砂嵐の中の戦場
砂嵐の中を進む"戦車"と呼ばれた鋼鉄の箱を、パーサーは凝視した。
(大きさはタロースとほぼ同等。でも、全て鉄で出来ているなら、強度は向こうの方が上だろうな。機動力はーー駄目だ。ここからじゃ、足回りが見えない)
パーサーは、自分なりに現行の軍用golemが対応出来るのかを見極めようとした。
その間にも、砂嵐の中の戦車は速度を増し、オスマン帝国軍へ迫っていた。
「あれは、不味いな」
パーサーの隣でハミルトンが呟く。
異常な砂嵐に加えて突如、前線司令部に奇襲を受けたオスマン帝国軍は、峡谷への攻撃が停滞していた。
「指揮系統が混乱している」
更には峡谷の進撃ラインを守ろうとする部隊ーー
司令部への救援に向かう部隊ーー
そして、判断を下せず中途半端な位置で停止する部隊が混在し、前線は崩れかけていた。
そのうち、戦車の車体から突き出た筒が火を噴くと一体、また一体とエレファンタスを粉々にしていく。
「なんて攻撃力なんだ!!大佐、あれは!」
「あれは大砲みたいですね。あの戦車という兵器に搭載出来るまでに小型化しているなんて!」
そこへ、マリアが二人の会話に入る。
「通常の大砲は三つくらいに分解しないと運べない重さなのに……それを、あんな大きさの車体に収めるなんて!」
「詳しいことはわからないけど、前に軍の記念式典を観に行ったとき見たことがあるよ。四体の大型golemがようやく組み上げていた」
「マリア女史、あの大砲の威力は如何ほどなのかわかるかね?タロースで対抗可能か?」
「大砲の弾にも寄りますが、おそらく……」
マリアが答えを返す直前に大盾を装備した一体のタロースが戦車に向けて突進を開始する。
直後、三両の戦車の大砲が順に火を吹く。
一発目、タロースの大盾が歪む。
二発目、大盾の鋼が貫かれる。
そして、三発目でタロースの巨体が爆散し、上半身が砕け散る。
「……あれでは"emeth"を狙う必要すらないな」
戦車の大砲の威力にハミルトンは眼を細めた。
(そんな!タロースが、あんなに簡単にヤられるなんて!)
パーサーは、自分の国が誇るgolemが沈む姿をみて言葉が出なかった。
「おい!戦場の見学会なんてしてる暇は無いぞ!そろそろ、嵐に巻き込まれるぞ!」
そこへ、ネッドの焦った声が響くとパーサーは、視線を砂嵐に戻す。
「こんな近くまで来てるなんて!」
砂嵐は非力な飛行船を呑み込まんとする獣のように凶暴な大口を開き、迫ってくる。
直後、アンティキティラ島で経験した嵐とは比べ物にならない振動が飛行船を襲う。
ネッドはすぐに舵をリヒトに譲る。
しかし、飛行船は激しく揺さぶられ、リヒトですら制御するのがやっとだった。
後方から、プロペラ軸を連結させる為に巻いた鎖がガリガリと耳障りな音を響かせて焦げた匂いが漂い出す。
視界も砂塵に隠れて黒く塗り潰されていく。
「リヒト少尉!もっと高度を下げなさい!」
「シスター・リリス!だが、地面が見えないのに降下したら最悪、地面に激突してしまう!」
「このままだと、渓谷の壁に激突するわよ!大丈夫!上昇のタイミングは私が合図するから、下げなさい!」
まるで、砂塵の向こうを視えているかのようにリリスは迷いなく前を見据え、指示を出す。
リヒトは、無言で水素を排出するレバーを引く。
飛行船は、ガクッと機首を下げると急激に降下しだす。
パーサーは、喉の奥から込み上げる悲鳴を必死に殺す。
(まだ、上昇しないのか!?早くしないと、地面に衝突する!)
パーサーの焦りが伝わったのか、まだかと、リヒトが叫ぶ。
「まだよ!まだまだ…………、今よ!!」
リリスの合図にリヒトは、上昇用のレバーを掴むと力の限り引く。
ググググと、今度は下に押さえつけられる感覚とともに飛行船のゴンドラの底が地面を削り、木材が裂ける嫌な振動が全身を打つ。
「ゥ゙っ」
パーサーは、小さく呻いて顔を上げると目の前では嵐の中でタロースと戦車の戦闘が継続しており、暗い砂の世界で爆発の光や音が時折、聞こえて来る。
「こんな状況でも……戦いは止まってない……」
パーサーは、そう呟いた。
そして、飛行船がタロースのすぐ隣を通過するとき、飛行船の真横でタロースが戦車の砲撃で爆発する。
そして、タロースの破片が飛び散って艦橋の窓ガラスを割る。
今度こそ、パーサーは抑えきれず悲鳴が漏れる。
「くそ!全員無事か!?」
ハミルトンが叫ぶ。
割れたガラスと窓から吹き込んでくる砂塵で艦橋は、視界の確保すら難しくなり、誰がどこにいるのかも分からない。
「うっ、眼が!」
それに加えてパーサーの眼に砂が入り、眼を開ける事が出来なくなっていた。
そこへ、誰かが砂塵の中から腕を伸ばし、パーサーを支えた。
「クラーディ?」
身体に感じる硬い手の触感で、自分を助けに来たのがクラーディだと気付いて、パーサーの呼吸が僅かに整う。
「ありがとう、クラーディ!でも、マリアは?マリアが心配だ!彼女の下に連れて行って!」
パーサーは、そう指示を出すとクラーディはパーサーの肩を支えて誘導しだす。
「マリア!無事なのか?マリア!」
「パーサーくん!私は無事です!リリス先生といます!」
「パーサーも無事なのね!良かったわ!クラーディと一緒にそこにいなさい!リヒト少尉!聞こえて?今の高度を維持して、そのまま真っすぐ飛ぶのよ!」
マリアの側にいるリリスが、指示を飛ばすと風の轟音に混じって了解したとリヒトの声が聞こえた。
直後、艦橋の扉が吹き飛ぶような音が響く。
「ゲェ!また、奴らだ!Fresh・golemが来たぞ!」
ネッドの声が聞こえ、二つの硬質な足音が、砂塵が舞う艦橋の中を進んでくる。
「気をつけろ!」
誰かの声が聞こえた。
次の瞬間、砂埃の中からFresh・golemが現れて二人に襲い掛かって来た。
「クラーディ!」
Fresh・golemはクラーディの腕を掴む。
パーサーは、ヨハンの握り潰された手を思い出して顔を青くする。
それに対してクラーディは、パーサーを支えていない方の手でFresh・golemの手首を掴む。
golem同士の力比べ。
手首を掴まれたFresh・golemはクラーディの力に負けて床に押さえつけられる。
そして、クラーディが片足を上げて、思いっ切りFresh・golemの頭部を踏み潰した。
「流石だね、クラーディ」
その短い攻防をパーサーというハンデを支えながら、淡々とこなしたクラーディを褒めると彼は当然だと言わんばかりに大きく頷く。
「候補生!こっちはシスターと私で処理した!そちらはどうだ!?」
「ハミルトン大佐!大丈夫です!クラーディが倒してくれました!」
砂塵の向こう側でぼんやりとハミルトンの影が見えてパーサーは、大きな声で報告する。
すると、艦橋の入り口から新たな影が飛び出して来た。
「お前ら、生身でgolemを倒すなんて、本当に人間かよ!?」
「ジェームズ!?」
ジェームズが、悪態をついて艦橋に飛び込んで来たのだ。
一瞬、見えた彼の右手にはナイフが握られて真っすぐ一人孤立しているマリアの下に向かっていた。
(マリアを人質に取るつもりなのか!)
ジェームズの意図がすぐにわかり、パーサーはクラーディの手から離れて彼の行動を阻止しようと駆け出した。
「ジェームズ!!」
「そう来ると思っていたぜ!」
パーサーがジェームズに近づこうとした直後、彼はくるっと反転してパーサーに体当たりを繰り出して来た。
「!?」
不意を突かれて、パーサーはジェームズの体当たりを喰らう。
二人は倒れはしなかったが、お互いに掴み合い壁際へと押しやられる。
そして、壁に叩き付けられるとパーサーが覚悟したとき、あるべき壁の感触は空を切った。
そこは既に、砕けた窓だったのだ。
二人はバランスを崩して窓から身を乗り出す。
そして、暴風が吹き荒れる外の世界へと落ちる。
遠ざかる艦橋の窓から、自分に手を伸ばすクラーディとマリアの姿が視え、すぐに固い地面の感触が激痛とともに襲いかかる。
パーサーの身体は自然に丸まり、地面を勢いよく転がっていく。
転がり続け、やがて身体が地面に叩きつけられたとき、パーサーは全身の痛み、特に右脚の激痛に顔を顰める。
「うっ、ううう〜」
パーサーは呻きながら、必死に薄れ行く意識を保とうとする。
そこへ、キュラ、キュラと聞いたことの無い音を響かせて戦車が砂塵の中から姿を現した。
(…………近くで、見るとでかいな)
場違いの感想を浮かべつつ、パーサーは戦車を見詰める。
戦車は、パーサーの近くで止まる。
そして、ガコッという音とともに戦車の上部の丸い扉が開く。
(誰かが……出て、来る…?)
完全にパーサーの意識が暗闇に落ちる直前、戦車の中から思いも寄らない人物が姿を現した。
(!?)
黒い鎧を纏い、
目元だけが空いた兜で顔を隠した、
どこがgolemを思わせる黒衣の兵士の姿。
(イ……、イェニチェリ?)
イェニチェリの兵士は、戦車から上半身のみを出して辺りを見渡すと再び、戦車の中へと戻る。
そして、キュラ、キュラとまた音を響かせて砂塵の奥へと消え去る。
(な、何で?…………、彼ら…が…?)
パーサーの脳裏に疑問が浮かぶ。
しかし、どんなに考えてもイェニチェリが戦車に乗っていたのか答えは分からず、パーサーの意識は暗い闇に消えて行った。
感想とタイトル案を教えて
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!引き続き、よろしくお願いします!




