新たなる協力者
飛行船の低いエンジン音が響く小さなラウンジで、リリスはハミルトンやパーサー、マリアの話を静かに聞き終えると、小さくため息をついた。
「つくづく、厄介なことになったわね」
「まったくだ」
ハミルトンは苦い顔で頷いた。
「当初の私やウィルソン、ベルメールが立てた計画の根幹はクラウスを通じて全て漏れていたと見るべきだろう」
「ええ、貴方から計画の詳細を聞いた限りでは行き先も目的も全て彼は知ってしまった。いえ、最初っから筒抜けだった。でも裏を返せば、あの男が前面に出て来たと言う事は、これからはこちらの手で主導権を握れる可能性もあるわ」
冷静に分析を続ける二人の会話を、ラウンジの片隅でパーサーは落ち着きなく聞いていた。
視線は何度もラウンジの扉へと向かう。
その奥の個室では、機能停止したクラーディが静かに横たえられている。
マリアがそんなパーサーの手をそっと握った。
「大丈夫。必ず直せる時が来ます」
だがパーサーは小さく首を振る。
「ありがとう。でも、修理キットが無い今は何も出来ないんだ。それなら、次にどう動くべきかを考える方が有意義だよ」
と頑なに言い切った。
そして、気を取り直すように問いを向ける。
「シスター・リリス。今さらですが、どうやってジファール氏から飛行船を借りたんですか? それに、なぜドイツ軍が僕らを助けることになったんです?」
「そうだな、それは私からもお聞きしたい」
ハミルトンも鋭い視線を向ける。
「我が国の仮想敵国が、なぜ手を差し伸べた?」
リリスは口元に小さな笑みを浮かべた。
「まずは飛行船は簡単だったわよ。彼、ジファール氏を持ち上げて欲しい技術を少し約束すれば、あの人は喜んで貸してくれたわ。そしてドイツ軍については――」
言葉を切った瞬間、ラウンジの扉が開いた。
入ってきたのは長身の青年将校。
陽光を思わせる金髪に、鋭い青い瞳。
彼は堂々と踵を鳴らし、敬礼した。
「それは、私から説明いたしましょう」
「ノックをせずに入室とは無作法ではないか、少尉?」
眉間に皺を寄せてハミルトンが睨む。
青年は涼しい笑顔を崩さず答えた。
「ノックは何度もしましたよ、oberst殿」
そして改めて姿勢を正す。
「自己紹介がまだでしたね。私はマンフレート・フォン・リヒトホーフェン。ドイツ帝国陸軍少尉であります。以後、お見知りおきを」
パーサーとマリアが息を呑む中、リヒトホーフェンは穏やかに語り始めた。
「帝国がこの作戦に協力した理由は単純です。リリス殿の持つ機械技術と特許、それらを供与していただける約束があった。そしてもう一つ――」
彼はちらりとリリスに視線を送った。
「人類全てを脅かす存在に対抗するためなら、国境や同盟など些細な問題です。私はそう考えます」
ハミルトンは険しい目を向けたまま低く唸る。
「……理想主義だな、少尉」
リヒトホーフェンは微笑を崩さず答えた。
「ええ、ですが理想のために銃を取ることを、私は恥とは思いません」
リリスはそんな二人を見比べ、軽く肩を竦めて笑った。
「ほらね。だから私は“お友達”と呼んだのよ」
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