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飛行船へ集う者たち

 嵐に遭いダメージを受けた飛行船は、完全とは言えないまでも応急処置を施され、地上から1mほど浮いた状態で係留されていた。


「ハミルトン大佐、船は7割程度の修復を終えました。後は飛行しながら、リヒトホーフェン少尉達が調達した資材で修理を完了する手はずです」


 艦橋で、ジファールから飛行船の管理を任された若い牧師が報告する。


「7割か。その状態で、今後の運行に支障はないと判断して良いのか?」

「そうですねぇ。この先、昨夜の様な嵐に巻き込まれなければ、問題は無い筈です」

「『筈』では困る。確定した情報だけを上げろ」


 ハミルトンの指摘に牧師は慌てて姿勢を正し、「問題ありません」と言い直した。


「ハミルトンの旦那、あまり根を詰め過ぎても良い仕事は出来ないですぜ」


 そこに欠伸をかきながら、ネッドが入って来た。


「ネッド…。君は何処にいた?」

「俺は海の上を走る船の水夫ですぜ?教会連中とは違い、機械イジリは専門外なんで、少し仮眠してましたよ」


 そう言って、寝癖のついた髪を掻きむしる。


「仮眠か、どちらかと言うと睡眠だな」


 修理の騒音の中で、よく眠れたものだと呆れるハミルトンに、ネッドはニヤリと笑い返した。


「そう言えば、パーサーと嬢ちゃん達は、そろそろ帰って来るんじゃないですか?」

「ああ、そうだな。2班が戻り次第、出発する。君も準備を整えていてくれ」


 ハミルトンは、そう指示を出すと眼鏡を手に取り、外へと視線を向けた。


 すると丁度、村と山の方角から、それぞれ歩いて来る二組の人影が見えて来た。


「噂をすれば、とはこのことだな」


 そう言うとハミルトンは、眼鏡を置き、艦橋から踵を返して外に向かった。


「マリア!」

「パーサーくん!」


 外では、二つのグループが、お互いを見つけて合流する。


「マリア、大丈夫?重そうだね?その荷物、持つよ」


 パーサーは、スッと手を出してマリアの荷物を受け取ろうとする。


「おっ、気が利くな坊主!それじゃ、頼むわ!」


 そこにギュンターがニヤニヤと笑いながら、自身の背のうをパーサーに受け渡す。


「うわっ、重っ!?」


 ギュンターの背のうを受け取ってしまったパーサーは思わず、その重みによろけてしまう。

 その様子に皆はクスクスと笑い声が漏れ出る。


「大丈夫ですか、パーサーくん?」


 唯一、マリアだけは心配するが、パーサーは、こんなの平気だよと強がる。

 だが日ごろ、紙とペンしか持たない様な学生が、兵士用の背のうを担げるはずもなかった。


「クラーディ、見てないで!持ってくれよ!」


 堪らずにパーサーは、クラーディに声を掛ける。

 すると、列の後ろにいたクラーディがパーサーの横を通り過ぎ、マリアの前に移動する。


「クラーディ!良かった!すっかり、元気になったんだね!」


 マリアは、嬉しそうにクラーディを見詰める。

 クラーディは、もう大丈夫だと言わんばかりにくるりとターンし、マリアの荷物を取った。


「クラーディ!なんで、1番軽い方を取るんだよ!」


 パーサーは、口を尖らせて文句を言うが、クラーディはどこ吹く風といった様子でスルーする。


「パーサー、良いじゃねーか。男なら1番重い物を持てた方がモテるぜ」


 含み笑いを滲ませてハンスがパーサーを煽る。

 そうして一行は、飛行船の下まで移動するとハミルトンが出迎えた。


「ふむ、クラーディは完全に直ったか。それと全員、異常は無いな」


 ハミルトンは、全員を一瞥するとリリスに向き直り、飛行船の状態を告げる。


「7割なら、問題無いわね」

「ああ、牧師も同じ事を言っていたが、君も同じ意見なら直ぐに出発しよう」

「待って、その前に休憩を入れましょう。疲れてるでしょ?」

「問題無い。牧師達には適度にローテーションを組ませていたからな。疲労度も、そこまでは溜まって無い筈だ」

「休憩が必要なのは貴方よ、ハミルトン。ずっと指揮を取ってくれていたんでしょ」

「それこそ問題無い。私は軍人だぞ。これしきの事で疲労など溜まっていない」


 リリスの言葉に問答の余地は無いとばかりに切って捨てる。

 しかし、リリスがジッと見つめ続けてハミルトンはため息をついて、1時間だけ休憩しようと妥協する。


「他に言うべき事は無いな?」

「私からは無いわ」

「ハミルトン大佐」


 ハミルトンとリリスの会話にリヒトが割って入って来る。


「リヒトホーフェン少尉。丁度、貴官にも話そうと思っていた。貴官の部隊には飛行船周辺の歩哨を任せていた。中々に良い部下達だった。貴官に指揮権を戻そう」

「それはどうも、指揮権の返納を受け取りました」


 そう言って2人は敬礼し合う。


「それは、そうとハミルトン大佐、シスター・リリス。後ほど、話し合いたい事があります」

「リヒト少尉。それは今ここで話せる事ではないの?」

「ええ、出来れば、この3人で個室で話した方が良い内容だと判断します。お時間はお取りしません」


 リヒトの様子からハミルトンは、少尉の言う通りにしようと受け合う事にした。

 そして、ハミルトンは、マリアに牧師達と共に飛行船の点検をする様に指示した。

 また、パーサーとクラーディには荷物の搬入と、その後にマリアの手伝いをする様に指示を出す。

 またギュンター達、ドイツ兵は飛行船が出発するまで歩哨をする様にリヒトは命令する。

 そうして、残ったハミルトンとリヒト、リリスは人気の少ない格納庫へと向かった。




 飛行船のエンジンの点検を始めたのだろう低いエンジン音が響く格納庫で、3人は向き合っていた。


「…、以上が私の班が遭遇した事象です」

「…その画家、エル・グレコ氏だったか?自らが光った時の記憶は無かったのだな?」

「ええ。私達と会って少し話したところで記憶が途切れていたそうです」

「正体不明の憑依体か…。それで少尉は、何だと思う?」


 ハミルトンの質問にリヒトは言いづらそうに顔をしかめる。


「正直、見たままで捉えるべきか、判断がつきかねます。シスター・リリスなら、何かわかるのでは?」


 そう言って、リヒトは言葉のバトンをリリスに渡す。


「そうですね。私も見た訳ではありませんから、何とも言えませんが、もし本当に主ならば、それはほんの一部がグレコ氏に乗り移ったとみて間違いないかと」

「ミス・マリアも同じ見解でした」


 リリスは、当たり障りない答えを出すと静かに祈る様に眼を瞑る。


「ふむ。この件は、考えても答えは出まい。これ以上、余計な心配毎で混乱するのを避けたい。この件は他言無用で通す。少尉、すまんが君と同行していた部下とミス・マリアにも、暫く口をつぐむように伝えてくれ」

「了解しました」

「ハミルトン大佐、マリアには私から言っておくわ」

「そうか。ならば、任せよう」


 そこまで話して、3人は解散という流れになった。

 格納庫から出る際に、ハミルトンはリリスに向き直り、リヒトの報告に合った設計図を確認する様に頼む。


「ええ、私も興味があるの。言われなくても確認するわ」


 リリスの答えにハミルトンは、頼んだぞ一言言うと踵を返して格納庫から出て行った。

 2人が完全に出て行ったのを確認すると、一人残ったリリスは、天井を睨みつけた。


「まったく、大昔の設計図を持ち出して私の生徒に何をさせる積りなの?私に直接、言えば良いんじゃないの?」


 リリスは、若干の苛立ちと共に拗ねた様にも聞こえる声で小さく呟いた。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます!多分、次で島から出られると思います汗

アンティキティラ島編が思いの外、長くなってしまいました!

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