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第二十話 1940.10-1940.12 海軍機

主人公は海軍機を作ることになりました。





昭和十五年十月



川崎が陸軍から九六戦の後継機種の設計を依頼されたらしい。

川崎というと液冷エンジンにこだわりのある会社だが、ドイツから輸入されたダイムラーベンツのDB601Aを使うらしい。


メッサーシュミットのBF109に搭載していた優れたエンジンだと記憶しているが、九六戦では満足できなかったのだろうか。


陸軍の技官にそれとなく聞くと、だんだん厳しくはなってきているが各社の技術力維持のために、特定の会社だけに偏らずチャンスを与えているとの事。

既に九六戦はⅢ型まで更新されており、更新による性能向上が可能な息の長い機体であるという事は理解しているそうな。


そういわれれば確かにソ連にしても複数の設計局がそれぞれ開発をしており、戦闘機だからと特定の設計局ばかりが作っていたわけじゃない。


ドイツからBF109Eを輸入したらしく、来年の夏くらいまでに百式戦闘機とBF109、それにこのキ60で比較審査を行うそうだ。

それが良好であればキ60を採用するとの事だ。


それとは別に同じく液冷エンジンで軽戦闘機もキ61の機番で発注されているとの事だが、同じエンジンで重戦闘機と軽戦闘機を作れば、当然軽戦闘機の方が優速で運動性に優れた機体に仕上がるだろうな。




キ60の話を聞いたと思ったら、実は中島もキ62軽戦闘機、キ63重戦闘機というのを打診されていたらしい。


しかし、キ62もなにも小山はキ43で手一杯、キ63にしてもキ44こと百式戦闘機が採用されたばかりで、長く使える戦闘機をコンセプトに私は開発している事を知っている会社の方が両方とも辞退したらしい。

まあ、そんな話が来たら私も断ってくれと言っただろうな。


百式戦闘機はエンジンのバージョンアップ次第で性能が更に向上する。エンジンパワーに余力が出来れば武装の更新だってできるのだ。




先日の百式戦闘機試乗の結果として、海軍から十三試艦上戦闘機設計の打診が会社の方に有った。

今回は九〇式の実績を買われたのか、先日の百式戦闘機を見たからか、海軍から私が指名された。


海軍にとって重戦闘機は未知の分野であるので、要求仕様は現在の正規空母に着艦可能であること、艦載機であるので着艦フックなどを装備すること、翼を折りたためること、と単純であった。

そして、エンジンは百式戦闘機と同じエンジンを搭載する事が必須条件であった。


百式戦闘機のエンジン、つまりレンチェラーのダブルワスプは陸軍名称は中島発動機製ハ45となり、そして海軍での名称はNK9、誉が愛称となった。



艦載機となると余りに大きい機体は望ましくないだろう。

小ぶりな戦闘機なら前の人生で沢山作ったから、大型機しか作れないわけでは無い。


ざっくりと仕様を考えてみた。

全長は九メートル以下、全幅は十一メートル以下、折り畳み時で七メートル台。

翼面積が二十三平方メートル。

空虚重量が三千五百キロ以下、総重量で四千五百キロ以下、最大離陸重量は六千キロを達成する。

エンジンはダブルワスプの二段二速のスーパーチャージャーを搭載する前提で、二千馬力と考えて、速度は六百キロ以上。

上昇力は六千メートルまで六分以下、航続距離は増槽付きで三千キロ。

武装は12.7ミリ機銃を機首二挺と翼内四挺の計六挺。

他、ロケット弾、航空爆弾を合計千五百キロ以上搭載可能。


後は、少しでも着艦距離を短くするため、フラップにエアブレーキでも仕込むか…。


大体の構想が纏まると資料を作成して海軍に提出した。





先月、日本軍がフランス領インドシナへ進駐し、そして日独伊三国軍事同盟が締結された。


これにより、ただでさえ険悪だった対米英関係が更に悪化した。


新聞は勇ましいことを書き連ねるが、あの米国と戦争になる事を考えると、史実を知っているとはいえ、暗澹たる気分になる。





昭和十五年十一月



十二試戦はA6M零式艦上戦闘機として制式採用になり、中国戦線で華々しい戦果を上げているがパイロットたちから防弾タンクなどの防弾装備が欲しいと要望が出たらしい。


しかし、そんな物を積めば重くなりせっかくの空戦性能が失われる。当たらねばどうということはないのだから、気にせず戦って欲しいと却下されたそうだ。


今の所の損失機は対空砲火によるものだけらしいのだが。


戦闘機は作れば済む。しかし、パイロットの育成は一朝一夕にしてならず。

ましてベテランパイロットは簡単に替えが利くものではない。

兵士は畑から幾らでも採れるなどと嘯いて人命軽視が酷かった最初の人生の祖国ですら、パイロットは大事にしたのだ。

使い捨てにできると考えているならば米国との戦争は直ぐに行き詰まるだろうな。


ともかく、海軍にそう簡単に墜ちない戦闘機を採用させよう。



海軍から十三試戦の図面審査は合格とのことで、試作機の制作指示が来た。

折りたたみ翼の資料など必要資料は既に集めてあるから、大急ぎで図面を引いて、来年の夏くらいには試作機を完成させるとしよう。




糸川が小山のチームから外れてワグナーの研究所の方に異動になった。

先月、約束通りワグナーのところに連れて行って紹介したら随分と気に入られたようで、ジェットやロケット談義で盛り上がっていたのだ。


ワグナーは研究所の所長なのだが、ジェットに関してはミュラーに任せる事にして、ワグナー自身はこの前の誘導弾の研究をやりたいそうだ。

その話をジェットの開発を支援している陸軍の技官が聞きつけて、こちらの方も陸軍が正式に発注し支援する事になった。

その技官は陸軍の技研で研究しているものの一つに赤外線誘導技術があると話しどうせ作るならば赤外線誘導弾を作って欲しいというのだ。


確かに、色々と不安が残る無線誘導弾よりは赤外線誘導で熱源、つまりはエンジンなど動力だが、それをめがけて勝手に飛んでいくならそれに勝るものは無いだろう。


まだ、基礎研究を抜けたレベルではあるらしいのだが、その装置の開発を依頼している日本測定器という会社の井深という技師を連れてきた。


ワグナーはこの陸軍のプランを大いに気に入り、早期の完成を目指して開発に入った。


推進装置は固形ロケットをまず念頭に開発する他、誘導装置の小型化に成功したら陸軍が最も強く要望している自然落下式の誘導爆弾も開発する予定らしい。


うまく作れればドイツにもフィードバックしたいと話していた。




ジェットの方も研究はそれなりに進んでいるとの事で、なんでもホイットルの遠心式とは違う軸流式ターボジェットエンジンを開発しているらしい。


陸軍によりネ1と機番が付けられたジェットエンジン開発計画は、東京帝大からも優秀な若手研究者が加わり、またこの手のタービンの設計にかけては天才的なフランツも手伝い順調に開発が進んでいるとのことだ。


なんでも、完成すれば小型で軽量、それでいて高出力のエンジンになるはずだとか。

来春の試運転を目指して現在鋭意開発中だと言っていた。


そのジェットエンジンは陸上での運転試験が終了すれば、先ずは百式重爆撃機に懸架され飛行中での運転試験を重ねてから戦闘機に搭載するとのことだ。





昭和十五年十二月



海軍機の設計を突貫で進めていると、小山がふらりと現れた。

どうやら難航していたキ43だが、陸軍が採用する方向の様で要求仕様書が手渡され、その仕様に沿って試作機を来春までに仕上げ、実戦テストで問題なければ正式採用になるらしい。


小山は軽戦闘機だ重戦闘機だではなく、両方の強みを兼ね備えた戦闘機を次は作りたいと話していた。



ジェットエンジンもぼちぼち進んでます。

ミュラーが作ってるジェットエンジンは史実ではHeS30と呼ばれていたシェットエンジンになります。

史実では不運が重なり開発が遅れ、不採用となり、ミュラーも歴史から消えてしまいました。

この作品世界では誰かに邪魔されることもなく良いスタッフと陸軍の支援の下、快調開発中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 防弾装備を却下して当たらないようにすればいいという海軍上層部のいい加減な上官が言いそうなことですね。聞いていてなんという無責任な言い方に腹が立ちますな。
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