7 商業ギルド
「それでは、商業ギルドの方に行ってみましょう。
わたしの名前で登録だけはしたるのですが、まだ年会費は払ってません。商売を開始してから一ヶ月以内に支払うことになっていますので、お願いしますね」
ギルドか、中世風のそういう仕組みがあるんだな。そういえば、異世界って言えばおなじみのあれはあるのかな?
「冒険者ギルドとかもあるんですか?」
わからないことは聞いてみることだ。
「この街にもあるはずですよ。わたしはまだ行ったことがありませんが」
アイリーンさんがそう言いながら、ココさんのほうをチラッと。
「ありますよ。わたしも行ったことはありませんが……」
やっぱりあるんだ。
「商品によっては冒険者ギルドも売買にいいかもしれませんねって、話がそれましたね。
商業ギルドの加盟は必須ですが、メリットも大きいです。
特定の取引先がなくても、商業ギルドでたいていの商品は売買できます。
当然、ギルドに何割か取られるので直接取引先を見つけたほうがいいでしょうけどね」
試用期間三ヶ月なら、信用を得る前に終わっちゃいそうだから、とりあえず商業ギルド相手の売買が中心になりそうだな。
「それじゃ、さっそく行ってみましょうか」
ココさんも含めた三人で商業ギルドへ向かった。
初めて歩く異世界の街並み。やはり中世ヨーロッパ風って言うんだろうか?
イメージとは違って臭いし薄汚れてるし、やっぱり二次元のファンタジー世界と違って実際に来てみるとずいぶん憧れとは違ったものがあるな。
そういえば店舗内は悪臭とかしなかった。エアコンディショニングが取れているってことか、正直助かる話だ。
「田島さん、向こうに門が見えるでしょう」
アイリーンさんが左手の方を指さしながら言った。
「街の中は比較的安全ですが、門を一歩出ればモンスターもいる世界です。決して護衛なしで門を出ないようにしてくださいね」
平和ボケしてると死んじまうぞってことか。でもこう見えても俺は中東などで戦地も経験してるんだよな。
あっちとかは町中でも安全とはほど遠い世界だったからなぁ。その点ここのほうが町中だけでも安全ってのが助かる話だ。
歩くこと十分ほどで目的地の商業ギルドに到着した。
すれ違った人たちを見てると亜人が本当に多いな。人間と思えるのは全体の1/4ほどで残りは亜人という感じだ。人間と思った中にも亜人が混ざってるかもしれないけど、まぁそれはどうでもいいだろう。
ただ、見る限りでは哺乳類っぽい人たちばかりだ。医療センターで見たようなトカゲっぽい人や、なんだかよくわからないような生物はいない感じ。
まぁこの町だけの特徴かもしれないから、他へ行けばもっといろいろな亜人がいるかもしれない。
カランカラン。
商業ギルドのドアにはドアベルがついていて低い音を奏でた。
中は数人の商人らしき人々が商談しているようだ。一瞬俺たちの方を見たがまた自分たちの話に戻っていった。
「こんにちは」
アイリーンさんがあいさつすると、中から中年の人間の男が出てきた。
「アイリーンさんでしたかな。いよいよ商売を開始するのかな?」
「はい、今日は店主見習いの人を連れてきましたよ」
俺の出番かなってことで、
「田島真司です。よろしくお願いします」
「タジマさんとお呼びすればよろしいですか? わたしはイサークと申します。ここの副ギルド長をしております」
副ギルド長ってことはナンバー2ってことのようだな。ギルド長はいないのかな?
「ギルド長のロサーノはあいにく留守でしてな。またいつか紹介させていただきましょう」
「今日は田島の挨拶だけです。また実際に商売を始めるときに田島本人が年会費を持ってこさせますね」
「わかりました。その際はまたよろしくお願いします」
副ギルド長のイサークさんはそのまま去っていった。
「年会費っていくらでしょうか?」
疑問に思ったことはその場で聞くのが一番。さっき聞くのを忘れてたのを今思い出した。
「30万ジェルと聞いてますよ」
「了解です」
「ここで商品サンプルを登録しておけば、取引を希望する商人がみつけてくれるわ。
商品サンプルを見たければ隣の部屋にいろいろ置かれてるから、そこで見て受付で聞けば取引先を教えてくれるわけ。当然、手数料を取られるけどね。
さっき言ったとおり、ギルドに買取してもらうことも可能よ。また同様にギルドから買うこともできるけど、どちらも利益は低めね」
「商品サンプルってのを見てきてもいいですか?」
「そうね、一緒に見ておきましょうか」
俺たち三人は隣の部屋へ入っていった。
「実はここ初めて入るのよね」
アイリーンさんも初めてなのか……
商品サンプルは棚の引き出しに入っているようだ。引き出しことにラベルが貼ってあり商品名と数字が書かれている。
試しに俺は植物の棚を見てみた。
ラベルには「アユタサの葉」と書かれている引き出しには葉っぱがギザギザの手のひらくらいの葉っぱがはいっているが、当然のように何の葉っぱで何に使うのかわからない。困ったものだな。
「これ、なにかわかります?」
アイリーンさんは視線を逸したからわからないんだろうな、ココさんの方を見てみると知ってそうな雰囲気だ。
「ココさん、わかります?」
「はい、それはですね。低級毒消し草の材料の一つのはずです。他にも防腐剤がわりに使ったりします」
おー、ココさん頼りになりそうだ。でも、こうやって一つ一つ聞いていかないといけないのか、大変そうだな。
そして、これがこの世界でいくらくらいして、あの機械で買い取るといくらになるのかとかさっぱりわからない。
こうやって地道に一つ一つ調べていくのはちょっと辛いかもしれないな。