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第三十四話 1943.4-1943.5 新型エンジン

新型ジェットエンジンの完成です。





昭和十八年四月



陸軍から先月提出したジェット襲撃機とジェット爆撃機の設計依頼が来た。

早速設計図面に取り掛かる。


今月から東京帝大の後輩である谷一郎がチームに加わってくれた。

加わったといっても、第二工学部の助教授をやっているので兼務となる。

一度目の人生でTsAGIが担っていた仕事で活躍してもらうつもりだ。

既に前世の人生での経験は全て使い果たし、ここから先は全て未知の世界だ。

前世の記憶頼りにここ迄頑張ってきたが、この先は一人では絶対無理だ。

実は以前糸川に襲撃機の翼の手直しをされた時に既に痛感していたのだ。

本当は気心の知れた糸川が欲しかったんだが糸川は既に小山のチームであったし、その後直ぐにワグナーの元へ引き抜かれていったからな。

それで、大学時代の恩師に誰か居ないか紹介を頼んだのだが、紹介されたのが谷一郎だったという訳だ。

既に会ってみたが、大学に残る道を選択するくらいに学究肌の男だ。


小山と言えば、キ84の試作機が今月完成し初飛行を果たした。

流石に以前より準備を進めていただけあり、エンジンを手に入れてからの動きは早かった。

エンジンの方も今のところ申し分ない様で、トラブルらしいトラブルも無く初飛行で690km/hの快速を達成した。

陸軍でも早速審査し、特に問題無しとの事で正式採用となり量産指示が出された。


中島は直ちに量産を開始したのであるが、平時の頃からは想像も出来ない程の審査の速さが気になるが…。大丈夫なのだろうか?


キ84は四式戦闘機「疾風」と名付けられた。

本来三式戦と名付けるところ、なぜ四式戦かと聞いたら審査の速さの種明かしがあった。


理由としては既に三式戦として「飛燕」を正式採用していることが一つと、もう一つは一先ず正式採用とするが実際には実戦で使いながら必要があれば手直しさせ、本来の意味での正式採用は来年ということらしいのだ。


合理的といえば合理的ではあるが、それだけ時間がもはや残されていないという事なのかもしれないな。



今年採用された三式重戦の方も既に工場をフル稼働で量産中であり、中島だけで月に四百機もの軍用機を生産しているのだ。


この上、疾風もということになるとさらに工場を増設する必要があるだろう。



ちなみにも、ライバルである三菱の方は未だ三百機に届かないそうだ。


三菱は工場がいくつも爆撃被害に遭い、技官に言わせれば寧ろよく維持できていると。

たしかに、今のところ中島の工場は無傷だが、空襲に遭っていればこの水準の維持は難しいかもしれない。


更には、性能不足と判断された零式艦戦の調達が予定より大幅に削られたのが響いているのかもしれない。


現在、その零戦は海軍の要求により性能向上のための設計変更を行っていると聞く。


エンジンを三菱が開発した1500馬力級の金星エンジンへ換装し、武装も最早役に立たない7.7ミリを海軍の13.2ミリ機銃に変更、20ミリ機関砲も改良型に変更されるそうだ。

それに合わせてこれまでは軽くするために省かれていた防弾装備も充実させるとの事だが、折角エンジン性能を大幅に向上させてもこれだけの装備増強を行えば零戦本来の良さが失われるのではないだろうか。


その辺りは三菱でも理解しているのか、現在零式に代わる重戦闘機を開発中らしく、エンジンはキ84と同じエンジンを使うとの事だが、三菱が新たに開発した十八気筒エンジンを搭載する可能性もあるらしい。


他社の情報は軍の関係者から時折伝え聞くくらいであまり詳しく入ってくるわけではない。

複数の関係者から聞いた話をつなげて推測しているだけだから、実際と異なる場合もあるかもしれない。


戦争が始まってからはコンペなども無くなったしな。


他社は他社として、中島は中島の出来る事をやるだけだ。





昭和十八年五月



陸軍から依頼されているジェット襲撃機とジェット爆撃機の設計図が完成したので陸軍の審査に提出した。チームも谷が加わった他、更に社内でも増員を受けたおかげで随分と仕事の進みが早くなった。

さながら前世の設計局の最盛期の様な様相になったな。



今月、新しいジェットエンジンの燃焼実験があった。

新しいエンジンは12段の軸流圧縮機を持ち、カニュラー燃焼室はアニュラー燃焼室へ変更され、そして二段のタービンを持つ。

つまり、次のステップのジェットエンジンなのだ。

このジェットエンジンは、以前のドイツから持ち込んだプロジェクトではなく、フランツを加えて日本で新たに設計されたエンジンだそうだ。

重さは以前の倍の重さとなったが、その分出力も倍を見込んでいる。


燃焼試験の結果、回転数は6500回転、出力は1900kgfを達成した。

連続燃焼試験も問題なく終えることが出来た。


つまり、燃焼試験は成功という事だ。


今回の成功には、日立からの出向者の小柴技師の開発した新しい金属の完成が大きいそうだ。


新たなエンジンは一桁上がってネ-10と型番が付けられ正式採用となり、更にテストと改良を重ね早期に量産を開始する予定だ。


新たに完成したエンジンに合わせて、機体を改修しなければならないな…。


新開発の爆撃機、襲撃機の方は問題ないのだが、三式重戦の方は胴体内にエンジンを搭載したのが裏目に出て簡単に改装とはいかない。実質再設計になる可能性もある。


まさか、こんなに早く次のエンジンが出てくるとは想像もしなかったのだ。





昭和十八年五月十八日



この日は、五月の陽気が漂う五月晴れの気持ちの良い日だった。


こんな日は、娘を連れ家族で出かけられれば素晴らしい一日を過ごせるだろう。

ここ暫く空襲が無かったこともあり、設計室の窓から中庭を眺めながら家族で歩く姿を思い浮かべていた。


そこに、けたたましいサイレンが鳴り響く。

空襲警報だ…。


米軍の空襲が再開された様だ。

所員に指示すると慌てて大事なものを抱えて防空壕へと退避した。

未だここ迄は空襲は来ていないが気を抜くわけにはいかない。


市街地の爆撃ばかりでなく、工業地帯も執拗に爆撃され確実に日本は生産力を落としてきているのだ。


既に、内陸部や北陸など日本海側へと工場の疎開が始まっている。


幸いこの日も我が社周辺への空襲はなく、二時間後に空襲警報は解除された。


夕方ごろ、新聞の号外を見たが正直目を疑った。


日本各地、八つもの都市が爆撃され火災により甚大な被害が出たようだ。

具体的な被害まではまだわからないようだが…。




翌日、陸軍の関係者が訪ねてきて詳細を教えてくれたのだが…。


飛来したB-17は千機以上、帝都にも数百機が飛来し市街地や工業地帯などがかなりの被害に遭ったとか。


無論、軍は懸命に迎撃を試みた。


しかし力及ばず、実質的に米軍の成すがままに空襲された。


つまり、敵航空戦力が皇国軍の迎撃能力を超えたという事だ。


唯、空襲こそ阻止できなかったが、敵B-17の半数位は撃墜したそうだ。

ジェット戦闘機の威力は今のところは絶対的であり敵の直掩機は阻止する事も出来ず、爆撃機は成すすべもなく撃墜されていく。


しかし、敵の爆撃編隊は味方の損害をまるで気にしないかのように一切爆撃コースを外れることなく、複数方向から侵入し爆弾をバラまいて離脱する。


実のところ、圧倒的に数に劣る皇軍相手ではこの戦法が最も効果的との事で、ジェット戦闘機が配備されていない飛行隊の担当空域では機体性能的に何度も爆撃機に攻撃を掛けられるわけではない。


兎に角B-17という空の要塞の防御火力は途轍もないのだ。


敵の死角や火力の少ない方向、或いは太陽を背に敵編隊に突入するのだが、すぐさま離脱しなければ物凄い機銃射撃を食らう。

防弾装備が充実している重戦闘機であっても、全身に弾を食らえば無事では済まない。


結果、敵の数が全部で五百機くらいであった頃はまだ何とかなったが、千機を超える数ともなると皇国の迎撃能力を超えてしまうのだ。


地上軍の高射砲部隊も懸命に戦っているがB-17の様に高高度を高速で飛ばれると効果のある火砲は限られており、また重要都市に優先配備されている為今回の様に爆撃される都市が増えれば、さらに対応は難しくなる。


勿論、本土を焼け野原にされて、ただ手をこまねいているわけではない。


皇国軍は近く敵策源地に対し大規模な攻撃を加えるべく準備をしていると聞かされた。

この攻撃の成否が皇国の存続に関わるのだろう。



他方、大陸で進行中の作戦は順調に進展しており、もうすぐ大陸にあるB-17を運用している敵基地の攻略が成るだろうとの事だ。


そして、もう一つの作戦目的である仏印進駐軍の救出には既に成功したらしい。


だが、仏印の現地政府は米軍に奥地迄追い込まれて降伏し、米軍は仏印全土を制圧した。


勿論そこで米軍は止まる事など無く、仏印を新たな策源地にして更に北上しようと攻勢を強めている。


今も、仏印進駐軍を吸収した支那派遣軍と米軍との間で戦闘が続いており、今のところは何とか食い止めているとの事だが、ここを破られ北上を許すと折角制圧した大陸での航空基地が奪還されてしまうのだ。


仏印の米軍の航空戦力は豊富であるが、本土空襲部隊と異なり未だ主力戦闘機は陸軍のP-40や海軍のF4Fとの事で、一式戦や百式戦で十分制圧する事が可能で制空権は日本が優位だ。

お陰で米陸軍相手にも九八襲が猛威を振るっていて、今次戦争が始まってから戦車を通算何十両も撃破したような強者も居るそうだ。

一度会って色々と話をしてみたいものだな。

きっと、襲撃機開発のヒントになるような話が聞けるだろう。


いずれにせよ、米国との戦争は最終局面を迎えつつあるのかもしれない。


米国との戦争に勝利はありえず、どういう形で戦争を終えられるかという話になる。

つまり、皇国にとってよりマシな条件での講和を結ぶことが目下の目標なのだ。


このまま本土をすっかり焼け野原にされ、継戦能力を失えば無条件降伏をするしかなくなる。

そうなれば、結局女神の言う歪められた国になってしまうのではないか。


そのためにも、一先ずでも米軍に大損害を与えその鼻を圧し折る必要がある。

それで米国の頭が冷えたら、やっと対米交渉が再開されるのだろう。


米国としては東洋よりヨーロッパの方が遥かに重要だから、今も続いている筈のヨーロッパでの戦争を放置し続ける訳にはいかないだろうからな。




米軍は日本破壊を目指し、本格的な大規模空襲に入りました。

日本は地形的に複数方向から大編隊で来られると戦力が分散されて手に負えなくなります。

開発した新型エンジンは史実では開発に失敗したエンジンです。その失敗の原因になる部分を補えるのが日立の技師とフランツであり、両名ともすでに居る為史実とは異なり開発に成功しました。


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