4 健康診断は未来的世界で
翌日出社すると、午前中は健康診断らしい。そういえば前の会社での健康診断って倒産のゴタゴタで新年度分は未実施だったから、ここ2年ほど受けてないかもしれないな。
アイリーンさんに連れられて転移することになった。目的地は別次元の医療センター、確認されている中でもっとも医療分野の進んだ世界らしい。
到着すると同時に何やら粉のようなものに包まれ、赤い光に全身が照らされた。
「消毒ですよ。危険な病原菌とか持ち込まれたらいけませんからね。
それではここで指示に従って健康診断を受けてね。終わったらわたしのところに連絡が来ることになってるからまた迎えに来るわ」
そう言ってアイリーンさんは次元転移装置を起動させて一人で引き返して行った。
まるで知らない世界に置いて行かれると結構不安がある。どうやらここは地球より文明が進んでいるようだな。
部屋の雰囲気も近未来って感じだし、なによりもさっきから小型の丸っこいロボットがうろちょろしている。
「ワタシガ ホンジツノ アナタノ タントウニナリマス」
俺の前に小型のロボットがやってきてそう言ったが、翻訳イヤリングのせいでそう言ってるように聞こえるのか、日本語で話してくれてるのかイマイチ判断がつかないな。
「よろしく頼む」
「ソレデハ ワタシニ ツイテキテクダサイ」
ロボットはそう言うと静かに動き出した。俺は言われたとおりに後を付いて行く。
途中でトカゲのような人とすれ違ったり、巨大なアメーバのような生き物とすれ違ったりした。
皆それぞれ別の次元の人なんだろうか?
俺は狭い個室に案内された。
「ココデ スベテノ フクヲ ヌイデクダサイ」
言われたとおりに素っ裸になる。ロボットだからいいようなものの素っ裸で立ってるのは少し恥ずかしいものがある。
「ソレデハ ソノベッドニ ウワムキデ ヨコタワッテクダサイ」
俺が服を脱いだのを確認するとロボットはそう言った。いつのまにか前の壁からベッドが出てきていたので、指示されたとおりに俺は横たわった。
ベッドはそのまま壁に向かって溶け込むように動き出し、俺はそのまま別室に運ばれていった。
「マズ ケツエキヲ サイシュイタシマス。チクット シマスヨ」
肩のあたりが一瞬チクっとしただけだった。あれっぽっちでいいのか?
「ハンシャシンケイヲ ソクテイシマス」
体のあちこちに軽い刺激が与えられたような気がする。
「テンジョウノ ヒカリヲ ミテクダサイ」
俺が天井に目を向けると、光が色を変えたり、大きさを変えたりしている。これは視力検査かな?
「フソクシテイル メンエキニ タイスル ヨボウソチヲ オコナイマス。チクット シマスヨ」
再び肩の当たりが一瞬チクっとした。予防接種ってことかな? 異世界独特の病原体とかもいるだろうからな。
「ケイドノ イカイヨウノ チリョウヲ オコナイマス」
胃潰瘍? 自覚症状は特になかったと思うんだが……
何やらチューブが口に当てられたけど、これを飲めばいいのか?
「カセイホウケイノ チリョウハ ヒツヨウデスカ?」
仮性包茎……
「そのままでいい」
「リョウカイシマシタ」
「ミズムシノ チリョウヲ オコナイマス」
水虫か……それなりに悩まされてきたんだが治るんだ!
足のあたりが何か温かいな。何してるのかわからないが。
「エイヨウノ バランスニ モンダイガ アルヨウデス。ショクセイカツニ チュウイ シテクダサイ」
食生活か、わかってはいるけど、一人暮らしではなかなか難しい問題なんだよな。
「ウンドウブソクデス。テキセツナ ウンドウヲ トルヨウニ ココロガケマショウ」
なんかこういう指摘はあまり変わらないよな。
「オツカレサマデシタ。コレデ ケンサハ シュウリョウデス」
もう終わりか。なんか検査っていうより治療込みだったけど、あれで全部治っちゃったんだろうか?
「ソレデハ モトノバショヘ モドリマショウ」
服を着終わると、ロボットが再び動き出した。さっきの場所まで案内してくれるらしい。
俺が元の場所まで戻ると、アイリーンさんはすでにお迎えにきてくれていた。
「検査、お疲れ様。特に問題ないのかな?」
アイリーンさんは検査書を眺めてる。ちょっと嫌な予感がするけど全部書かれてるのか、それ。
「カセイホウケイが未治療ってなってるけど、これは大丈夫なの?
性病関連とか他の世界に持ち込まれると不味いんだけど」
うわ、嫌な予感が的中した。仮性包茎とか検査書に書くんじゃないよ。
「カセイホウケイは感染したりしないでしょうね。一応検査書には問題なしとなってるけど、治療したほうがいいのではないですか?」
そんな真面目な顔で仮性包茎って何度も言わないで、お願いだから。
エルフのこと知らないけど仮性包茎ってないんだろうか?
あれこれ一生懸命誤魔化そうとしたけど、アイリーンさんは誤魔化されてくれない。
アイリーンさんに口頭で仮性包茎のことを説明するのは非常にはばかられたので、しかたなくスマホで検索してWikiを見せることにした。
アイリーンさんは真っ赤になって怒ってたが俺が悪いんじゃないよな。