう思った塚本さんは今のうちにここを出ようとすぐに自分のブースに戻り、タバコと伝票取りましたがライターが見つかりません。
入隊した記念に父親がプレゼントしてくれたとても高価なジッポライター。
薄暗いブースの中を這うように探していると背中にゴツンと硬いものが落ちてきたように当たり、それが床に落ちました。
探していたジッポライターでした。
まさかと思いながらもつい顔をあげてしまいました。
上を見ると髪の長いおばあさんがブースの仕切りの上から歯の無い口を真横に広げてニタリと笑いながら塚本さんを見下ろしていました。
そこからどうやって店を出たのかという記憶はないそうですが、その日は駐屯地に帰り、自分のベッドで眠ったそうです。
一人で眠るのが怖かったため、いつもは煩わしかった同部屋の人間がそのときだけはありがたく思えたのだとか。
「あれが唯一、集団生活で良かった、と思えた瞬間だったなぁ」
ヘルメットをかぶりなおしながら最後に塚本さんはそう言いました。
以上が私が聞いた怖い話です。
読んでいただきありがとうございました!
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