14 商業ギルドでの商談
食後すぐに商業ギルドへ行こうと思ったが、お昼時はあちらも交代で食事に出ていたりと対応の人も少ないとココさんに聞いたため少し時間をずらすことにした。
まぁ雑談だな。
「ココさんの実家は別の街とかなの?」
「実家っていうか孤児院の出身なんですよ。孤児院はこの街ですから実家みたいなものですね」
何気なく聞いただけなんだけど、実は重い話題だったかもしれないな、これはミスったかも。
「あ、ごめん」
「え? 別に構いませんよ。孤児院では読み書きや計算教えてもらえましたから、そのおかげでこちらに就職できましたし」
考えてみれば、この時代の識字率とかそんなに高くなさそうな気もするな。どのくらいなんだろうな?
「ついでって言っちゃ悪いけど教えて。このあたりだと、読み書きとか計算とか皆できるの?」
「そうですね。孤児院では教えられましたけど、商人の子でもなければ計算とか教わらないみたいですね。
貧しい家だと自分や家族の名前が読めればマシってくらいの感じですよ」
「そうなんだ。じゃ、ココさんは優秀ってことだね」
「そんなことないですよー」
そう言って照れてるけど、読み書き・計算以外にも異文明の機器もすぐに慣れて使いこないしてるし、この適応力は大したものだと思ってる。
そろそろいいかなって時間になったのでココさんと商業ギルドへ向かおうか。
砂糖の壺を俺が持って、コショウの壺をココさんにまかることにした。買ってきてもらった袋は大きめなので一袋にまとめて入れても十分な大きさだけど、まぁ途中で事故するといけないからな。
実際のところ原価は安いので構わないんだが、こっちでは貴重品のはずだし。
カランカラン。
商業ギルドに入ると受付の女性に挨拶して用件を伝えることにした。
「商品サンプルの登録と商品の買取をお願いしたいのだが」
「はい、承ります。どのような商品でしょうか」
「砂糖とコショウだ」
「は?」
あれ、発音が悪かったか?
「砂糖とコショウの登録と買取をお願いしたいんだが」
「商品は今お持ちでしょうか?」
受付の女性は少し慌てた様子で確認してきた。まぁわからないでもないが
「あぁ、ここで出すのか?」
「え、いえ。少々お待ち下さい」
受付の女性は慌てて中へ走っていった。
戻ってきたときには、副ギルド長のイサークともう一人目つきの鋭い老人が一緒だった。これがギルド長かな?
「こんにちは、タジマさんでしたね。
紹介しておきます。こちらがギルド長のロサーノです」
イサークがそうギルド長を紹介する。
「はじめまして、なんでも商品の登録と買取とか。中で話をお伺いしましょう」
まぁこういう展開であろうと予想していたよ。
俺たちはずいぶん立派な部屋へ通された。調度品とかに金がかかってそうだ。
革張りのソファに座ったがやはりクッション性はイマイチだよな。
「商品を見せてもらってよろしいかな?」
ギルド長のロザーノがさっそく目をギラつかせている。
「では、まずコショウからお願いします」
俺はサンプル用の壺のフタを開けて見せた。
「ホワイトペッパーとブラックペッパーを用意させていただきました」
さっそくロザーノはスプーンでほんの少量のホワイトペッパーをすくって、手のひらに載せた。
おいおい、貴重なことはわかるが、そこまで少量でいいのか? ってくらいの少なさだ。そしてイサークも同様にするかと思えば、ロサーノの手のひらから指先に数粒取って眺めている。
しばらく無言でコショウを眺めた後、意を決したように口に含んで目を瞑って味わっているようだ。
その後、二人で見つめ合っているじゃないか。おっさんとじいさんが見つめ合う姿とか別に見たかないぞ。
続いてロザーノはブラックペッパーをスプーンで一粒すくいそれを皿に移した。そのブラックペッパーを小刀でわずかに二欠片切り取って残りを壺に戻した。
一欠片ずつを各自でしばらく鑑賞した後、口に含んでじっくりと味わっていた。
「しばらくそのままお待ち下さい」
二人は別室へ引き上げていった。
相談でもしているのかな? 戻ってくるまでに十分以上そのまま待たされた。
隣でココさんも落ち着かないようだが、正直言って俺も落ち着かないものがある。
「お待たせしました」
二人がやっと戻ってきたぜ。すべて話はロザーノの方がする流れのようだな。
「大変質の良いコショウであると確認できました。今回はいかほど取引願えるのでしょうか?」
まぁ質はそこそこいいだろう。市販品だから高級なものではないが安定した品質であるはずだ。不純物もないはずだしな。
「今回はサンプル以外に四壺ずつ用意させていただきました」
「価格の方は如何ほどで?」
「さて、この町での取引は初めてになりますので、どれくらいが適切であろうかと悩んでいたのですよ。
ギルドのトップのお二人に鑑定いただけるのは僥倖なことかと」
まずはそちらの腹積もりを聞かせてくれってことだよ。
「それでは、どちらも一壺あたり10万ジェルでいかがでしょう?」
「は?」
おいおい、それぞれ5~6000円くらいで売れればいいなって思ってたのに最初からそれの倍近い価格を指定してくれるのかよ。
「安すぎますか? 13万ジェルではいかがでしょうか」
上がるのかい! どうやら俺の態度を価格が不満だと思ったようだな。
まぁこういうときのポーカーフェイスは慣れてるが。
これはもう少し上がりそうだな。
「そのくらいでしょうか?」
「ならば、14万ジェルでお願いします。ギルドとしても他商人に販売するため、これ以上は……」
うーん、他商人にどうせ二割くらいは利益乗せるのだろうから、直接取引するなら17万ジェルくらいにはなりそうだな。
「これからお世話になりますので、今回はそれで手を打たせていただきましょう。
そのかわりと言ってはなんですが、商品サンプル登録の方は早急にお願いします」
そう言っておかないと独占のためにしばらくほっておかれる恐れがあるからな。




