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第三十六話 1943.9-1943.12 紙飛行機

夏の大規模攻撃で敵の空襲を抑え込むことができました。

空襲の無い秋空の下主人公は散策に出掛けます。





昭和十八年九月



海軍向けの新型攻撃機の審査が通り、試作機の制作に入った。


試作機が完成し、試験結果が申し分なければ艦載攻撃機はこの機種一本に絞るそうだ。


ジェット攻撃機は現状の皇国海軍空母では運用不可能との結論との事だが、私が次に手掛ける単発ジェット機は海軍でも試験するとの事だった。


であるならば、エアブレーキは標準装備にすべきか。




九月は先の大攻勢のお陰か、空襲は収まり敵機動部隊の艦載機による執拗な機銃掃射もなりを潜めているそうだ。


いかな米軍でも、さすがに被害を受けた翌日に何もなかったことには出来なかったようだな。


とはいえ、早ければ今月中にも再び空襲が再開されそうな気がするのだ。



そんな久し振りの静かな秋空の下、単発ジェット機のデザインを頭に思い描きながら散歩をしていると、子供たちが紙飛行機を飛ばしているのが見えた。


私も前の人生で子供の頃、紙飛行機をよく飛ばしたものだが国によって違いはあるのだろうか。二度目の人生では紙飛行機で遊んだりという事はしなかったから、この国の紙飛行機というのを直に見るのは初めてだった。


そのうちの一つが足元に飛んできたので拾ってあげると、子供が取りに来るまでどんな紙飛行機なのか見てみる。


一見簡単な子供が作った紙折の飛行機に見えて、手に取ってみると意外に手が込んでいるのがわかる。


私は思わずほうと感心して声を上げてしまった。


三角翼のその紙飛行機は垂直尾翼まで付いていたのだ。


子供が受け取りに来ると手渡してやる。

すると、また友達達のところに戻って飛ばし始める。


他の子どもたちの紙飛行機もそれぞれ特色があり、滑空時間が長いものや、必ず一回転するような物もあった、私が拾った三角翼の紙飛行機は速度がありまっすぐ遠くへ飛ぶ飛行特性がある様だ。


あの形態はレシプロ機ではあり得ないが、ジェット機ならばあり得るのではないだろうか。ふとそんな事が頭に浮かぶと、途端に三角翼の紙飛行機がジェット機へと姿を変えて頭に思い浮かぶ。


なるほど、一度模型を作って風洞実験をする価値はあるな。


秋空の散歩で思わぬ収穫を得た。




今月、ジェット爆撃機と攻撃機の試作機が完成した。


試験飛行の結果、エンジン出力が向上したこともあり、当初の想定より性能が格段に向上した。


襲撃機型は自重が8000kgもある重量機となったが、最大離陸重量は12,000kgに達した。


爆撃機型もエンジンが重くなり自重が増えたが、エンジン出力が強化された分、最大離陸重量が向上した。


ネ-11ターボジェットエンジンは一基で2000kgf近い出力を達成し、二基で4000kgf近い推力を持つ。当初、ジェットエンジン一基の推力が1000kgfも無かったことを考えれば随分と出力が向上したものだ。


飛行試験は問題なく終了したが、安定性は兎も角飛行特性は必ずしも良いとは言えず、特に襲撃機型はもっと低空での飛行性能を強化しなければならないかもしれない。

ただ、その場合は旧来のレシプロ機でいいじゃないかという結論になる可能性もある。


爆撃機型は、高速で侵入し任務を達成したらそのまま高速で離脱する様な運用になるだろうな。


社内試験を終えた試作機は細かな手直しの後、軍での試験の為に陸軍に引き渡した。



昭和十八年十月



結局、米軍による空襲は九月中は無かった。


しかし、硫黄島へはジェット戦闘機の偵察型による強行偵察を継続的に行っており、また急ピッチで進む敵施設復旧に対し、陸海軍合同による航空攻撃が継続的に実施されていた。


その結果、硫黄島の施設の復旧は遅々として進んでいない、筈であった。


だが、実際は米軍の基地設営能力は皇国軍上層部の想像を大幅に上回っていた。


ある日、再び復旧を阻止するために硫黄島に攻撃に行くと、前回の空襲から一週間も経って居ないにも拘らず、滑走路は完全に復旧しており、更に航空攻撃に対し強靭な防御力を持つ天蓋を備えた掩蔽壕の建設迄が完了していた。


通常であれば、セメントで固めたような頑丈な鉄筋コンクリート製の掩蔽施設を建設するにはそれなりの日数が掛かる筈だ。しかし、米軍は重機を駆使し何らかの手段で早期完成を成し遂げた様だ。


更に、新たな航空隊も既に進出してきており、迎撃に上がって来た戦闘機は従来のP-40やP-47以外にも細長い新型機が上がって来たらしい。

その戦闘機は我が方の戦闘機ともほぼ互角。最高速度は恐らく700km/hに迫り、運動性も悪くないらしい。


これ迄皇国軍は米軍に対し、戦闘機の性能では優位を維持していたが、これで逆転された、と迄は行かないが、皇国が米軍相手に楽に勝つことは出来なくなったという事だろう。


写真を見せてもらったが、やはりそれは予想通りP-51であった。



今月、三角翼機のモックアップ完成。

なにより、谷があそこまでこのデザインに食いつくとは思わなかった。


何かジェット戦闘機に関して思うところがあったそうなのだが、私が書いたデザインを見せると、一言「これだ!」と。

それで、谷と相談して翼のデザインを整え、幾つかのパターンのモックアップを作った。

紙飛行機のデザインそのままの鋭角の三角に更に正三角形を重ねたような二つの三角を持つタイプ、他ににも正三角形の主翼の前に、更に正三角形の補助翼をイカの様に重ねたタイプ。さらには三角翼の主翼の身のもの、そして三角翼の主翼に従来の尾翼を備えたタイプ。


これらのモックアップを風洞実験し、それぞれの特性を克明に記録していった。


翼の形状はそのまま飛行特性にも繋がるため、実際に使用する軍の意向も聞かなければならないだろう。


風洞実験の結果、どれを採用するかは兎も角、従来のテーパー翼より三角翼の方がよりジェット戦闘機としての必要特性を備えていることが判明した。





昭和十八年十一月



小笠原諸島で二度目の艦隊決戦が行われた。


新たに南北より進出してきた敵二個機動部隊が日本の哨戒網に掛かり、潜水艦隊と本土から出撃した重巡洋艦を旗艦とする二個水雷戦隊が連携し、それぞれ敵機動部隊に夜襲を掛けた。


米軍の感覚では考えらない程の遠方からの音響酸素魚雷攻撃は、敵艦隊に対し一網打尽とばかりに大打撃を与え、更に新型魚雷を搭載した潜水艦隊が引っ掻き回す。

そして、残敵に水雷戦隊が突入、掃討し文字通り壊滅的打撃を与え、我が方の損害は皆無という一方的な戦闘となった。


この話を聞いたときは清々しく感じたが、同時に米軍がこのまま無策とは考えられない。


米国ならば毎月の様に数隻の空母、十隻の巡洋艦、百隻の駆逐艦を完成させ、戦訓を反映し新装備を搭載した新型艦を配備した新たな艦隊が続々と押し寄せても何の不思議もないのだから。



今月、新型単発ジェット機のモックアップデータを陸軍、海軍に提示したところ、

選択されたのは三角翼であった。

技研でも検討したところ、二つの三角を持つタイプは、二つの特性を持つともいえる為、想定外が起こる可能性が懸念される。

三角翼以外のタイプも同じく新しい翼の形の為、想定外が起こった場合の蓄積が無いため、まずは三角翼でデータを取り、その次は三角翼に従来の尾翼を備えた物、その先にその他のバリエーションを検討すべきとされた。


早速、三角翼機で図面を引くことになり、その作業に取り掛かった。



そんな今月下旬ごろ、英国から皇国に対米和平仲介の申し出があった。


皇国臣民の対英感情は元々かつての同盟国として悪くはなかったが、かの新聞記者の活躍により更に良好となっており、それと反比例する様に米国の日本攻撃に対し対米参戦しなかった独伊に関しては、その存在が忘れ去られていった。


現在の外相はかつて三国同盟締結に反対していた重光葵氏で、その三国同盟締結の時に外相だった松岡元外相はすっかり出てこなくなった。


政府は無条件降伏も同然の米国の降伏勧告は到底受け入れるわけにはいかないが、戦争の早期終結を節に願っているとして英国の仲介を受け入れると声明を発表した。





昭和十八年十二月



三角翼機の図面が完成した。


旧来の飛行機とは全く異なる外見の機体であるが、案外ドイツや英米に行けば、普通に開発されている可能性もある。


ドイツは勿論、英国もジェットエンジンの開発は進んでいた筈で、それに伴う機体の開発も同じように進んでいるだろう。

この辺、現在は情報があまり入ってこないのでわからないが…。


兎も角、陸軍も海軍も図面の提出をせっつくので、完成したばかりの図面を提出した。

恐らく審査の答えは来月くらいだろうか。



併せて、今月海軍向けの攻撃機の試作機も完成した為、テスト飛行を行った。


飛行試験は問題なく、不安であったエンジントラブルも無かった。


目新しいことは特になく堅実な設計にしている為、見た目の奇異さに比べると普通の機体だから問題だらけでも困るのだが。


攻撃機であるから、安定性と堅牢性を重視し、更に800km/hを超える急降下速度で急降下してもびくともしない。

三千馬力機のパワーを発揮するエンジンは10000kg近い最大離陸重量を可能にした。

しかも、エンジン自体もパワーのわりにそこまで重くはなく、自重は6000kg以下に収まっているのだ。


機体下と翼下に懸架装置を任務に合わせて取り付ければ、水平爆撃は勿論、雷撃から急降下爆撃まで幅広くこなすことが出来る。


半面、モーターカノンが着かない為、大口径機関砲は搭載しておらず、二十ミリ機関砲を二門と12.7ミリ機銃四挺を搭載しており、簡単な空戦ならは可能だろう。


立ち会った海軍の関係者の評価も悪くなく、早速年明けから海軍でテストすることになった。



海軍関係者の話では、硫黄島の米軍基地には継続的に空襲を掛けており、天蓋付き掩蔽壕には海軍が開発した800kg徹甲爆弾が使用された。

簡単に言えば、対戦車砲の徹甲弾と同じく貫いて爆発するタイプの爆弾で、掩蔽壕の天蓋を貫通し破壊することができたそうだ。


また、中国南部では仏印米軍相手の戦闘が続いているが、幸い日本本土への空襲は抑え込めている様で、このまま戦争が終わってくれると良いな…。




そして今月、イギリス東洋艦隊の巡洋艦に乗ってグルー元米大使が母国へ帰国した。


英軍の巡洋艦での帰国という事は、米国との仲介にグルー元米大使が必要なのかもしれない。



いよいよイギリスがでてきました。

そして、年が明けると長い米大統領選挙が始まります。


ちなみに、海軍の新型攻撃機はプファイルに似た形状になっています。勿論エンジン一台で後ろプロペラも付いていませんが。

ノーズの長いラジアルクーラー搭載機の前輪機ってプファイルみたいな形状になりますよね…。

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