10 香辛料
「コショウって聞いたことある?」
「うんうん」
ココさんも知ってるようだな。思いっきり目を輝かせて首を縦にブルンブルンと振っている。
こうまで期待されちゃ出さないわけにはいかないな。
俺は機器を操作して、ニ点発注した。
ホワイトペッパー 80g 540円
ブラックペッパー 100g 520円
「さぁこれだ」
俺はすぐにどちらもすぐにフタを開けてココさんの前においた。
かつて黒いダイヤと呼ばれたブラックペッパー。
そして、完熟したコショウの外殻を剥いて粉にしたホワイトペッパー。
コショウを求めて大航海時代が始まったって言われてるくらいだからな。
「とりあえずホワイトペッパーの方を味見してみてよ」
ブラックペッパーの方は大きな粒のままだから、このまま味見はムリだろうからな。
「えー、でもこれってすっごく高いんでしょう?」
「俺の世界でも昔は、同じ重さの金と取引されたとかいう話も聞くよ」
「うわ、そんなのとても恐れ多くて……」
「いいからいいから」
とりあえず、俺が手本とばかりに手のひらに少量ふりかけて舐めてみせた。
真似してココさんも人舐めして、顔をしかめた。
「辛いですぅ」
「ははは、まぁコショウってのはこういうものだ。
ちなみにブラックペッパーは粉々にして使うんだけど、こっちの方が味も風味も強烈かな」
「そうなんですね」
「ということで、これの容器も考えておいて欲しい」
「はい、わかりました」
「最初の商品はここまでにしておこうと思うんだけど、ついでに」
俺は機器を操作して、もうニ点発注した。
醤油 1リットル 450円
マヨネーズ 450g 300円
「俺の国でごく普通に使われてる調味料だ。
こっちが醤油って言って、肉料理にも魚料理にも合うと思う」
俺は醤油のペットボトルのフタを開けておいた。
「塩っ辛いですね」
「そうだろうな。でも塩そのものより旨味があっていいと思う。
そしてこっちがマヨネーズ。こっちは生野菜とかに合うと思う」
マヨネーズのボトルのフタを開けておいたが、なんかこっちは気持ち悪いらしく躊躇してるようだ。
仕方ないので俺が手のひらにとって一舐め手本を見せた。
ココさんも真似して舐めて見たようだけど、なんか変な顔をしているな。
どうやらお気に召さなかったようだ。
「まぁこの二点はすぐに商品にするのは難しいかもしれないな。
塩・砂糖・コショウも含めていろいろ料理する時に使ってみてよ」
「え、使ってもいいんですか?」
「うん、そう思って出してみたんだ。気にせずにどんどん使ってみてよ」
「ありがとうございます。すっごく嬉しいです。美味しいのが作れるようになったら食べてくださいね」
ココさんは料理が好きそうだな。
「それはすっごく楽しみだな」
「期待しててくださいね」
本気で期待させていただきます。
「そうそう、俺は明日明後日はこちらには来ない予定なんだ」
「えー、そうなんですか?」
「俺の方の世界の基本ルールは週七日のうち五日働いて二日休みって感じかな」
「そうなんですね、こちらの世界では週七日ってのは同じですが、休みは特にないですね」
休みなしって厳しい世界だな。
「ココさんも俺に合わせて休んでもらって構わないんだよ。他にも休みたいことがあるなら、言ってもらえればある程度は融通きかせるから」
「ありがとうございます。でも特に休んでもすることないしなぁ」
「そうかぁ。そのあたりはまかせるけどムリはしないようにな」
「はい、わかりました」
「じゃ、俺が今度こっちに来るのは三日後になるけど、さっき頼んだことそれまでになんとかなりそう?」
「あ、大丈夫だと思いますよ」
残りの時間はココさんと雑談って感じで過ごした。雑談の中から早くこっちの世界の常識をいろいろ覚えておかないとな。
一見中世ヨーロッパ風と思わせながら、結構いろいろなところで常識が違ってるんだよな。
常識がないってことはそれだけで商売していく上で致命傷になりかねないから、早く常識を覚えないといけない。
こうして俺の異世界での仕事の一日目が終わった。
今日は午前中はアイリーンさん同伴だったけど、来週からはいよいよココさんと二人だけでの仕事となるんだな。
次元転移装置で元の世界に戻ると、目の前にアイリーンさんがいた。そういえば今日はここから転移したんだっけ。
「田島さん、お疲れ様。特に問題はないかな?」
「そうですね。特に問題ありません」
「週一度の報告日は何曜日がいいかしら?」
「月曜日とかでいいですか?」
「問題ないわよ。月曜の朝ってことでお願いしますね。あ、来週の報告はなくてもいいわ、その次の週からで」
「そうさせてもらいますね」
就職もなんとか決まったし、今日くらいは祝杯をあげることにしよう。
金曜の夜ってことで新宿の街も人が多い。俺はその雑踏に溶け込んでいった。