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帰路の議論

 飛行船への帰り道。地面は、すっかり乾燥して行きの時よりも随分、歩きやすくなっていた。

 背のうに飛行船に必要な資材を入れた3人は始終無言で歩いていた。


「よし、ここで一旦、小休止を入れよう」


 先頭を歩いていたリヒトが手を上げて歩を止めさせる。

 3人は、それぞれに座りやすい石の上や草地に腰を下ろして息をつく。


少尉(Leutnant)…、あれは何だったんでしょうか?」


 水筒の水に口をつけて、喉に水を流し込んだギュンターがポツリと疑問をこぼす。


「わからん」


 リヒトは、お手上げだと言わんばかりに肩を竦める。

 そして、マリアに視線を移し、君はどうだいと話し掛ける。


「あれは…もしかすると、私達は偉大な御方にお会いしたのかも知れません」

「神だと言うことかな?」


 リヒトの神という発言にマリアは頷く。

 ギュンターは、胸の前で十字を切り、リヒトは思わず天を仰ぎ見る。


「私は、そこそこ敬虔な信者だとは自負しているが、実際に神をこの目で見るとはな」

「実際には主、本人ではなく、主のほんの一部がグレコさんに憑依して私達に9番目と10番目の絵を描いてみせたと言うのが私の見解です」


 マリアは、そう言って両手を合わせて祈りの言葉を口にする。


「嬢ちゃん、解らないんだが、神様は何で俺達に絵を見せたかったんだ?」

「ギュンター。おそらく軍人である私達に向けたものではないだろう」


 マリアが口を開く前にリヒトが答える。


「え?そうなんですかね?」

「ああ、あれは我々では無く、ミス・マリアーー君に向けたものだったのだろう?」


 リヒトは、ほぼ断定した言い方でマリアに質問する。


「そう…、ですね。多分、主は私に、これを作るように示されたんだと思います」


 マリアは、鞄から一枚の紙を取り出してリヒト達に見せた。


「それは?」

「これは、グレコさんが気を失っている間に二つの絵と教会に飾られた風景画のある部分を模写した物を1枚に合わせた物です」


 リヒトが、それを覗き込むと幾重もの線と円が入り混じり、常人には何処から手をつければいいか分からないほどで精密な設計図が視界に入る。


「この設計図は、何の機械なんだ?」

「わかりません」


 ですが、何か意味があるはずですと言い切った。


「それは、Adamを止める為の武器ということかな?」

「そうかも知れませんし、違うかも」

「違う?」


 マリアは、憑依されたグレコが語った内容を思い出しながら、設計図を凝視する。


「"世界の歪み"

 確かにグレコさんいえ、グレコさんに憑依された御方は、そう言っていました。世界の歪みを修正せよと」


 そこまで言ったとき、ギュンターは徐ろにピッケルヘルムを脱ぎ、ガシガシと頭を掻き出した。


「意味がわかりませんよ!世界が歪んでる?見てくださいよ!この風景を!海が、空が、変に捩れてますか?何処も普通だ!」

「ギュンター伍長、落ち着け」

「しかし、少尉(Leutnant)

 我々が受けた任務は教会の要人の警護だったはずです!それがAdamだの、世界の歪みだのと規模が大き過ぎます!我々、小隊とイギリスの連中の戦力を合わせても手に負えませんよ!」


 確かにギュンターの言う通り、世界を救うのにはまったく、人手が足りない。


「そんな大層なことは、兵士が考える事では無いな。良いか、考えるのは頭の良い連中に任せれば良いんだ。私達は、その連中のプランに沿って実行すれば良いだけだ」


 いつも通りだろと、リヒトに諭されてギュンターはため息をついて、了解(jawohl)と返事をする。


「さて、話が纏まった事だし、そろそろ出発しよう。でないと、あのイギリスの大佐(oberst)殿に遅いと怒鳴られるからな」


 冗談を交えて、リヒトは立ち上がる。

 ギュンターも笑いながら背のうを背負い直して立つが、マリアだけがは俯き、何か思い詰めた様子で座っていた。


「ミス・マリア?」

「…」

「もしかして、まだ何かあるのかな?」


 リヒトの問にマリアは、重々しく頷く。


「……実は、リリス先生の事なんですが…」

「シスター・リリスのこと?」


 マリアは、おずおずと教会で見た最初の風景画に描かれたリリスと寸分違わない程似た女性の事を話す。


「最初は他人の空似だと、思ったんです。でも、あまりにもリリス先生に似ていて…本人が描かれているとしか思えないほどに似ているんです」

「…まさか、魔女とかじゃないのか?」


 ギュンターが、そう口にするとリヒトはシスターに対して失礼だぞと直ぐに注意する。


少尉(Leutnant)。もう、Adamや神様に会ったんですよ。今の俺は例え、ドラゴンが居ると言われても信じますよ」


 ギュンターは、そう言い放ち、少尉はどう推察しますかと聞く。

 リヒトは暫く考えて自身の答えを口にする。


「シスター・リリスの先祖などの血縁関係者だろう。シスターは前に、この島に来たことがあると話していたから、代々の墓か何かがある。ふむ、これなら前に島に来た理由にもなるし、風景画の女性にも繋がる。どうかな、ミス・マリア?」


 リヒトの現実的な答えにマリアは確かに、そうかも知れないと思った通り

 常識的に人の寿命は100年前後であるし、風景画の女性は少なくとも100年以上前の人物なのだ。

 それを思うと本気で絵の女性がリリス本人だと疑っていた自分が恥ずかしくなって来た。


「そうですよね!すみません!色々あって、もしかしたらって思っちゃって!」

「ハハハ、仕方ないさ。私達も同じだからな!そうだろ、ギュンター?ドラゴンだったか?」

「ちょっと、待ってくださいよ!今の発言は無しでお願いします!」


 マリアは、立ち上がり3人は笑いながら、飛行船への道のりを歩み出す。

 不意にリヒトがマリアの耳元に口を寄せる。


「そんなに気になるなら、シスターに直接聞いてみることをおすすめするよ」


 小声で言われてマリアの鼓動が早くなった。

 リリスの御先祖だと、答えを見つけたと結論付けた筈の心の片隅でまだ、本人ではないのかと言う疑問が棘のように、まだ刺さったままだったのをリヒトに見抜かれていたのだ。

 マリアは、小さく頷く。

 3人は飛行船へ向かって行く。

 だが、頭上の空がときより、波の様に不自然に揺らめきが拡がっている事に誰も気付かなかった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。もし、良かったら感想やレビュー、評価をお願いします。

次くらいにやっと全員集合出来そうです!(出来ずにもう1話挟むかも知れませんが汗)いよいよ、アンティキティラ島編のラストが近付いて来たかなって感じです!頑張って書いていくので、よろしくお願いします!

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