23 孤児院
金曜になってココさんももう寝てるのは我慢できなくなった様子。
日本の感覚だと、発熱して5日間は出勤停止って感じなんだけど、まぁそこまで細かいこと言ってなくてもいいか。
他の人たちは熱さえ下がれば普通に動き回ってるみたいだし。
とにかく、熱が下がってからのココさんは俺に感謝しまくりって感じ。
俺としてはそこまでのことはしてないと思ってるんだけどな。
あまりにも感謝されまくってると逆に居心地がよくないからほどほどのところにしておいてほしい。
「今まで休んでたのに、申し訳ないですが、ちょっと孤児院の様子を見てきてもいいですか?」
ココさんは孤児院の出だと言ってたな。このインフルエンザの大流行の中、気になることだろう。
「あぁ、店はヒマなものだし、行ってくればいいよ。でも、自分の病み上がりなんだから気をつけていくんだぞ」
「大丈夫ですよ。もう、すっかり元気ですから」
確かに見た目は元気そうなんだけど、でも、やっぱり心配だよな。
しばらくすると、ココさんが走って戻ってきた。
病み上がりっていうのに、ムチャしやがって……
「タジマさん、わたしに飲ませてくれたお薬って購入できますか?」
「孤児院の方、ひどい状態なのか?」
「まわりは相当ひどい状態のようですけど、幸いなことに孤児院ではまだ死者は出てません。
でも、高熱を出してる子たちが5人もいて……」
「そうか……」
インフルエンザも高熱が続けば、他の病気を併発するだろうし、決して致死率の低いような病気ではない。
心配だろうな。
「原価で計算しても、1人分で8万ジェルかかるから、5人分となると40万ジェルになるぞ」
「高いですね……でも大丈夫です。もらったお給料貯めてますから、払えます」
「そうか」
俺がいくらか負担してもいいんだけど、さすがにココさん本人のことじゃないとなると、ココさん自体から断られるだろうな。
お金が足らないならともかく、持ってるならそのまま受け取って売上にまわしておく。
ただし、これ原価だから、本当なら利益プラスしないと不味いんだろうけど、そこまで厳しいことは言われないだろう。
俺は機器を操作して、タミフルを5人分取り寄せると、その使用法や諸注意をココさんにしっかりと伝えた。
「さっそく孤児院に持っていきます」
ココさんは走って出ていった。
「病み上がりなんだから、走るんじゃない!」
俺は後ろからそう叫んだけど、聞こえたものじゃなさそうだ。
しばらくして、ココさんは戻ってきたけどまだ不安そうだ。
「店はヒマだし、孤児院の方に詰めててもいいぞ。看病の方も手が回らなくて大変だろうし。
明日と明後日は店の方も閉めて、行きっぱなしでも問題ないから。
ただし、自分も病み上がりなんだから、しっかり休養も取ってムリはしないってのが絶対条件だ」
「何から何までありがとうございます。ここは甘えさせてもらいます」
「あぁ、俺も三日後の午後にまた来るから、その日はこっちにいてほしい」
「わかりました。では行ってきます」
ココさんはまた駆け出していった。
言うことぜんぜん聞いてやしないな。
それにしても店はヒマだ。
インフルエンザのせいでいろいろと経済活動も停止してしまった感じだ。
冒険者の方にもインフルエンザが広まっているようで、アウランクスの牙の方もまったく入荷が途絶えてる感じだ。
結局、その日の午後もそれ以降、誰一人客も訪れないまま俺は店を閉めて転移で戻ることにした。
いろいろと泊まり込みの看病で俺も疲れが溜まっていた感じだ。土日はゴロゴロと寝てすごした。
そして月曜日、定例の報告に行くと、アイリーンさんにまた一つ教えられた。
どうやら現地従業員も疾病の際には、前に健康診断で行った医療センターを利用できるようだ。
あそこに行けばインフルエンザも早期治療できるらしい。
また予防措置も完全にできるとのことで、俺はそのまま出かけていって予防措置をしてもらった。
これで、現地でインフルエンザに感染することはないはずだ。




