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第四十話 1944.10-1944.12 戦車

反攻作戦の準備が進みます。





昭和十九年十月



皇国は新たな戦争に向け、戦時体制が継続されている。


しかし、その新しい戦争は遠い欧州での戦争という事で、国内的にはすっかり平時に戻ったように思う。


米国国内の情報も少しずつ新聞報道されるようになってきたが、どうやら日本との戦争責任についての追及が為されている様だ。


戦争前の日米交渉時の交渉担当者が証人として議会に立ち、中には身柄を拘束された者も居るという事だが、一体どういう事なのであろう。

別に、米国は戦争に負けたわけじゃない筈であるが…。



軍関係者によると、年内に予定されていた欧州大陸への上陸反攻作戦はどうやら延期されたようだ。


英国の意向としては年内に上陸作戦を敢行しフランスに橋頭堡を築きたかった様であるが、日英で共に軍事行動をした事は殆どなく、装備面や補給面、指揮系統の整備などをしなければとても戦えない。


そういう両国政府の判断になったようだ。


一方ドイツは枢軸同盟国と共にソ連と東部戦線で現在文字通りの泥沼の戦争を繰り広げている。北アフリカにもイギリスとの戦線を持っているが、東部戦線に比べればごく小規模でしかない。


ソ連は地の利もあり善戦はしているが、ソ連領内からドイツを追い出すどころか主要都市を取ったり取られたりを繰り返しており、ソ連が物量に物を言わせて何度となく大攻勢を掛けているものの、戦争に巧みなドイツ軍にその都度挫かれ大損害を受けているとか。


そんな独ソの東部戦線の情報は、今迄日本にあっては殆ど入ってこなかったが、英国と同盟を結んだことで英国が把握している東部戦線の情報が入ってくるようになったのだ。


もっとも、独ソ戦の情報が国内で大きく報道されることは殆ど無い。特に日本に直接関係ない戦争でもあるしな…。



今月下旬には、エジプトに陸軍の二個旅団が向かった。


現地で、装備を砂漠地域での戦闘に対応できるように更新し、欧州での大反抗作戦に先立ち北アフリカでの枢軸軍に対する攻勢に参加するそうだ。


師団ではなく、旅団というのはどういうことかと思い、陸軍の関係者に聞いてみた。


関係者によると陸軍には独立混成旅団という諸兵科連合の機械化部隊が以前からあり、後に戦車師団に再編されて中国で戦っていたそうだ。


その編制内容が英国の要望に適合した為、内地に引き上げてきて再度編制するにあたって元の独立混成旅団に戻して二個旅団を作り、エジプトに派遣した。


そういう事らしい。




今月、三角翼機は陸海軍両方で正式採用が決まり、それぞれの軍に合わせた要求仕様を加え来月から本格生産に入ることになった。


軍としては精強と聞くドイツ空軍の実力を警戒しており、三角翼機を欧州での空の戦いの切り札としたい様だ。


採用機番は四式重戦闘機、今回から陸海共に同じ機番を使う。


四式重戦闘機の本格生産に伴い、三式重戦の生産ラインが四式重戦用に更新されてしまうので、三式重戦の生産は終息となる。





昭和十九年十一月



現在イギリスから届いた戦車のサンプルを元に、陸軍では新型戦車を開発中らしい。


ところが、イギリスから提供されたドイツ、ソ連の現在装備している戦車の情報を精査すると、最新型と言われるイギリス製戦車ですら能力不足なのではないかと不安視されているとの事。


元々、現在陸軍主力の三式戦車は米国のM4戦車の登場にショックを受けた陸軍が急遽作り上げた急造戦車の意味合いが強く、本来開発していた次期主力中戦車はもっと前の昭和十六年より開発が進んでいたらしい。


そこで、その次期主力中戦車に英国から提供された6ポンド砲、或いは75ミリ速射砲を搭載し完成を急いでいたが、独ソの現行主力戦車の性能を見ると明らかに能力不足だとの事だった。


つまり、戦車としてはバランスの取れた良い物が出来ると思われるが、その火力はソ連の現在の主力戦車が装備している85ミリ砲に劣り、そのソ連の主力戦車が苦戦するドイツ軍の主力戦車に日本の新型戦車の歯が立つとはとても思えない。

そして、ドイツ軍の戦車の主砲はソ連の主力戦車をアウトレンジで楽に破壊するほどの火力がある。


イギリスからの情報を総合すると17ポンド砲を装備するのが妥当であり、装甲もそれに見合う程の物でなければドイツ戦車に対抗するのは困難であろうと結論された。


現にイギリスも日本に送って来た主力戦車の次の主力戦車を現在急いで準備中で、それは17ポンド砲を装備すると知らされている。


以上の事から陸軍は、現在の新型戦車の計画は放棄し、新型戦車より更に強力な戦車として並行して開発中であった35トン戦車を元に新たな40トン級戦車を急いで開発する事にした。


新型40トン級戦車は、イギリスから齎された開発中のA34戦車の情報やソ連やドイツの現行戦車の情報を元に、傾斜装甲も取り入れた我が国の戦車としては非常に重装甲の戦車となる。


この戦車の開発は陸軍主導ではあるが、海軍陸戦隊も装備する予定の為、海軍も鋼板などで技術協力をして居り、米国製のM4では簡単に破壊できないし、逆にM4を撃破出来る戦車となるだろう。


これが、今日初めて会った陸軍の技官が私に熱心に語ってくれた、我が軍の新型戦車開発の概要である。


そんな話を、まったく畑違いの航空技術者の私が、航空機メーカーである中島の会議室で何故聞く事になったかというと、航空機の更新の際に外され保管されている大量のユモエンジンを新型戦車に活用することになったから。


本来であればディーゼルエンジンを搭載したかったそうだが、40トン級戦車に必要と思われる大馬力ディーゼルエンジンが未だ開発出来ていないため、航空機用の余剰エンジンを搭載する事にしたそうだ。

そこで、検討されたのが川崎と中島の液冷エンジンであり、信頼性と実績から中島が選ばれたと。そういう事らしい。


検討の結果、ユモ211を戦車用に調整してそれを搭載する事にしたそうで、当時このエンジンを搭載した機体を作っていた私が何故か同席を求められたのだった。


とはいえ、ほとんど話を聞くだけであまり話をすることも無かったが…。





昭和十九年十二月



皇国からイギリスへ随分と記者が渡った様で、現地の皇国軍の活動が報道される。


英軍と合同で行われた演習風景などが新聞紙面に載っていた。

日の丸が描かれたイギリス製戦車が颯爽と平原を駆ける写真など、実に勇ましい。


そういえばここ最近連絡が無かった南郷大尉から手紙が届き、それによると彼は少佐に昇進してイギリス派遣艦隊の空母に載って出撃していて、現在英国に駐留中だそうだ。


これ迄は出撃中は防諜上の問題から音信不通になっていたのだが、英国に駐留中の間は内地に手紙を送ることが認められたそうだ。


新型飛行機の噂を聞いたそうで、それに搭乗するのを楽しみにしている、で手紙は締められていた。


三角翼機は低空・低速時の性能の改善の可能性を探るため、ダブルデルタの試験機の制作が発注された。基本設計は以前済んでいたので、チームを動かし手早く図面を起こすと早速制作に入った。

また今月から、ジェット襲撃機の修正設計にも取り掛かった。


以前納品したジェット襲撃機の試作機は、テストした襲撃機乗りのパイロットが気に入ったとの事で、欧州へ持って行ってしまったらしい。


部品はかなりの部分、すでに採用されている爆撃機と共用だから整備は可能であろうが、一機だけジェット襲撃機でどうするつもりなのだろうか…。



そして、今年ももう終わりという所で陸軍から呼び出しがあった。

陸軍の試験場に案内されると、発動機部門の技師が既に来ていた。

つまり、新型戦車の試験の見学をして意見を聞かせてほしいと言う事だ。


驚くことに、新型戦車は車体のみであったが、既に試作品が完成しており、それが聞きなれたエンジン音とともにやって来た。


そして陸軍関係者から、この新型戦車について意見を求められたのだが…。


陸軍が何を聞きたかったかというと、つまり襲撃機の設計者からみてこの新型戦車はどうだろうかという話だ。陸軍は今運用している襲撃機の30ミリ機関砲がドイツ製だという事を当然知っていて、それを装備したドイツ機を警戒しているのだ。


諸元を見せて貰い車体も一通り見せて貰ったが、30ミリクラスの機関砲を搭載した襲撃機が敵にあれば上面装甲は簡単に抜かれる、と返事をした。

30ミリクラスの機関砲を装備したドイツ襲撃機に戦車の装甲だけで対抗するのはまず無理だ、とも返事をした。


では何か、それに対抗する良い手は無いだろうか。

これを聞く事が、私が今回呼ばれた理由だ。


私は、一番いいのは制空権を常に維持し地上部隊に敵襲撃機を近づけない事であるが、自衛手段としては煙幕の大量装備。それにM2重機を戦車の砲塔に装備してはどうかと提案した。

あれは中々強力な機関銃であり、あれを地上から一斉に撃たれれば多少は脅威になるだろう。


他には、部隊に随伴する対空機関砲や地対空ロケットを装備した対空戦車も併せて開発する事も提案した。


地対空ロケットの歩兵携帯版もあればいいのだが、流石にそこまでの小型化は今のところ無理だろう。


歩兵携帯のロケット弾自体は対米戦争には間に合わなかったが、米国が装備していたM1ロケット発射機を参考に我が軍でも開発した81ミリロケット発射機を欧州派遣軍に装備しているそうだ。



結局今年も忙しく年末迄働きづめで、慌ただしく大晦日の最終電車に乗り込んで実家に向かった。



日本軍は史実には無かった性能の戦車を開発中です。

性能的にはパンサー位でしょうか。

形状的には傾斜装甲の車体を持った17ポンド砲装備の5式戦車です。


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