9 調味料
一つ商品のヒントを得たので、店舗に戻ってさっそくココさんにお願いしてみた。
「ココさんが料理に使ってる調味料を全部見せてほしいんだけど」
「え、調味料ですか? いいですよ」
「じゃ、さっそくで悪いけど、持ってきてくれないかな」
「え、持ってくるんですか? 面倒ですから見に来てくださいよ」
え、行っちゃっていいのか? でも今朝アイリーンさんにプライベートスペースだからって言われたばかりなのに……
ごめん、実はこの年になって女の子の部屋って言ったら妹の部屋にしか入ったことがないんだよな。妹はもうお嫁に行っちゃったし、最後に入ったのは何年前なんだろう……
すっごくドキドキしてるぞ。
「お邪魔します……」
女の子のいい匂いはシャンプーやトリートメントに匂いだってネットで見たことあるけどあれは嘘だよな。そんなものを使ってないように見えるココさん部屋がこんなにいい匂いがするんだから。
思わず深呼吸したくなるぜ。この女の子成分をたっぷりと吸い込んでおこう。
「あまりお部屋をじろじろ見られると恥ずかしいです。いきなりだったので散らかってるし」
「あ、ごめん。可愛らしい部屋だし、いい匂いがしたから、ぼーっとなっちゃって」
「ふぇっ……」
あ、思わず口に出てしまったけど、別に今のは特にそういう意図ではなく……まぁいいや、フラグ立てだと思っておこう。
「調味料でしたよね」
「うん、どういうのを使ってるか教えてほしいんだ」
「あんまり調味料ってないですよ」
と言ってまず小さな壺を出してきた。中には薄いピンク色がかった粉が入っている。
「まず、塩ですね」
ふーん、見たところ岩塩かな?
「ちょっと舐めてもいいかな?」
「いいですよ」
おれは片手にひとつまみの塩をもらって舐めてみた。
ちょっと甘みがある感じだな。不純物が多いのだろうが、これはこれでミネラル分たっぷりという感じで悪くはないな。
「これいくらで売られてるの?」
「一壺で1万ジェルくらいかな」
だいたい1キロくらいかな? キロあたり1000円か、結構高いけどそれほどでもないか。
「あまり使わないけど、これ」
次に出してきたのは葉っぱ。なんだろう?
「それは何かな?」
「香草ですよ」
ふーん、ハーブの一種かな? もしかしたら今の日本でもあるハーブかもしれないけど、俺の知識がないな。
「それはいくらくらいするの?」
「これは、摘んできたものだから無料ですよ」
「そうなんだ」
「あとは……今は切らしてるけど、時々ハチミツを買いますよ。奮発しないと買えないけどね」
ハチミツか。甘みはハチミツが主流なのかな?
「ハチミツは高いの?」
「高いですよー。こんな小さな壺一つで2万ジェルくらいしますからね」
そう言って親指と人差指で10センチくらいの大きさを示してくれた。確かにちょっと奮発しないと買えないな。
だが、ハチミツよりあれの方がきっと高く売れるよな。
「主に使う調味料ってそのくらい?」
「思いつく限りではこのくらいですかね」
「そうか、ありがとう」
やはり調味料はとても限られていて、しかも高価なようだな。
「ちょっと試供品を出してみるから、機器のところへ行こう」
「はーい」
いろいろと調味料を出して、ココさんに試食してもらうことにした。
俺は機器を操作して、とりあえず二点発注してみた。
食塩 1kg 120円
砂糖 1kg 230円
うーん、安いよな。これがぼったくりで売れるわけか。
「ココさん、これどう思う?」
「なんか透明なものに包まれてますけど、これは?」
ビニールの包みってのがまずいかなぁ。でも他の容器でとなると容器のほうが高くなりそうな気がするんだよな。
「塩と砂糖なんだけど。砂糖ってのは聞いたことある?」
「あ、聞いたことありますよ。とっても甘いんですよね。食べたことはないけどとっても高いお菓子で使われるって」
よかった。砂糖は一応存在はしてるんだ。
「とりあえず、容器がないから適当な紙を敷いて開けてみるよ」
俺は砂糖と塩の袋の隅をハサミで小さく切ってみた。
「ちょっと舐めてみて」
ココさんは塩と砂糖をそれぞれ少しずつ舐めてみた。そして砂糖を一舐めした後、目を輝かせた。
「すごく甘いです。これは感動的ですよ」
どうやら砂糖の甘さがお気に召したようだ。しっぽをプルンプルン振って、耳がピョコピョコしているのがとても可愛らしい。
「これ商品になると思う?」
「ぜったい売れますよ。ただ……」
ちょっと悩んでるようだな、なんだろう?
「塩の方の値段はだいたい相場がわかるんですが、砂糖の方はちょっと想像できなくて」
「そうだろうなぁ」
贅沢品の相場ってのは難しいんだよな。まったくの初めての品なら言い値でよくても、少量ながら流通してるとなると難しいものがある。
「とりあえず、俺の方で調べてみるよ」
あとでネットで中世ヨーロッパでの相場とか見てみることにしよう。わからなければ商業ギルドで適当にあたってみるしかないか。
「ココさんに一つお願いがあるんだ」
「なんでしょう」
「これを売るとしてなんだけど、この透明な袋に入れたままってのはどう思う?」
「これってタジマさんの世界のものですよね。こちらではちょっと薄気味悪く感じるんじゃないかと」
やっぱりそうだよなぁ。このままってのはちょっとまずいよな。
「それでなんだけど、これを売るにあたってこちらで容器とか調達するとしたらどんなのがいいか考えておいてくれないか?
できるだけ安く手に入るものがいいんだけど」
「わかりました。まかせてください」
なんか自信ありそうでよかった。
「今回商品として考えてるのはもう一つあるんだ」
中世ヨーロッパを考えるならこれを忘れちゃいけないだろうな。