第十五話 1939.1-1939.4 キ43とキ44
年が明け、いよいよキ43の審査が始まります。
昭和十四年一月
年が明け、昭和十四年となった。つまり1939年でありヨーロッパで大戦争が始まる年だ。
前の人生では連合軍側であったが、二度目の人生では枢軸側。
ドイツ人を相棒に飛行機を作っているんだからわからないものだ。
出産の後、産後の肥立ちもあり妻と娘はまだ実家に居たので、今回の帰省で一緒に帰ってきた。
親は次は男の子をと言っていたが、初孫がよほど嬉しかったのか娘に夢中になっていた。
前の人生ではあまりこういう機会が無かったので、親が喜ぶのを見るのが何より嬉しい。
今月、キ43は立川飛行場に移され、陸軍で審査が始まった。
合計3機の試作機を随時納品していく予定で明野陸軍飛行学校などでも審査を行う予定だ。
そして、私が手がけているキ44の試作機も今月完成した。
全長10メートルを超える大型機で、全幅は12メートル、翼面積は20平方メートルのアスペクト比が高めのテーパー翼を採用。
エンジンはダブルワスプR-2800-5の1850馬力。
ダブルワスプはまだ改良が続いていて、米軍に納品するときには2000馬力に達している予定だそうだ。
今後の、日本でのダブルワスプの改良に関しては、まだ検討中とのことだが、現時点でこのクラスのエンジンは日本には無い。
このエンジンはなんと言ってもデカい。
だが、性能的には同クラスのエンジンに比べ小型で、更には慣性平衡装置など様々な工夫がなされ高空でも息切れしない過給器が付いている。
このエンジンが手に入るなら採用しない理由は無いだろう。
このエンジンは熱の問題が有るらしく、I-188の時に使った強制冷却ファンを採用し、その部分を収めるためカウルを延長したため空力的にも形が良くなった。
主翼に12.7ミリ機銃を6挺搭載し、現行機種ではかなりの重武装になる。
視界の良い突出型キャノピーを搭載し、このキャノピーは後ろにスライドするタイプで、万が一の場合は後ろに飛ばすことが出来る。
現時点で、若干視界が歪むのが難点だが、ヒシライトというアクリル樹脂を使用した成形品で窓枠を大幅に減らせたせいで視界は抜群にいい。
全面には70ミリの防弾ガラスを採用し、7,7ミリ機銃では貫けない。
コックピット回りは12.7ミリ機銃を防ぐ防護板で囲い、座席にも7.7ミリ機銃を防ぐ防護板を取り付け、パイロットの防御には最大限の注意を払っている。
機体重量をとにかく重視した97式戦闘機とは真逆に、とにかく頑丈に設計した為急降下しても簡単に空中分解する様なことはないだろう。
但し、機体重量は4000キロ近くに達した。
白銀に光る試作機を見たテストパイロットは、篠崎さんの作る機体は相変わらずでかいと苦笑いした。
ダブルワスプは問題なく快調に爆音を響かせ、強制空冷ファン独特の甲高い音が重なる。
そして、難無く飛び立ち一通りのテストを完了した。
最高速度は600キロを軽く突破し、660キロに達した。
運動性は横旋回は97式戦闘機とは比較にならないが、縦旋回は申し分なく急上昇、急降下共に問題がないとの評価だった。
細かな調整を済ませるとこちらの方も立川飛行場に移し、陸軍の審査に提出したが陸軍の技官には相変わらず大きな飛行機だと苦笑いされた。
前世で物資の関係もあり小型機の設計ばかりさせられた反動かも知れないな…。
昭和十四年三月
キ43の審査はあまり芳しくないらしい。
理由としては航続距離の延長は評価できるが、九七戦に比べ旋回性能に劣り、速度も30キロ程度速いだけであり、平凡にすぎるとの事。
要求仕様をより絞り込んだ上で、再設計を命じられる可能性が高いそうだ。
キ44の方は運動性重視の軽戦闘機に慣れたパイロットからは酷評されているそうだ。
でかいしズブいし巴戦では九七戦には何度模擬戦をしても勝てないだろうとの事だ。
反面最近陸軍で増えてきているらしい重戦闘機派のパイロットからは高評価を得ているとのことだ。
とにかく速度を保っている限りは運動性も悪くはなく縦方向の旋回性に優れるため、巴戦など挑まなければ97戦に負ける要素がないとの評価だ。
96戦もそうだが、上昇力に優れ、高高度でも息切れすること無く飛べる為、迎撃機としても申し分ないとの評価。
但し、強制空冷ファンのせいかエンジン軸に妙な振動が発生している可能性が有るとのことで、調査を頼まれた。
早速、中国戦線でテストするとのことで四機の追加発注があった。
昭和十四年四月
強制空冷ファンの振動は確かに起きており、どうやらプロペラシャフトの延長が原因の様だった。
その為、プロペラシャフトの軸の長さを縮めることになり、ファンとカウルを再設計する事になった。
ところが中々振動が消えずかと言ってさらに短くするとファンの吸気量が下がる。
一度目の人生の時は経験したことのない問題だった。
すっかり友人付き合いをしているリヒトにエンジンの専門家として意見を聞くと、フランツがその手の専門家だから相談しては?との事。
早速、強制冷却ファンの振動問題をフランツに相談した所、三日ほどでサラリと綺麗なファンの図面を手渡された。
私が設計したファンより格段に薄く、しかも効率が良かったのだ。
噂に聞く彼の有能さを身をもって知ることになったのだ。
このファンを搭載しカウルを再設計した所、スッキリとした形になりなんだか前世で見たことが有るようなカウルの形になった…。
カウルの形が変わると飛行機の印象も変わり、私は前の人生でみたドイツ空軍の戦闘機を思い出した。
結局行き着く所は似たようになるらしい。そういえばあの戦闘機にも強制冷却ファンが付いていたと思う。
今月、スペインの内戦が終わったと新聞報道が出ていた。
日本は関わってないせいかあまり大きく扱われているわけではないが、I-14とメッサーシュミットとの勝負はどうなったんだろうな。
そして、四月の末頃ドイツからモーターカノンのサンプルが届いたと陸軍から連絡があった。これでテストを進めてくれとの事の様だ。
先に陸軍でテストし問題なければこちらに持ち込んでくれるとの事。
まだ肝心のエンジンが完成していないからモーターカノンだけあっても仕方ないが。
今のところキ44は評価は悪くないようですが、陸軍の重戦闘機派は少数派で、依然軽戦闘機派が大多数です。
海軍に至ってはほぼ軽戦闘機派です。




