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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

国ごと異世界転移・短編集

ファンタジー世界に召喚された自衛隊は身内と戦っていますた

作者: 303 ◆CFYEo93rhU

法知識のある方、ツッコミお待ちしております。

「分隊長! 反撃の許可を!」

「許可出来ない! 武器使用は正当防衛に限ると中隊長からも厳命されている!」

「我々は攻撃されています!」

「周りで爆発が起こっているだけで攻撃されている訳では無い!」

 普通科分隊の陸曹と陸士が武器使用の事で揉めていた。

 海外派遣において、現地の自衛隊は大きなジレンマを抱えたままであり、自衛隊という組織そのものが存亡の危機にあった。


 事の起こりは一年前。

 戦乱続く異世界の大陸に設けられた日本大使館の治安維持に派遣された陸上自衛隊の某連隊が現地人を殺傷した事件である。


 大使館の警備をしていた普通科中隊の近くに宝石を埋め込んだ杖を持った男が現れ、何事か唱えるとその男の周りに炎の塊が発生し自衛隊に向かい、自衛官に死傷者が出た。

 何度か同じような事が繰り返されたので、中隊長が現場判断で杖を持った男を拘束しようと試みたが失敗。止む無く攻撃を命令し、彼を殺害すると炎の嵐は止んだ。

 この男を殺害するのに無反動砲が持ち出され、爆風被害などで周囲に居た数人の一般人にも死傷者が出た。


 これがマスコミによって大々的に報道され、攻撃命令を出した中隊長とその命令に従った小隊長、現地の責任者である連隊長と発砲をした陸曹や陸士数名が殺人罪とその教唆罪で起訴されたのだ。

 業務上過失致死罪ではない。


 結果は起訴された全員の有罪。

 不適切な命令により無辜の市民を複数殺害した中隊長、小隊長とその監督責任のある連隊長には殺人教唆罪。

 小隊で実際に発砲に関わった陸曹と陸士は全員に殺人罪が適用され、全員が死刑判決を受けた。そして控訴は棄却され、刑が確定した。


『杖を持っていただけの男を無反動砲で射撃する行為は常軌を逸しており、被告人に対する酌量の余地は無い。杖で殴られたのであれば常日頃より訓練している格闘術で逮捕出来た筈であり、被告人の弁論には信頼性が無い。強力な武器の保持と使用を許可された自衛官であればこそ、その使用に関しては論ずるに足る正当な理由が必要であり、本件を正当防衛射撃による止むを得ない殺害であったとする事は到底認められるものではない。被告人に謝罪と反省の色は見られず、自衛隊内部の規律の緩みや犯罪の再発防止措置をも疑わざるを得ない』


 現場で直接指揮をしていた陸尉に対する裁判長の言葉である。


 現地部隊によって録画されたビデオには、当該現場に居た自衛官の証言にあった炎の塊など一切映っておらず、ただ杖を手に立っていた男が撃たれた場面の記録のみ。

 攻撃されているという場面も、自分達で勝手に飛び跳ねて自殺している一人芝居にしか見えない。


 これに関しては、大使館を置かせてもらっている相手国の顧問が“我が国に対する悪質な魔術師による犯罪であり、貴国の兵士の行為は正当である”と自衛官の無罪判決と助命を懇願したが、叶えられる事は無かった。


 有罪になった自衛官の全員は既に刑を執行済みであり、今更あれが冤罪だったとは言えない。何より無罪であると証明するに足る証拠が無いのだ。


 魔法使いが触媒に使うという宝石はルビーやエメラルドといった日本でも普通に宝飾品として存在するもので、ただの装飾の施された杖か魔法使いの武器かを判断する明確な基準が無い。

 触媒は杖の形状でなくとも良く、魔力の高い木材を使った杖が最も魔法使用に効率的だからそうしているだけで、指輪にしたり筆記具のような小さな道具にする魔法使いも居る。

 魔法使いでなくとも宝石を身に着けている者は居るから、尚更判断が出来ない。


『魔法使いが実在し危険な行為をする可能性があるからといって、自衛隊を宝石を持った人間を見かけたら撃ち殺すような殺人集団にしてはならない。自衛隊によって殺された人を魔法使いである事にすれば全ての罪が許される風潮に誘導してはならない。平成の日本で権力者による魔女狩りを認めない』


 というのが大手マスコミの論調である。だから魔法使いに攻撃されても正当防衛が成り立たない自衛隊は反撃してはいけない。


 そもそも攻撃されているという判断が正確ではない。

 宝石の付いた杖を持って何事か唱えている者が近くにいる事と、自分達の周囲で爆発が連続している事の因果関係が証明出来ないのだから。


 武器を使わずに拘束しようとすれば大量の流血を覚悟せねばならないが、何もしなくても仲間の命が奪われていく。かといって武器を使えば殺人犯。

 反撃すべきなのだろうが踏み切れない。自分一人の事ならば汚名を着せられても良いが、“殺人犯の家族”に対する社会的制裁を考えれば同じ轍は踏めない。


 自分にも部下にも国に家族があるのだ。

 遺された家族は無辜の市民を虐殺した自衛官の配偶者や子供、親や兄弟として社会から影に日向に差別され、虐げられる事になる。


「このままでは全滅です! 反撃しないのなら退きましょう!」

「邦人を置き去りにして我々だけ逃げろと? 奴らにとってこの国と通商している日本人は全員標的だ!」

 他の邦人を残して自衛隊だけ撤退するなど不可能だし、日本人全員を引き上げるのも不可能だ。自衛隊は国民生活を守るために当地の安全確保を任されて派遣されているのだから。


「この国の軍や警察が頼りになれば……」

「魔術師範のお嬢ちゃんが言ってたろ。カールグスタフ持ち出さんと対抗できないような相手に剣や弓ではどうにもならんと。この国は魔術師が少ないから軍の魔術士でも対処しきれない。魔術師に対抗できる武器があるのだから、大使館や商館くらいは自力で何とかしてくれって」

「でも……これでは、何の為に派遣されたのか解りません!」

 若い陸士はどうにも出来ない現実に涙を流していた。家族を守り、仲間を守り、日本を守る筈が自分の身を守る事すら許されない。


 周囲の空気が歪んで視界がぼやける。爆発が起こる前触れだ。

「負けて目覚めて……くれればいいな」

 その瞬間、分隊長と陸士は灰になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こっちの日本はだいぶエスニックジョークじみた世界になってんな…
[一言] この後の日本の惨状が知りたいw
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