21 流行り病
異世界へ出勤するようになって二ヶ月半が過ぎた。
商売の方は順調と言っていいだろう。
試用期間ももうすぐ終わりだ。
こちらの世界への輸出の方は、当初のコショウと砂糖から、トウガラシや塩などの調味料を少し増やしたのみ。
アイリーンさんのアドバイスのあったとおり、ビニール袋やプラスチックの容器にいれたまま、販売できるように交渉できたので手間がかからずにいい感じだ。
その後の拡張については正式採用後に徐々に行っていこうと思っている。
こちらの世界で買い取っての輸入品については、当初のままでなかなかいい商品をみつけられないでいる。
そこそこ安定して、アウランクスの牙こと象牙を買い取れているので、まぁ問題はないだろう。
そして肝心の利益の方だが、こちらの通貨でのジェルではずいぶん貯まったんだが、日本円での収益はやっと目標の100万円を超えた程度。
ずいぶん偏った感じになってしまっている。
これでもまぁ、正式採用条件は満たしているから、取り敢えずは問題ないだろう。
今後はもう少し利益率の低い商品を狙っていかないと不味いだろうな。
そんな感じで定例の週間報告を終えて、異世界へ出向いたところ、ココさんの様子が変だ。
なんか朦朧としているじゃないか。
「ココさん、どうしたんだ?」
「あ、タジマさん。おはようございます。
なんか流行り病にやられたようで」
「流行り病だって?」
ココさんの額に手を当ててみたところ、酷い高熱じゃないか。
「こんな高熱なのに起きてたらダメだろ。
すぐに寝なさい」
「でも……」
「でもじゃないよ。これは業務命令だ。
元気になるまで店に出てくるのは禁止だ」
俺はココさんに付き添って、彼女の寝室まで送っていった。
「とりあえず着替えるんだ。5分後に部屋に入るからそれまでに着替えておけよ」
こういう時の5分ってのはとても長く感じるな。ココさんの寝室の前でイライラしながらも待った後に、
「それじゃ、はいるからな」
部屋に入ると、ココさんはベッドで横になっていた。
「それで熱がある以外はどんな症状なんだ?」
顔色が明らかに悪く苦しそうである。
「昨日くらいから、体がだるくてあちこちが痛い感じに。後は鼻水がでるのと、頭が痛いくらいです」
うーん、症状からすると風邪か?
流行り病って言ってたな。そういえば先週、冒険者ギルドに行った時も顔色の悪いやつが多かったな。
風邪にしては症状が重いし、もしやインフエルエンザか?
「ちょっと待ってろ」
機器を操作してみたところ、インフルエンザの検査キットが売られてるじゃないか。
10回分で13000円か……1回分ってのはないのか、しかたないな。
さっそく取り寄せてみたけど、これって医療関係者のみに販売ってなってるじゃないか。いいのか?
検査キットの使い方をよく読む。
何度も読む。
もう一度読む。
うーん、一応理解できたと思う。
やるっきゃないか。
「ココさん、ちょっと病気の検査するぞ」
「はい」
きょとんとしてるココさんの顔を押さえて、検査用の綿棒を鼻に突っ込む。
「痛いです」
ココさんは泣きそうな顔でそう呟く。
うん、これ痛いんだ。
俺もこれやられるのは大嫌いなんだよな。
検査キットの説明に従って俺は操作する。
待つこと5分間。
検査キットに反応が現れた。見事にA型で陽性反応が起こってるじゃないか。
いやぁ、異世界でもインフルエンザってあるんだ。
原因がわかれば対処方法は明確。
「この病気の特効薬はあっちの世界で開発されてるから待ってろ」
俺は再び機器を操作する。
タミフルがちゃんと一覧にあってほっとする。
スマホで検索してみたところ、タミフルは1日2回服用で完治まで5日間服用ってなってるな。
10個入りが8000円もするのか。健康保険対象外だと、薬も高いんだな。
まぁ仕方ない。
ついで冷えピタも買っておくか。熱が高いからな。
「この薬を1日2回飲むこと。熱が下がっても飲むのをやめちゃダメだぞ。
たぶん、薬が切れる頃には治ってるはずだ」
とりあえず、最初の1回分をすぐに飲ませる。
飲ませてから気がついたんだけど、タミフルの副作用と言われる異常行動のこと。
急いでスマホで検索してみると、10代の患者には注意ってなってるな。
「ココさんて何歳だっけ?」
女性に年齢聞くのはタブーだけど、こういう場合だから仕方ないだろう。
「17歳ですが」
おっと、想像してた以上に若かったりした。手を出したりしてたら条例違反……異世界だから関係ないか。
だが、10代だから問題あるのか?
人間の常識がキツネの獣人であるココさんにも適用されるのかどうかわからないけど、気をつけたほうがいいだろうな。
ココさんは身寄りがないって言うし、落ち着くまで俺がついていればいいか。




