26 新たなる出発
何かいい手はないものか……
俺はイライラしながらも考えた。
ポケットの中のジェル貨幣をいじりながら考えてみたが、なかなかいい商品が思いつかない。
すべて、このインフルエンザが悪い方、悪い方へと流れを運んで行ってる気がする。
ふと、銅貨を見てて思いついた。
銅貨って銅だよな。銅自体にも価値があるわけだ。
含有量がどのくらいで、銅の買取価格がどれだけかもわからないが……
待て待て、金貨ならどうなんだ。
金本位制だよな、この世界は。
ってことは、金貨はほぼそれだけの価値があるってことじゃないか?
これならいけるかも!
俺は機器から金貨を1枚取り出して、そのまま台の上に乗せて鑑定スイッチを押してみた。
【品目:カスターニョ王国金貨 数量:1 買取額74,800円】
いけた!
2割引の原則はそのままだし、含有量がやや少なめなのかしれないけど、100万ジェルの金貨で74,800円になったぜ。
当然、赤字だけどこの際しかたない。
俺はそのまま、買取ボタンを押した。
日本円の残高は218,650円と表示されている。
目標額の100万円まで、あと781,350円か。
金貨11枚必要だな。
俺は再び金貨11枚を取り出して、そのまま買取させた。
残高1,041,450円
よし、これでクリアだ。
今日はもうこれで営業終了だ。
このまま、決算を待つことにしよう。
問題の月曜日。
俺は新宿の本部の方に出勤した。
週間報告書を提出して、アイリーンさんの方を伺うと、何か表情が険しい。
「田崎さん、新卒採用でないので、社会人としての基本事項までは講習しなかったんですが、そのあたりが必要だったようですね……」
え? 何か俺やっちまったか?
「『ほうれんそう』って言葉は聞いたことがありますよね?」
「ほうれんそう」とな、野菜のことじゃないよな、当然。
どうでもいいけど、日本の風習に詳しいな、エルフのくせに。
「報告・連絡・相談ですよね」
当然、社会人なったときに教えられている。
「そうです。田崎さんはそれが明らかに不足していますよ」
そう言われてみると、週一回の報告以外に何も本部に上げてないよな。
「機器のほうからいつでも、本部に連絡できるってことは教えてありますよね。
今回の問題が早めに報告・連絡・相談いただければと思いました」
確かに、そのとおりですね。
支店長っぽい立場ってことで、独断専行でやりすぎた気がします。
「まず機器の使い方ですが、最初の説明ではしませんでしたが、商品の仕入れの際に、日本円建て取引以外に現地通貨建て取引も可能です。
正式採用時にレクチュアする内容となってますが、連絡していただければ教えることは可能でした。
今回の問題はそれができれば、問題自体が起こらなかったはずですね」
確かに日本円が不足してしまったことが今回の問題だ。
「次いで、その後の処置ですが、現在の事情を相談していただければ、こちらでも事情を考慮できましたよ。
100万円というのもあくまで目安ですから、現地通貨の在庫やそれまでの実績すべてが、正式採用のための判断材料になります。
今回の田崎さんの最後の行動は、大きくマイナス評価の対象です」
くー……焦って行動するとロクな結果にならないよな。
「それで、採用の方は……」
俺は恐る恐るアイリーンさんに尋ねてみた。
「今回の行動はマイナス評価ですが、それまでの田崎さんの実績は十分ですね。
正式採用OKです。
これからは、なお一層の活躍を期待しています。
ただし、『ほうれんそう』はしっかりしてくださいね」
「ありがとうございます」
しっかりお説教食らったから、ダメかと思ったぜ。
「また、追加のオリエンテーションがありますが、それはまた日をあらためて連絡いたします。
オリエンテーション終了後は、正式に支店長格として、現地駐在員の増員などの権限も増えます」
そうか、支店長格か……まぁ、あまりすることは変わらないだろうけどな。
「それと、これは本部の上司からの立場を離れての発言となりますが……
恋愛は自由ですが自己責任でお願いしますね」
現地での行動もいろいろ把握されてるようだな。
言っておくけど俺は「まだ」何もしてないぞ。
アイリーンさんへの報告を終えて、あらためて異世界へ出勤だ。
ココさんへの報告が楽しみだ。喜んでくれるよな。
―― 完 ――
新連載スタートしました。よろしくお願いします。
「ミノタウロスは今日も草を食む ~異世界転生と思ったら輪廻転生だった~」 https://ncode.syosetu.com/n1804et/
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