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修復への鍵

 ー第三試験体 ー


 肢体の破損を確認。

 試みに修復機構を観察する。

 抑制符号《Restra(減算)》を除去し、蝋でのコーティングを実施せず、素体を露出させた。


 反応、即座。


 破断部の灰が蠢き、元の形状を取り戻す。

 まるで“形を憶えている”かのようだ。

 材質の補填源を確かめるも、質量保存が成立していない。

 肥大――質量は一〇二%増。 修復とは、喪失を補う行為ではない。

 むしろ、完全性を渇望する衝動だ。


「生かされたい」のではなく、「在り続けたい」とでも言うべきか。 私は恐れを覚えた。


  それは生命の模倣ではない。

 神の言葉の誤記であり、形なきものが真理を求めて肥大する――その果てに、器は自らを壊すだろう。

 又は、自壊せずに世界を覆う泥へとなるか。


  ゆえに私は記す。


 この記録は封じるべきである。

 もし人がこの自己修復の理を再現すれば、 “死を忘れた泥”が再び立ち上がる。

 創造主の息は一度きりで充分だ。


  我々は、それをもう一度吹き込む術を知るべきではない。


 リリスが奥の部屋で見つけたという日誌の記述を読み切る。

 蝋燭の明かりが揺れる中、翻訳を終えたリリスは本を閉じてパーサーを見た。


「どう?参考になりそう?」


 リリスは日誌を閉じてパーサーに問うが、彼の背筋を冷たいモノが滑り落ちた。


「もし、その日誌の内容が正しければ…再現は可能だと思います」


 パーサーは答えながら、クラーディが横たわる浴槽へと視線を向けた。


「でも、その日誌にある抑制符号《Restra》なんて聞いたことないカバラ文字が出てきています。学校でも習った事が無いし、最新のカバラ文字の論文でも見たことがありません。そもそも現代でも新しいカバラを解読出来るのは稀で中には誤訳や、そもそも詐欺目的で適当な文字を当てはめたものだってあるんです」

「それがどうしたの?」

「信憑性に欠けます。ワザと肥大化させるなんて!一歩間違えばクラーディが暴走して自壊してしまいます!」


 パーサーはリリスに振り返り、日誌の内容の疑問をぶつける。


「パーサー、眼が泳いでるわよ。不安は、それだけじゃないでしょ?」


 しかし、リリスはパーサーをジッと見詰めて彼の中の不安が別の所にある事に気付いた。


「…」

「言ってみなさい」

「…怖いんです。僕はgolemが好きなんです。…なのに初めてgolemが怖くなってる。今までgolemを理解して、技術を発展させた先には世界の為になる完璧なgolemが作れる筈だと、いえ、僕が作るんだと思ってました。でも今は理解の範囲を超えて、golem自体が世界を滅ぼす兵器になりうるんだと思ったら」

「形なきものが真理を求めて肥大する、自壊せずに世界を覆う泥へとなるか、“死を忘れた泥”が再び立ち上がる」


 リリスが日誌の中での警告を口にするとパーサーは静かに頷く。


「自己修復するgolemなんて、便利ですよね?この事が広まればきっと僕らラビは色んな事に活用しようとします。でも、そんな中で手もつけられない様な暴走を起こすgolemが誕生したら?自己修復をして肥大化し続ける個体が現れたら、停止命令も効かない。焼却も分解も、灰が形を覚えて元に戻るなら、暴走の果てに自壊せずに肥大化し続けると何が起こるのか?Adamみたいな意思を持ったgolemが、それを試したら?」


 顔色を青くしたパーサーは、縋るようにリリスに質問する。


「まぁ、碌なことにはならないわね。…でもね、パーサー。貴方がそこまで心配することは無いわ」

「え?」

「勿論、これを再現するに辺り、貴方が責任を持つのは当然よ。それでなきゃ、最初っから貴方に内容を翻訳して読み聞かせてないわ」


 リリスは、腰に手を当てて胸を張る。


「要は、この事はこの場限りにすれば良いわ」

「はあ?」


 リリスの一言にパーサーは思わず、変な声を出してしまった。


「何も馬鹿正直に、広める事は無いってことよ。クラーディを直す為に使ったら、後は、この日誌を燃やすなり、埋めるなりすれば良いわ」

「えっ!ちょっ、ちょっと待って下さい!これは僕が単に臆病風に吹かれたというか!この内容は確かに危険ですが、きっとラビ協会の指導部の人達なら」


 慌ててパーサーは反論する。

 先程まで感じていた恐怖や危機感よりも、やはり一人のラビとして、日誌の記述された内容を闇に葬るのは惜しいという感情があった為だ。

 きっと、自分が考えているよりも協会の上の人なら上手く管理してくれる筈だという思いもあった。


「無駄よ、無駄無駄。ああいう手合はリスクよりも利益にひた走る人種よ。私は何度も見てきたわ」


 しかし、リリスはパーサーの言葉を遮って嫌そうに手をヒラヒラさせる。


「実際、私は教会(ウチ)でも公表したら文明が三段階くらい発展しそうな技術があっても、同じ理由で決して公表しないもの」

「いや、でも、その内に誰かが同じ発見や技術を作るかも知れないですよね?」

「そんなものは、それをした人の責任よ。私や貴方の知った事では無いわ。まぁ、その時に人の精神性が成熟していたら良いけどね」


 あっけらかんとした物言いにパーサーは、ぽかんとした表情になる。


「という訳で、再現出来るのよね?それじゃ、早速取り掛かりましょう。ああ、それと貴方達も口外禁止で無かった事にしなさい」


 リリスは思い出した様にハンス達に声を掛ける。

 ハンスは、今の会話なんて1ミリも理解出来ませんでしたよと両手を上げて降参のポーズをとる。

 その様子にクスッと笑うとリリスは、パーサーに向き直る。


「それで?どうするの、パーサー?」

「えっと、それは…」

「貴方の目的は、この日誌の内容を公表する訳ではないでしょ?」

「それは、勿論です!僕の目的は友達を、クラーディを直す事です!」


 パーサーは、力強く言葉にする。


「よろしい。

 なら、まずは何をするの、ラビ・パーサー?」


 リリスに背中を押されて、パーサーはクラーディを修復するため、日誌の記述を再現する事を決めた。


「まずは、リリス先生は蝋を溶かして、クラーディの無事な部分に塗装して下さい」

「任されました」

「ハンスさんと、えっと」

「…ヘルマンだ」

「ハンスさんとヘルマンさんは、浴槽の抑制剤を抜いてクラーディを寝台に運んで下さい!そして、乾いた布で水分を全て拭いて下さい」

「任せておけ」

「…了解(jawohl)


 パーサーは、迷いなく全員に指示を出していく。

 そして、ハンスとヘルマンに浴槽から抱えられたクラーディを一瞥して、小さく語りかける。


 クラーディ…今、助けてやるからな


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。いよいよクラーディが復活します。読みにくかったり、矛盾するところがあれば、教えて頂けると有り難いです!

もし、気に入ってもらえれば感想や評価、レビューあと、リアクションとかも貰えれば、励みになります!

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