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第四十四話 1945.9-1945.12 アルデンヌの戦い

欧州での戦争は続きます。





昭和二十年九月



新しいジェット襲撃機の設計が終わった。

これ迄の経験の集大成とも言える、私にとっても思い入れのある機体となった。


エンジンは既存の3000kgfの物を二基搭載するが、新たに開発中のジェットエンジンが来月にも試作品が完成するそうで、そちらの出来によっては再設計が必要になるかも知れないな。


新たなジェット襲撃機は57mm機関砲の他、12.7mm機銃を4挺機首下面に搭載する。

それとは別に、57mm機関砲の代わりに30mm機関砲を二門搭載した機首も合わせて作っており、陸軍は実戦データを見て、最終的にどちらが有効かを見極めるそうだ。


他にも、陸軍が新たに開発した82mmロケット弾を翼下に24発搭載出来る懸架装置や広範囲に爆弾を散らす事が出来る羽付き爆弾を搭載する為の特殊な懸架装置など、屈指となるだろう搭載能力を活かす為の数々の装備も搭載可能になった。


襲撃機という括りではあるが、恐らく皇国軍の対地支援機としては最大火力を誇る機体となるだろう。




欧州での戦争が依然続いているが、遂にパリを開放したと新聞報道があった。

フランス南部から上陸した部隊と、ノルマンディから上陸した部隊が合流を果たし、揃ってパリに入城したのだ。


幸い、ドイツ軍はパリを戦場にすることを望まなかったのか、泥沼化しやすい市街戦で兵力を損耗させるのを忌避したのか、撤退した後であったそうだ。


南部からの部隊はパリ入城後、再度南下するとイタリアへと軍を進め、北部の部隊は無傷で確保したシェルブールの港湾施設をフル稼働させて続々と後続部隊を上陸させ、前線へと送り込んでいる。


物量というと米国を思い浮かべるが英連邦の盟主である英国の動員できる底力も相当なものだ。

日本一国ではとてもこれほどの大規模な戦争を遂行することは出来ないだろう。


その欧州での戦争を支える物資供給の一端を我が皇国も担っている。

英国へ送られる物資は武器弾薬だけでなく、日用品、更には大量の穀物などの食料品も送り出されているのだ。





昭和二十年十月



連日新聞の一面は欧州での戦争関連の情報が報じられる。我が皇軍の活躍は目覚ましく英連邦軍の戦果に引けを取らない戦いを欧州各地で繰り広げているようだ。

しかし、対する独軍もドイツ国境が近くなるにつれ、手強くなってきておりその重さから機動性に問題があるドイツの重戦車も防御戦闘では十二分に活躍する。


とある戦場では、航空攻撃により破壊される迄わずか五両のドイツ軍の超重戦車が英軍の新型A41戦車で編成された部隊を長時間に渡り足止めし百両近くを行動不能にしたのだ。


巨大な砲塔が航空攻撃による内部爆発で吹き飛んだ写真を見たが、そばに立つ英軍兵士が子供に見えるほどの大きさだった。

これほど巨大な戦車は前世のソ連でも見たことがない。


我が陸軍は船でイギリスまで戦車を運ばなければならない関係で、今度の欧州大戦には新型戦車を送り込むよりは五式中戦車で押し通す方針の様だな。



連合軍はパリ解放後もドイツ国境を目指し猛進撃し、9月末にはベルギーのブリュッセルを開放し、十月上旬には先行する部隊がドイツ国境のジークフリートラインまで到達。


更に軍を進め英軍装甲師団がアントワープを開放し、我が欧州派遣軍はドイツ国境をついに突破しシュトルベルクへと迫った。


モントゴメリー元帥はオランダ経由でドイツ中枢に雪崩込んで一気に戦争に決着付けることを決意し、そのために障害になるだろうオランダ国内の複数の河川を越えるための橋を空挺作戦によって確保することを計画した。


“マーケット・ガーデン作戦”と後に作戦名が発表されたこの大作戦は、英国の第一空挺師団他、我が第一、第二挺進団、ポーランド旅団が参加する空前規模の空挺作戦で、それぞれの部隊はアイントホーフェン、ナイメーヘン、アーネムに空挺降下した。


我らが第一挺進団は割り当てられた目標であるアイントホーフェン近郊のフェフヘルの橋を確保、更に第二挺進団はグレーヴとナイメーヘンの橋を確保した。英軍とポーランド旅団は最も奥である北端のアーネム橋を確保した。


翌朝より彼らに合流するため、英軍の第30軍団は空挺部隊の確保した橋を渡り猛進撃を開始。

我が皇国の航空部隊による濃厚な航空支援により敵が待ち伏せしていた森を焼き払い、装甲部隊をスクラップにし、ただひたすらアーネムを目指した。


連合軍の誤算は元々この地域には強力な部隊は居ないはずであったが、実際にはSS装甲師団や降下猟兵旅団を含む強力な部隊が配備されていた。


特に一番北端のアーネムの橋を確保していたイギリス、ポーランドの空挺部隊はそれら強力な独軍に対し英雄的な戦いを繰り広げた。


しかし、ドイツ軍は皇国軍の航空支援を恐れており、SS装甲師団を早々と下げてしまい、残ったタフ極まりない降下猟兵と、東部戦線帰りのベテラン歩兵部隊からなるドイツ軍部隊との血みどろの市街戦が繰り広げられた。


英第30軍団はドイツの第15軍を鎧袖一触に蹴散らし、皇国の挺進団と合流し無事渡河に成功した。更に第30軍は快進撃を続けたが、予想外のトラブルは占領から解放された住民の熱狂的歓迎によって道が塞がれてしまい、通り抜けるのに何時間も費やすことになってしまった事だった。


しかし、四日目にはナイメーヘンの橋を渡河し英空挺師団が戦っているアーヘンへと到達した。

ドイツ軍は英第30軍が到着すると潮が引く様に撤退していき、無事マーケット・ガーデン作戦は成功裡に終えることが出来た。


しかし、英第30軍がアーヘンの橋を越えオランダ開放の為に更に軍を進めたところで、既に英第30軍が通過し、後続部隊到着まで第二挺進団だけが守備しているアイントホーフェンに強力なドイツ軍部隊が連合軍の分断を図り猛攻を加えてきた。

猛攻を加えてきたのは第2SS装甲軍団であり、引き上げたはずの部隊だった。


超重戦車をも保有するSS装甲軍団は強力な戦車砲で石造りで頑丈なはずのヨーロッパの建物を容易く撃破し、対戦車ロケット弾や無反動砲で反撃する我軍を追い詰める。


あわやというところで、無線による支援要請を受けたジェット襲撃機が飛来し、超重戦車を缶切りで缶を開けるように容易く撃破していく。

甲高いジェットエンジン音を響かせると陸軍自慢の57ミリ機関砲が火を吹く度に超重戦車が炎上していくのだ。もはや逃げることもままならない。


ジェット襲撃機に遅れてレシプロの襲撃機隊も飛来した所で、第2SS装甲軍団は撤退することも出来ず、戦車を捨てて徒歩で逃げ出す有様だった。


皇国軍はここで第2SS装甲軍団の車両の多くをスクラップまたは鹵獲し、多数の将兵を捕虜にした。

後続のカナダ軍部隊が到着し、我が挺進団は守備を引き継ぐと無事撤退に漕ぎ着けた。




以上が新聞記事から知ったマーケット・ガーデン作戦の状況だが、この詳細な記事をどうやって新聞記者が書いたのかは不明だが、ひょっとして最近の新聞記者は空挺降下もやって、一緒に降下して部隊に随伴したのだろうか?




今月、陸軍からジェット襲撃機の試作機制作の指示が出たため、制作に取り掛かった。

とはいえ、この戦争に間に合わない可能性もあるな…。





昭和二十年十一月



我が皇国軍はその後、シュトルベルクを占領しヒュトルゲンという広大な森を迂回し、決壊すると下流を壊滅的な状態に追い込む可能性のあるルールのダムと、砲兵陣地と観測所を建設するため400高地を攻撃し占領した。


ヨーロッパのこの時期は天候不順で湿っぽい雪が積もっており、車両部隊は行動を制限され、また頼みの綱の航空支援が満足に得られないのだ。


その後、包囲していたアーヘンのドイツ軍守備隊も降伏した。天候不順もあり、これ以上の前進は困難と一先ず陣地を構築し天候の回復を待つことにした。


しかし、英軍担当の北部はマーケット・ガーデン作戦の成功のおかげでライン河を早々と渡河しハノーバー、ブレーメンといったドイツの主要都市に向け進撃していた。





昭和二十年十二月



欧州での戦争は続くが、今年ももう終わりだ。


新しいジェット襲撃機の試作機製作は順調に進み、新型ジェットエンジンの燃焼試験も順調のようだ。

新型エンジンは同等の出力で、以前よりは燃費が良くなるという話で、襲撃機に必要なエンジンであると言える。

年明けには目処が立つそうだから、エンジンの性能次第だが来年からはこちらの新型エンジンに合わせて試作機を設計変更しなければならないな。




欧州での戦争はイギリス軍は突出しブレーメン、ハノーバーを占領、エルベ川まで到達した。

東部戦線はソ連の大攻勢は挫いたものの西部戦線が影響したのか、ドイツ軍は既にソ連とポーランド国境辺りまで押し込まれており、少なくとも冬の間は睨み合いの状況らしく、このまま行くと英軍が一番最初にベルリンに到達するのではないか。



皇国軍はヒュルトゲンの森の警戒の為に、カナダ軍と共に一部部隊を残すと、イギリス軍が通り抜けた後のアルデンヌの森に展開し、年を越すことになった。


アルデンヌの森は開戦時にドイツ軍が一度通ったルートであり、一度あったことはもう一度ある可能性があり、我軍が陣地を築き警戒することになったのだ。


とはいえ、既にアルデンヌは戦線の後方であり、激戦の中を戦い抜いてきた皇国軍にとってつかの間の休息にもなり得ると思われた。


しかし、悪天候が続く12月16日の早朝、霧が立ち込める森の中をドイツ軍は静かに進軍してきた。


我軍は突然の敵の重砲による支援砲撃によって奇襲攻撃を受け、恐慌状態にこそ陥らなかったものの、危機的状態に陥っており航空支援も絶望的な中、各部隊が個別に防御戦闘を開始したのだ。


やがて重砲の支援砲撃が止むと、ドイツ軍が歩兵を先頭に霧の中から現れ、そしてその後敵の重戦車が歩兵に先導されながら進軍してくる。


我軍の戦車部隊はこの地域には居らず、17ポンド砲や6ポンド砲で迎撃するも敵の重戦車の前面装甲は抜けず、敵の歩兵部隊に次々と制圧されていく。


我軍の陣地はドイツ軍戦車に踏み潰され、決死の対戦車攻撃に躍り出た兵士は随伴歩兵にたちまち撃ち倒される。


欧州での戦争始まって以来の危機に我軍は見舞われ、我軍の陣地を抜けたドイツ軍が一路アントワープへと猛進撃を開始した。


しかし、我が方もやられっぱなしと言うわけではなく、近くの部隊が急行してきて敵に応戦し、ドイツ軍の脇を固める部隊との交戦を開始する。

だがドイツ軍の主力部隊は側面部隊を置き去りに更に進撃を続けた。


結局の所、突出したドイツ軍部隊は燃料切れで多くの車両を遺棄して撤退していった。途中の要衝の一つであるバストーニュは結局最後まで落ちなかった。


そして、ドイツ軍の攻勢が始まってから一週間後、漸く天候が回復し我軍の航空部隊が大挙敵部隊を追い払う為出撃し、まだ戦っていたドイツ軍部隊もこの攻撃で多くの装備や車両を失い撤退していった。


その後、ドイツ空軍が珍しく数百機もの戦闘機と攻撃機で出撃し、前線飛行場を攻撃したが迎撃に上がった我軍の航空部隊に多くが撃墜され、殆ど戦果を残せなかった。



この様な激戦地域の詳細な記事を送ってくる従軍記者には敬服する。

恐らく、戦地で亡くなった記者も少なくないのだろう。




軍関係者の話だと、ドイツ軍のジェット戦闘機は英軍の鈍重な四発爆撃機に対しては極めて有効な性能を発揮するが、一撃離脱後の機動に失敗し一度大きく速度が落ちるとレシプロ機でも簡単に撃墜可能な程運動性能が落ちる事がわかっている。


また、ドイツの長鼻とあだ名されるレシプロ戦闘機はレシプロ機としては限界近い最高速度を誇る優れた戦闘機だが、我軍のジェット戦闘機にベテランが乗っていて戦い方を間違えなければまず負けることがないと話していた。


とはいえ、攻撃機などは撃墜されたりはして居るようだ。



敵の起死回生の攻勢も頓挫し、年が明けて東西両方から攻められるとドイツも流石に降伏せざるえないだろうな。



新聞の海外欄に米国国内の話題が継続的に掲載されているが、いまアメリカは赤狩りが進んで大変な事になっているようだ。


英国からの情報や米国国内の情報、治安当局などから色んな情報が出てきて、ルーズベルト政権内に何百人というソ連のスパイが居ただとか、米国共産党の暗躍が国家を左右するレベルだったとか、毎日のように名の知れた役人や政治家、大学教授などが逮捕され、現在米国民の対ソ感情は最悪の状況だ。


何しろ、する必要もなかった対日戦にルーズベルト政権内のソ連の工作員やシンパを使って米国を引き摺り込んだ張本人はスターリンとソ連だと知れたのだから、あの戦争で家族が死んだ遺族達は怒りが収まらないだろう。


更には、前政権ではあれほど支援していた中国、厳密には国民党蒋介石一派と、ソ連の支援を受けている中国共産党に対する感情も相当に悪化している。

特に、蒋介石はその妻を使って米国人を欺き不当に援助を引き出したばかりか、ルーズベルト一派と結託し、米国の軍人たちを戦争に巻き込んだ事も発覚している為、最早米国に再入国することは無理だろうな。


どんな人物か詳しくは知らないが、中国での米人義勇軍の司令官だったシェーンノートという将校がルーズベルトや蒋介石がやったことに対する証言をしているようで、その内容はかなり重要証言になっているようだ。


中国ではどこの支援も得られなくなった国民党軍と、英米の支援がなくなってそれどこれではないソ連からの支援が得られない共産党軍が内戦状態。


上海を米軍、香港をイギリス軍が守備して居るようだが、どう落ちが付くのか。


結局、満州も軍事顧問団だけでは治安回復が困難だと判断されたのか、米軍が派遣されるようだな。




アルデンヌの戦いは史実と同じくドイツの負け。しかし、皇国軍もかなりの被害が出ました。

ちなみに、この段階のドイツ軍は超重戦車が数は少ないですが量産され、イギリス軍はセンチュリオンが居ます。

皇国軍は五式中戦車のままです。


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