自慢の兄、自慢の妹
いつも周りから言われる、僕と妹は美男美女の兄妹だと。
朝比奈 空は学園のアイドルだ。
黒髪の美少女、キリッとした目鼻立ち、すらりと細い手足、括れた腰……立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花……才色兼備とは妹の事を言っているのだろう。
僕なんかとは比べ物にならない程の美貌の持ち主、学園のアイドルだ。
今、妹は僕の目の前で中学最後のピアノ演奏をしている。
音楽室……僕と妹の二人きり、弾いている曲は世界で一番美しいと言われている、練習曲作品10第3番ホ長調……フレデリック·ショパン『別れの曲』
ゆったりと音楽室に流れる旋律……音符の粒が僕と妹包み込む。
世界一美しい人が世界一美しい曲を弾く……。
そう……妹は世界一美しい……。
僕と妹は年子、同じ小学校、同じ中学校、そして来月から高校も一緒に通う事になる。
僕は妹を愛している……ずっと前から愛している……勿論この気持ちは妹には伝えていない……当たり前だ、実の兄が妹に恋するなんて……あり得ない。
妹はピアノを弾きながら僕を見てニッコリと笑う……ああ、可愛い、綺麗、美しい……この世の全ての誉め言葉を妹に捧げたい。
◈◈◈
私達は美男美女の兄妹って言われる。
朝比奈 陸は女の子に大人気だ。
少し低めの身長、女の子の様な可愛らしい顔立ち……お兄ちゃんは女の子からの人気が高い。
隠れファンって言うの? あまり表立っては言わないけれど、お兄ちゃんのファンは多い……そして私もその中の一人だ。
今、私は卒業式の後音楽の先生に許可を取りお兄ちゃんの為にお兄ちゃんの為だけにピアノを弾いている。
お兄ちゃんと別れるわけではないけど、中学のお兄ちゃんとのお別れという事で、ショパンの別れの曲を、お兄ちゃんの為だけに弾いている。
二人きりの学校……二人きりの空間……嬉しい……楽しい……私はお兄ちゃんが大好き、お兄ちゃんを愛している。
私の横でうっとりと聞き惚れてくれているお兄ちゃん、家でもよくこうやってよく聞いてくれている。
私はこのお兄ちゃんのこの姿を見たくてずっとピアノを弾いている。
私はお兄ちゃんが好き……。
でも……この気持ちはお兄ちゃんには伝えていない、当たり前よね、そんな事を言ったら嫌われちゃう、気持ち悪いって思われちゃう。
私はピアノを弾きながらお兄ちゃんを見る……お兄ちゃんは私を見てニッコリ笑ってくれた。
ああ、幸せ過ぎて身体が震える……胸がキュンとしちゃう……ダメダメミスタッチしちゃう……お兄ちゃんに下手くそな姿は見せられない、下手くそな演奏は聞
かせられない……。
最後の旋律……そしてお兄ちゃんとの最後の中学校生活……。
高校生なっても大学生なっても……ずっと一緒にいたい……でもそれは恐らくは叶わぬ夢……。
だって私達は兄妹だから……いつか別々の人生歩む日が来るのだから。
だから今この一瞬を、お兄ちゃんと一緒にいられるこの瞬間を……私は大切にしたい。
大好き、お兄ちゃん大好きです……愛しています……私の……お兄ちゃん。