魔王の秘密⑥ No.28〜32
携帯がおさらばしたので新しいのを購入。やっといつもの生活に戻れました。(ノ ̄▽ ̄)
ネタメモは全部消えたのでバックアップは大切だとこの歳になってやっと気付かされました。
ルークの真剣な表情は変わらない。
「魔王として、この国を治める事が出来るなら、なんだってします」
カルスは何故、そんなにルークが魔王になりたがるのか分からなかったがそんな事は今となってはどうでもよい。カルスには勝負が出来るという事が重要だった。
カルスは面白い事が好きなのだ。
——とりあえず、なぶり殺しにして……後は、食ってみるか? 抵抗してる奴を生きたまま食べるってのも乙なもんかもな。
物騒な事を考えており、人間を食うのは久しぶりだと思い返していた。魔物の食事は人間の食事と対して変わらない。野菜や肉を使い調理して食べている以外に味にうるさい者もいるのだ。
魔物にとって人間を食べる事は人間が動物を食べるのと同じ事だ。
唯、魔物が人間を食べるのは、別に格段に味が美味しいとかいうわけではない。ただ、食べ物というカテゴリの中に人間という種が含まれてるに過ぎない。
その為、不意にルークがカルスに言った言葉は思わぬものだった。
「なにを考えてるか知りませんが、先に警告しておきます。もし、私が負けたとしても、私を食べないほうが身の為ですよ」
ルークは初めてにっこり笑った。
「私、これでも魔物ですから」
と宣わった。
「また、何か考えてますか?」
ルークの言葉にカルスは此処が魔王城であり、500年前の事を考えていたのを思い出し笑みを浮かべる。
——俺のような強い魔物にとって500年はすぐ過ぎるし面白くもない事が多いが、あの時から変わったな。
「いや、500年前、魔王の座をかけて戦うと話していた時の事なんだが、俺の(勝負の)誘いに乗ってくるなんて面白い奴だと思い出してよ」
くつくつと笑い、思い出していた事を話したのだが、其れに過剰に反応する者がいた。
「さ、さ、さ、誘い!?」
再び、ぶふぁっと鼻血を噴射させ、床に倒れこむリン。もはや、出血死するのではないかと疑うほどの血の量である。
リンは無視して、ルークもその時の事を思い出した。
「むしろ好都合でしたから、受けて立ちましたよね。あの時は」
懐かしむように話すルークだが、そんなルークとは裏腹にリンは興奮が最大値に来ていた。
「う、受けて、た、た、たたつううぅ!?」
ハァハァと戦闘でも無いのに呼吸を乱しながら叫ぶ。もはや、リンの頭の中は、教育上よろしくない妄想で占められていた。
「……」
「……」
そんなリンの事を2匹は完全に無視した。というか無視しないと話が出来ない。
「受けてたつっても、お前、小柄だし、筋肉はねぇみたいだったから、なぶった後食おうと思ってたが……」
——SMプレイ……だと!!!
リンの脳内には縛られたルークに覆い被さるカルスが思い浮かんでいる。腐女子は言葉を脳内で何にでも変換できるのだった。
「まさか以外だった。魔物だったなんてな」
——どこが!? どこの部位が魔物だったと!?
リンは再び鼻血を炸裂させた。
「確かに外見は人間ですからね。でも、魔物なので、残念ながらお腹を壊すどころじゃすまないですよ。同族を食べるというのは」
ルークの言葉に、確かにとカルスは同意する。
「でもお前、ほとんど人間と変わらないんだから、食べても大丈夫なんじゃないの?一口食わせてみろよ」
舌舐めずりをするカルスにルークは苦笑いで答える。
「冗談やめてくださいよ」
ルークの返答につまんねーのとカルスがソファに座り酒を煽ろうとした時彼女が動いた。鼻血を噴出させていた、リンがスクッと立ち上がったのだ。
「……てください」
「??」
「??」
カルスとルークが不思議そうにボソボソとつぶやくリンをみる。
「どうしたの? リンちゃ……」
さすがに鼻血の出し過ぎで錯乱でもしているのかなとカルスが心配し、声を掛けようとリンに近づいた時、ガシッとカルスは肩を両手で掴まれた。
思わず、先代の魔王でありながらもリンの……その血走った目と気迫にびくっと身体を震わせる。
「……てください」
「え?」
「今すぐここで、カルス様は魔王様を(襲って)食べてくださあああアァァァァアイ!」
「「なんでだぁ!」」
カルスとルークの声がハモる。
「むしろ魔王様をむしゃぶり尽くして骨の髄までカルス様のピーでピーしてピーして、ピーしたあと、ピーするのです! さぁ! さぁ! さぁ! さぁ! さぁ!! イってください!! イっちゃってくださいいいぃ!!!!」
「いい加減にしてくれ!!」
魔王の悲痛な叫びが魔王城に響きわたった。魔王ルークとただの魔物となったカルス。魔王を退いたカルスがなぜ生きているのか、そして魔力を持たないルークが何故カルスと戦って生きているのか。
「うぅ、あの時の方がまだ楽でしたよ」
ルークは500年前のカルスとの出会いを思い返した。
500年前、カルスとルークが初めて会い、尚且つルークが魔王になると宣言した時ルークは
「望むところです」キリッ!
とはっきり言っていたものの内心ではかなり焦っていた。
——や、やばいっ! 思い切って戦いを挑んだのは良いけど、全然力ないし弱いんだけど……。
頭を抱え後悔していた。ルーク自身、魔王になりたかった訳ではない。別に魔王として君臨したいわけでもなければ、城が欲しいわけでも無い。ましてや国など欲しくもなかった。
只、ルークはこの国を変えたかっただけなのだ。
そのために遥々、魔国の端っこの田舎から魔王のいる都市に来たのだ。魔王に話をし、政治を変えて欲しいと言う旨を伝えたかった。
ただ、その為だけに魔王城のある都市まで赴いた。
だが、都心での魔王の噂は良くないものばかりで、しかも謁見は順番待ち。魔王にすぐ謁見出来る身分ではないルークはひたすら待つしかなかった。
ルークは日増しに苛立っていた。
そして、謁見を待つルークにさらなる苛立ちを加速させるような話が魔物の間で噂として流れていた。純粋に国を治したい、村の皆を助けたいと思っているルークにとって、其れは魔王を交代しなければならないと思わせるほどの話ばかり。
魔王に対する苛立ちや、己の無力さ。その抑えきれ無い気持ちを持て余したルークは都市内でも治安が悪いのに危険だと分かっていたのにもかかわらず、外を歩いていた。
——魔王になれたら、もし魔王になれたら……この国を立て直す事ができるだろうか。もしかしたら、自分の力がコントロールできればもしかしたら……
ルークはそう思いながら、通りを歩いていた。その時に、ドンと何かにぶつかった。
その結果、自称魔王と対決する事となったのだ。
——なぜ!!?
もともとは自分に責任がある事は承知していた。都心の状況を見てルークは苛立ち、怒りをたぎらせていた。頭に血が上りふと頭に浮かんだ考えを、魔王だと宣わる変な奴に考えなしに言ってしまっただけだった。
——なにが、私の名前はルーク。あなたの魔王の座を譲って欲しく参上致しました。キリリッ!! だあ! 実力もないのに!
と激しく後悔、動揺するも後の祭りである。
国の状況を見てどうにかしなければと、気持ちが高ぶり魔王を倒さなければならない気持ちになっていたルーク。そんな彼の頭を冷やす暇無く、魔王と宣うアホっぽい男が現れた事はタイミングが悪かったと言わざる終えない。
恐らく、ルークがカルスがこのような会い方をしなければ、ルークは魔王となっていなかっただろう。謁見をしその後、この国の惨状を嘆き故郷に帰ったかもしれない。
だが、この時カルスが偶然にも出歩いていた事、ルークが思考を鈍らせるほどこの国はひどい状況にあった事が、魔国の運命を大きく変えた。
事実、この国の現状は酷かった。
10年前は、恐怖政治で規則を犯した者への処罰は厳しかったが、魔王は商業に手出しせずほとんど自由であったため、市場は活気にみちあふれていた。
が今は見る影もない。盗みが頻発し、魔王城がある街の一部でさえスラム街のようになっていた。また、食べるものがなく通りの隅で死ぬ魔物や、弱い魔物への暴行。
治安悪化で、魔物達はみんな疲れ死んだような目をしていた。
真面目なルークだからこそ、国を変えなければ、という思いが芽生えるのも仕方がない事であった。其れが魔王を倒す事になったとしても。そして、実力は無かったとしてもだ。
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