表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Golem   作者: ひでくん
9/55

読書

 マリアと別れた後にパーサーは駅前通りの側にひっそりと佇む古いアパートへと帰って来た。

 アパートは雨戸が所々、外れていて手入れをされていない花壇から這い出た植物の蔓は館を覆い尽くさんとせんばかりに外壁によじ登っている。

 初めてルームメイトのジェームズと館を訪れたときはあんまりな雰囲気に顔面が蒼白したものだった。

 一年たつ頃には東の果ての国の諺に有るように住めば都と言った感じに中々、気に入ってた。


 まぁ、単なる慣れとも言うのだが。


 パーサーはそんなアパートの出入り口の両扉に近づいて、まだ取手のついている片方の扉を開けて中に入った。

 そして、どんな名怪盗でも足音を消すのは不可能な廊下をギシギシと奥に進み、手摺が二、三段毎に外れた階段を登って行った。

 二階に到着すると、向かい側の扉へと近づいて自身の懐から、茶色く錆びた鍵を取り出すと、ガシャと鍵を外して部屋の中に入った。


「ただいま」


 誰ともなしにパーサーは呟いた。

 ジェームズはさすがにまだ、帰って来てない。

 遠回りついでにパブにでも行っているのだろうと思い、パーサーはブレザーを脱いでコート掛に引っかけた。

 ネクタイを弛めながら、キッチンへと進み適当にハムとチーズあと、薄いトーストで少し遅くなった夕食をとった。

 その後、出の悪いシャワーで一息ついた。

 そして、仄かに辺りを照らす、蝋燭の灯りの側でパーサーは自室の本棚にある何度となく開いた跡のある古ぼけた本を手に取り机に座った。

半年程前に古本屋で埃被っていた本だ。

内容はゴーレムの研究が始まって間もない頃の研究日誌の様で何となく、気になって購入した物だった。

パラッ、パラッと紙をめくる。

何十という実験の失敗に、その度に何故、動かなかったのかという考察が詳しく書かれている。

 パーサーは本を読み進めながらゴーレムの暴走やデモ、マリアとの出合いに、彼女の機械の話と色々あったなと今日の事を反芻する。

 もう、灯りを消して寝てしまおうかと考えるが作者がゴーレムの製造を成功させるくだりまで読み進めていたので中々、本を閉じる気にはなれなかった。




 ー周囲の者は泥の人形が祭壇から、自らの足で大地にたったときに歓声をあげ、成功だと手を取り合った。

 しかし私にとって、それは成功とは程遠い結果であった事は言うまでも無い。


 だから、私はこの泥の人形を古い言葉で"ゴゥレム"(未完成なもの又は胎児)と名付けた。

 どうすれば、彼を再現出来るのか?

 神は彼を土の塊に息吹きを吹き込み彼を創造した。

 息吹きとはカバラ文字では無いのか?

 何れにせよ、私には一つのアイデアがある。

 恐らく、これは今までの中でも可能性が高いだろう。

 私は次に創造する物に彼の**を核として使用する。

 彼が自身の*を創造した時の技法を元にするのだ。

 彼の**を手に入れるのは困難な仕事になるだろう。

 しかし私には今、私の創造物がある。

 彼らを上手く使用すれば、手に入る筈だ。

 私は必ず、彼の**を手に入れる。

 そして、私は必ず創造して見せよう。

 ゴゥレム(未完成なもの)から、ホムンクルス(完成されたもの)をー




「たっだいま~!パーサー、帰ってるかー!ジェームズさまのお帰りだぞ~!」


 けたたましい扉の開く音と陽気なルームメイトの声が響いた。

どうやら、かなり飲んで来たようだ。

パーサーはため息をついてリビングでグダっているジェームズを介抱する為に席を立った。


「ウッ!君は何れだけ、飲んで来たんだよ」


 自室の扉を開けた瞬間にプーンとアルコールの臭いが鼻についた。

 顔をしかめたパーサーの顔がおかしいのかゲラゲラとジェームズは笑いだし、一層にパーサーは眉間にシワを寄せた。


「おいおい、シワが残るぞ~!もっと、笑えよぉ~!」

「うるさい。今、何時だと思ってるんだ?ほら、手を貸せよ。ベットまで連れていってやる」


 無理やり、手を掴み立たせるとフラフラとジェームズの自室へと向かわせた。


「ウィ、なぁ、あの後は大丈夫だったかぁ?」

「あの後?」

「俺と別れた後だよ。あの~、教会の女の子に唆されなかったか?」

「何だよ?唆されるって、彼女はそんな事はしなかったぞ」

「お前って、鈍感だから気付かなかっただけじゃないのか?ハハハ」

「酒臭いから笑うなよ!ほら、君のベットだぞ!」


 ジェームズの自室のベットへと押し込むと、せめて上着は皺の出来ない様に脱がして椅子に掛けてやった。


「本当に明日も講義があるのに、どうなってなも知らないからな!」

「ハイハイ。ありがとよー。お休みー」


 ベットに沈んだジェームズに呆れつつ、自室へと戻ろうと扉の取手に手を付けると後ろから、あの娘だけは辞めとけと声を掛けられたがパーサーは聞こえなかったフリをして部屋から出ていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ