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最弱魔王のポーカーフェイス  作者: ねこのきもち
1章 魔王から魔王へ
6/26

魔王の秘密⑤ No.23〜27

なんと携帯がぶっ壊れました:(;゛゜'ω゜'):

流行りのりんごループらしいです。


今回はアイパッドで編集しています

 カルスとの距離は5メートルもない。何がおかしいと問うた少年からは殺気が感じとれた。少年が怒っている事がカルスには手に取るように分かった。


——面白れーな。こいつ、からかい甲斐がある。


 カルスが魔王になってからかう事が出来る奴などほとんど居なかった。魔王城の魔物は魔王の僕。魔王の冗談なども本気に取られかねないため、カルスが冗談で食べ過ぎて死ぬ! とでも言えば本気で治療にかかる。死ねよと冗談でも言おうものなら本気で死にかねない者も多い。カルスにとっては過ごしにくい場所であった。


 だが、目の前にいる奴は魔王城の奴らとは違う。カルスは舌舐めずりをした。久々に自由を感じた気分だ。


「お前、俺が魔王だと言った時、表情には出さなかったが、右手の筋肉が少し動いただろ? あと、心臓の鼓動が若干早くなった。イライラしてる時でさえ、そんな事無かったのにな」


 カルスと少年が居るのは魔物が少ないといってもまだ、幾らかの魔物が居る場所である。

 そこで、カルスはマントの下に隠していた腰の剣に手をかける。


「お前の用事ってのは魔王絡みか?」


 一気に緊迫してしまった空気の中、少年が下向きだった顔を上げカルスを見た。


「あなたは、何者ですか?」


「だから、魔王って言ってるだろ」


 そして、カルスが剣を抜こうとした時だった。


「待って下さい」


 少年はカルスを制した。今にも剣を抜こうとしていたカルスだったが、その言葉に動きを止めた。


「なんだ? 戦わないのか?」


 そして、残念そうに剣の柄から手を離す。


「あなたが本当に魔王だとして、何故こんなところにいるのですか? そんなチンケな服で」


 チンケ……。


 カルスは一瞬眉間にしわを寄せる。


「ちょっと政治の件でもめてな。城外に出たんだよ。気分転換ってヤツだ」


 とヘラヘラと笑う。そして家臣とのやりとりを思い出し、うんざりして、城を抜けてきた事を思い出す。

 そんなカルスに少年は立て続けに質問をする。


「あなたの今のその身体は?」


「魔王の姿のまま城外1匹で歩くバカはいないだろ。そっちの方が楽しそうだがな。魔王として外に出る時以外の普段の生活はこっちの姿なんだよ」


 カルスはフードを少し上に上げほぼ人間の顔を晒し、ニヤリと笑った。


——確かに絵で見た魔王に似ている。だけど行動が幼稚すぎる。まるで大きな子供だ。彼が魔王だとしたら、家臣達も大変だろうに。


 少年の心中は見事に的を射ていた。そして、少年は彼を見て自分の気持ちが再燃するのを感じた。


——彼が魔王だとしたらダメだ。この国は……。


 少年は口を一回きつく結んだが、堪えるものを吐く出すように口を開けた。


「では魔王様、あなたにお願いしたい事があります」


 少年はやっとフードを脱ぎ顔を面に晒す。その顔は端正で誰しもが認める美少年であった。サラサラとした銀白髪、まるで消えてしまいそうな儚さをあわせもつ憂いたような表情をグリーンの瞳とともに浮かべる彼は妖精のようであった。


「私の名前は、ルークです」


 名乗った少年はカルスを射抜くような眼差しを浮かべ、驚くような一言を放った。


「あなたの魔王の座を私に譲って下さい。私が魔王となります」




 そのカルスとルークの出会いから500年。500年後の魔王城には魔王のルークと魔王を継いだ後は死んでしまう筈のカルスが生きて存在している。

 そして、彼らは鼻血を垂れ流し、ブツブツと呟くリンを引きつった表情で見ていた。


 その時ふと、カルスが横にいるルークを見た時、500年前のルークがカルスに言った言葉を唐突に思い出した。


——魔王になる……か。


 ルークの姿は決して強そうとは言えない。500年前と変わらず細身で、白く、なよなよとしている。以前、カルスに喧嘩を売った姿と変わらないが、カルスから見れば、当時の勇ましかったルークは心持ち程度、強そうな気がしていたのだった。


——あの時は、なんの冗談かと思ったが、今はまぁ、うまくやってるのか。そう思うとやっぱり面白いやつだよな。


 そう思っていて口角を自然と上げてしまっていたカルスにルークが気付き眉をひそめた。


「なんで笑ってるんですか?」


——おっと顔に出てたか。


 カルスは慌てて平静を装った。


「いや、いやすまん。前のことを思い出しててな。ほらお前が500年前に宣戦布告してきたやつ。魔王の座を譲れってな」


「あぁ、あの時の……」


 苦虫を噛み潰したような顔をするルークにカルスは更にからかってやろうと言葉を続ける。


「そういえば、あの時は、びっくりした。男に告白されたぐらいびっくりしたぜ」


 カルスはルークをからかったのだが、引っかかったのは別の魔物だった。


「ぶふぁ!!!」


 という声を上げ、床に膝をつくリン。ルークとカルスは驚き一歩リンから離れた。


「ま、ま、魔王様への告白! なんと恐れ知らずな! そしてなんて業の深い愛! ぶふぶふふ」


 鼻血を垂れ流し、再びブツブツ唱え出したリンは、気付いていない。ルークとカルスがリンを視界に入らないようにしている事を。

 ちなみにリンが唱えているのは呪文ではなく、妄言だ。


「なんでリンが仲間なんでしょうか……」


 妄言を聞きげんなりとするルークにカルスは再び以前の記憶に思いを馳せる。


「仲間……ね」


 カルスはルークと出会った時の事、其れから起きた事を思い出していた。





 ルークの言葉にカルスは目が点になる。


「はぁ?」


 カルスはあまりの事に呆然とした。


 屈強な魔物に


「魔王の座をよこせ!」


 と言われ、魔物を粉々に粉砕した時や、あらゆる魔法を操る魔物に


「魔王の座をよこしなさい!」


 と言われ、その魔物をミジンコに変えた時や、武術に長けた魔物に


「魔王の座を奪ってみせる!」


 と宣言され、魔物をボコボコにし串刺しにした時より、断然驚きである。弱そうな、しかも魔力さえ少ない人間のような者に魔王の座をよこせと言われたのは……。


「はははははははははははっ!」


 カルスは大声で笑った。


 通りを行き来する魔物は少なかったが、その数少ない魔物達が訝し気にカルスの方を向き、関わりたくないのかさっさと去って行く。

 そして、最後には通りにいるのはカルスとルークだけになった。


 ルークも驚いたのか目を見開いて魔王、カルスを見た。


「こりゃ、おもしれー! 100年以来だよ! こんなに面白い事を言われたのは!」


 カルスはニッと笑い、フードをとった。カルスは、寝癖がついた様なボサボサの茶髪に、薄髭で中年ぐらいの年の姿をしていた。口角があがり、犬歯が覗くその笑い顔は人間の顔のようであるものの、悪魔のように禍々しい。


 そんなカルスを見て、ルークは口をきゅっと結び、警戒を強める。カルスはニヤリと笑い口を開いた。


「俺も名乗ろう。最悪にして、最強の魔物である、カルス。今この国を治める……魔王だ!」


 これが先代魔王カルスと今の魔王ルークが初めて互いの名前を知った瞬間だった。


 ルークが警戒を強める中、カルスは肩をすくめ余裕の表情で話を始めた。


「俺も魔王になって無謀な挑戦を挑んできた奴もいたし、無理な事を言う奴もいた。だが、ここまで無茶な事を言う奴ははじめてだ。まぁ、最近はそんな度胸のある奴なんて居なかったが……」


 そして、睨み警戒するルークに対して完全に隙だらけの立ち姿で話を続ける。


「お前が望む魔王の座につきたきゃ、魔王を倒す必要がある。譲れって言われてホイホイと魔王を譲るわけにはいかないんでな。どうだ? 勝負するか?」


 カルスは再び犬歯をむき出しにした笑いでルークを見る。実際はホイホイと魔王の座を明け渡してしまいたいのが本音だが、ルークへの好奇心が本音を上回った。


 絶対にルークに倒されないとカルスは自負している。それは、決して自惚れではない。力を過信してはいないが、事実としてカルスの力はこの国のトップなのだ。魔力もほぼないルークに倒される事はまずないだろう。


 ルークの武器はカルスが鑑定魔法でこそっと調べた限り、魔力のないものでも使える魔具という武器だけだった。そんなものでは魔王が倒せるはずがない。海が干上がる事ぐらいあり得ない事である。

 そして、それをルークは分かっているはずだ。普通だったら答えはNOだ。


 だが、カルスには分かっていた。どう言ってもこいつは望み通りの答えを返してくれるということを。


「勝負、受けましょう」


 ルークは緊張感した面持ちで答えた。


「望むところですよ」


 とも付け足して。カルスの表情が今までにないほど楽しげなものへと変わった。ルークの答えはカルスの望み通りだったからだ。


「俺は、人間にも手加減はしねぇ。全力で潰すぜ? そこまで言うんだから手はあるんだろうが、魔王の力には並の魔術、魔具では太刀打ちできないって事を警告してやる。それでもやるのか? 人間?」


 ウキウキしながら、再び問う。カルスの決断を揺るがす様な問いにさえ、ルークは決意をかえる事無く答える。


「魔王の座を得る為ならば」

 

 

 

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