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分かれた道

 中東特有の乾いた風が砂塵を伴い荒れた世界を吹き抜ける。

 ひび割れ、砂が舞い、生命の息吹を忘れたような大地には、幾つものgolemが巨躯を横たえていた。

 あるものは手足がもがれ、あるものは胴に大穴が穿たれ、酷いものは粉々に砕け散った、無残な姿を晒している。


「ウッ、ゲホッ!ゲホッ!」


 そんな中で、あるgolemの腕の残骸の側の砂が盛り上がり、一つの人影が咳き込みながら起き上がる。


「ウッ、ウウ……」


 人影は、呻きながら残骸に背中を預ける。

 人影の人物、パーサーは眼に入った砂を手で擦り視界を回復させようと試みる。

 額からは汗と血がジワリと血が滲んでいた。


「ゲホッ!……いったい、何が起きたんだ?」


 肩や膝が破れ、砂だらけの軍服や髪を払う気力も無さそうに周囲を見渡す。

 勿論、視界に入るのは砂とgolemだった物の残骸だけ。


「タロースが………」


 所々に動かなくなったオスマン軍の重golem、タロースの姿に愕然としたパーサーだったが、何時までもジッとはしていられないと右足を一歩踏み出す。


「くッ!」


 しかし、動き出そうとした瞬間に右足に刺すような痛みに顔をしかめる。


「おーい!誰か!誰か居ないか!」


 右足に感じる痛みを我慢してパーサーは、仲間を探す為に腕の残骸の影から姿を晒す。

 途端に激しい太陽の光が顔を照らし、熱気と眩しさを感じて眼を閉じる。

 それでも自分以外の人を探そうと眼を開き、凶暴な光りの世界を一歩、また一歩と右足を引き摺りながら動かす。


「おーい!誰か!おーい!」


 喉が枯れても構わないといった風に大声を出す。

 しかし、返って来るのは乾いた風とパラパラとタロースの残骸から剥がれ落ちる土の音のみだった。


「ハァ、ハァ。誰か……」


 どのくらい時間が経ったのか、1時間か、2時間か、いや、もしかしたら、5分も経っていなかったかも知れないが、ボロボロの状態のパーサーにとっては両膝を砂の大地につくのに十分な時間だった。


「マリア、クラーディ……、ハミルトン大佐、リリス先生…、リヒト少尉」


 彼等は無事なのかと疑問が浮かぶ。


 カサッ

 !?


 不意に近くで人の気配を感じて顔を上げる。

 見ると、golemの残骸の隙間から誰かが這い出て来ていた。


「良かった!大丈夫ですか?」


 パーサーは気力を振り絞り、人影へと近付いて彼の腕を掴んで引き起こす。


「ウッ、クソッ!頭がガンガンするぜ!」


 人影が吐き捨てる様に呟いた。

 その声を聞いて、パーサーは慌てて掴んだ腕を離して一歩、後ろに身を引いた。


「うわッ!痛てててて!いきなり離すなよ!……って、パーサーか?」


 突然、手を離されて尻もちを着いた人物は、パーサーと同様に砂まみれの破れた服に身を包み、唖然とパーサーを見詰める。


「うっ、動くな!」


 パーサーは、直ぐにホルスターへと手を伸ばす。

 しかし、ある筈の重みが無い。

 ホルスターには銃が入って居らず、手は空を切る。


「まぁ、落ち着けよ」


 その人物は、両手を上げてパーサーをなだめる。

 しかし、パーサーは油断なく距離をとり警戒を続ける。


「何で、君がここにいるんだ?」

「さぁ?何でだろうな?」

「この惨状は君達のせいなのか?」

「これがか?そんな訳無いだろう?いくら、俺達でも軍用のgolemを、こんなにスクラップに出来る訳が無いぜ」


 あくまでも軽口で答える彼にパーサーは、苛立ちを積もらせてザクッザクッと砂を踏み締めて近付いて乱暴に襟首を掴む。


「おいおい。そんなキャラじゃないだろ、パーサー?」

「うるさい!真面目に答えるんだ、ジェームズ!」


 パーサーの剣幕にやれやれとジェームズは肩を竦めるが、彼の顔に苦痛の色が浮かぶ。

 おそらくは脱臼しているのだろう、よく見ると左肩がダラリと垂れ下がっていた。


「大丈夫か、ジェームズ?」

「人に怒鳴りつけるか、心配するかどっちかにしろよ。相変わらず、忙しい奴だな」


 襟首から、手を離して気遣い出したパーサーにジェームズは、呆れた様に、楽しそうに笑う。


「うっさい。君だって相変わらず、皮肉屋だな」

「へいへい。兎に角、日陰に移動しようぜ?このままだとフライになりかね無いぜ」

「そうだね、こんな所で言い合ってもお互いに得は無いしね」


 ジェームズの提案にパーサーは頷く。

 幸いにもタロースの残骸が多いお陰で日除け場所には困らなそうだった。


「パーサー、肩を貸してくれよ」

「あのね、こっちだって怪我人なんだよ」

「あ?ああ、足を怪我してんのか?ほら、俺の肩を持てよ。痛て!お前、左に触んなよ!」

「あっ、ごめん」


 2人は、そんなやり取りをしつつ一番近くの比較的、影の大きい残骸に身を寄せ合う。


「ハァ、ハァ。なぁ、水とか持って無いか?」

「逆に持ってると思う?」

「「…………」」


 2人は二、三言、話すと無言になる。

 パーサーは聞きたいことが幾つも頭に浮き上がる。


 教授の学会での発表の時に何があったのか?

 ウィルソン教授は、どうなったのか?

 何故、Adamに従うのか?


 それらの疑問を口にしようとするも、何故か喉の奥に引っ掛かり、上手く聞けなかった。


「…ないぞ」

「え?」

「お前のとこの奴ら砂嵐に上手く隠れて、ここから脱出してるのを見たから、多分、心配ないぞ」


 不意にジェームズはハミルトン達の事を口にする。

 小さく、そうかと返事をすると意外そうにジェームズは、パーサーを見詰める。


「なに?」

「いや、お前が心配して無さそうで驚いてるんだよ」

「心配はしてるよ。でも、ハミルトン大佐やリリス先生が居るんだ。だから、そこまではって感じかな?」

「リリス先生って奴は知らないがハミルトン大佐って、あの顔が、おっかなさそうな奴だよな?確かに心配するだけ無駄そうだ」


 そう言って、ジェームズは苦笑して、また2人の間に沈黙が流れる。


「ねぇ」


 再度、沈黙を破ったのはパーサーだった。


「何で君は、そっちにいるの?」

「………」

「あの日、君がウィルソン教授の学会での発表をする時に何があったんだ?」

「…………知りたいか?」


 暫しの沈黙の後、ジェームズはポツリと返事をする。


「勿論だよ。あの日、明らかに何かが変わった。Adamが表舞台に上がり、君がアイツに付くなんて事になったんだ。僕は、知らないといけない。……そんな気がするんだ」

「はぁ~。たくっ、思えば俺もお前も、あの時、教授の頼みを断れば、こんな事にはなって無かったよな!」


 ジェームズは、深いため息を吐き捨てて、思い出す様に眼を閉じる。


「最初に言うがな、俺は別にヴィクターみたいにAdamを信奉して付き従ってるわけじゃないからな」

「そうなの?」

「俺は、誰かの為に命を掛けてまで働く柄じゃないのは知ってるだろ?」

「ああ、君は隙があれば、サボって最小限の努力で自分の満足する最低ラインを取りに行く奴だからね」

「馬鹿にしてんの?」


 ジェームズは、片目を開けて睨むが、パーサーは、要領が良いって褒めてんだよと飄々と受け流す。

 ついこの前まで講義場でしていた様なやり取りに2人の間にあった緊張感は、薄れていった。


「まぁ、その話は置いといて。あの日、お前と別れた後……」


 ジェームズの脳裏に、あの日の光景が浮かび上がる。


 ジェームズは、パーサーと別れ、ウィルソンとは別の教授の講座に出席しようとしていた。

 しかし、唐突に講座を担当する教授からウィルソン教授の所へ行くようにと言われて一人、ウィルソンの執務室の前へと来ていた。


「教授、ウィルソン教授、居ますか?」


 コン、コン、コンと軽く扉をノックすると中から、入り給えと返事が返って来る。

 ジェームズは、直ぐに失礼しますと声を掛けて部屋に入るとウィルソンが忙しそうに学会へと行く準備をしていた。

 また、部屋の角にはクラウスが静かに立っていた。


「散らかっていて、悪いね」  


 ウィルソンは、振り返る事無くジェームズに詫びる。


「昨日も、そうだったんで、大丈夫です」

「ハハハ、そうだったね。クラウス、悪いが、これと、あとこの資料を馬車に載せておいてくれ」


 ウィルソンは、部屋の片隅に立っていたクラウスに声を掛ける。

 クラウスは、直ぐに反応を示し、ウィルソンに言われた重そうな荷物を両手に持ち、馬車が待機している場所へと向かう。

 コツ、コツ、コツと荷物の重みを感じさせない足取りで部屋を後にする。

 その様子にジェームズは、ヒュ〜と軽い口笛を鳴らす。


「流石、ウィルソン教授のgolemですね。昨日も見たけど、明らかに他のと違って動きが滑らかですね」

「そう言ってくれて、光栄だよ。まぁ、私を褒めても単位はあげられないがね」


 ウィルソンのジョークにジェームズは、そりゃ、残念と軽口を言う。

 そうして、少しの間また資料の束を鞄に詰めるとウィルソンはジェームズに向き直る。


「さて、待たせたね」

「いえ、大丈夫です。それで?ご用は何です?」

「ああ、その事なんだが、私の学会での発表の助手をしてもらえないかな?」

「助手?」




 その時の俺の顔を、想像できるか?

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。やっとオスマン帝国編が始まります!この章では何故、ジェームズがAdam側についたのかをフォーカスして行こうと思います!あと、主人公の存在感が薄くなっていたので、主人公感の復活笑

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