3 就職しました
「どういたしますか? 田島さん」
アイリーンさんが俺にそう尋ねてきた。ココさんも俺の方をじっと見ている。
「よろしくお願いします」
俺は迷わず頭を下げた。こんな面白そうなチャンスを逃してなるものか。
「やったー」
ココさんも喜んでくれているようだ。
「よかった。それでは向こうで契約いたしましょうか」
アイリーンさんがさっそくという感じでまた次元転移装置を取り出す。
「それでは行きますよ」
ココさんが手を振ってくれているので、俺も手を振り返す。
アイリーンさんがスイッチを入れ次元転移装置が青く光り、こちらに来た時と同様に魔法陣を描いた。
ココさんの姿が揺らめき、再び先程の応接室に戻された。
「それでは、これが契約書になります」
日本語で書かれた契約書と、見慣れない言語で書かれた契約書の二通が示された。見慣れない言語なんだけど、その意味がわかってしまうのは先程のイヤリングの効果なんだろうか?
「契約書にも書かれていますが規則なので口頭でも説明いたします。
翻訳イヤリングと次元転移装置は貸与します。どちらも契約が切れた際には返却願います。貴重品ですので扱いは慎重にお願いします。
また次次元転移装置は社員以外の前では使用しないように気をつけてください。
どちらも故障の疑いがある場合は早急に本部まで連絡願います」
「はい、わかりました」
まぁ当然と言っていい条件だろうな。
このイヤリングのおかげで会話が問題なくできたり、異言語の契約書が普通に読めたりするわけか。
次元転移装置にしろ、翻訳イヤリングにしろすごい技術だよな。魔法陣とかも出てたし、ファンタジー的な魔法とか使われてるんだろうか?
「正式契約のための条件は試用期間の間に100万円以上の純益を出すことになっています。あくまでこれは最低限の金額と考えてください」
「はい、わかりました」
100万円か、向こうの経済規模次第だけど、早めにいい商品を見つける必要がありそうだな。
「勤務時間などはすべて自由です。但し毎週一度ここに出社して業務報告をしてもらいます。一応現地にも仮眠する用意はありますが、基本的には毎日帰宅してください。
こちらの世界の労働基準局などの監査がはいると困りますので」
「はい、わかりました」
まぁ家から転移できそうだからすぐに帰れるしな。
「日本にる時には日本の、現地にいる時にはカスターニョ王国の法律を守るように気をつけてください。逆に言えば現地にいる時は日本の法律は適用されませんから注意をお願いします。
カスターニョ王国の法律については現地雇用従業員に確認してください」
「はい、わかりました」
法令準拠は当然のことだが、むこうの法律に関しては完全に無知だから気をつけないといけないか。
「双方の世界のことは社員以外には口外禁止です。最初からの現地雇用従業員は問題ありませんが、増員した人については契約状態によって扱いが異なりますので必ず本部に確認してください」
「はい、わかりました」
とりあえず、ココさんに関しては何も問題ないってことだね。
「契約に関しては以上になります。
文書を確認の上、両方の文書にサインをお願いします」
俺は迷わずサインを行った。見慣れない言語の契約書は俺がサインを終わるといきなり青い炎を出して、燃え始めてびっくりしたけど、どうやらそういうもののようだ。
どうやら魔術的な契約も同時に結ばれたようだ。
「おめでとうございます。これで田島さんは我が社の社員となりました。
わたしがあなたの上司となります。あらためてよろしく」
アイリーンさんはそう言って右手を出した。握手の習慣は大丈夫そうだな。
「よろしくお願いします」
俺はアイリーンさんの右手をしっかりと握った。
「翻訳イヤリングのほうはもうそのまま身につけていてもらって構いません」
「なくしそうで怖いな。それにあまり見られちゃまずいんですよね」
「意図的に外そうとしない限り外れませんよ。それに人に見せようとしない限り誰にも見られませんから、あまり心配しなくても大丈夫ですよ。
気をつけることと言えばこちらの世界で普通に外国語が理解できてしまうので、怪しまれないようにすることくらいでしょうか」
そういうものだったのか、便利そうだけどこちらにいるときは外国人に逆に気をつけたほうがいいのかな?
と言ってもそうそう外国語を耳にする機会ってなさそうだが。
「それでは明日一日、業務のオリエンテーションと健康診断を行います。
朝9時に出社してください。服装はラフな姿で問題ありません」
「明日一日だけなんですか?」
「こちらでのオリエンテーションは明日一日ですので、いろいろ覚えてもらいます。
後は現地入りしてもらって仕事を覚えながら稼いでもらいます。
初日の午前中だけはわたしが同行いたしますが」
なかなか厳しいお達しですな。
頑張るしかないか!