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サムライ×ナイト  作者: 龍田蔦々
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豊葦原×仏蘭西

説☆明☆回

名前は斎藤ハジメ。鬼の国豊葦原は将軍様のお膝元、江戸の出身。

プラプラと歩き回ってケンカしてたらいつの間にか会津松平公お預かりの新撰組三番隊長よ。

ま、こんなくそったれな世の中で鉄の棒振り回してる狂犬なんざ、俺たちぐらいのもんだがな。

「おや、イチさんお仕事ですか?」

「チッ、うるせぇ。あと、次『イチさん』って言ったら斬るぞ沖田。」

壬生の屯所を出ると沖田がつっかかってきた。容姿が女みたいな絶世の美男……らしい。

「まあまあ、いいじゃないですか。イ・チ・さ・ん☆」

――っ抜き打ち。

「うおっと。」

ひょいっと避けやがった。

「おや、やる気ですか?」

「おう、そうみたいだな。」

「ふふっ、怖いモノ知らず。」

さてさて、こりゃもう何の文句を言えねぇよなぁ。

「「死ねッ!」」

俺が上を、沖田が下を斬る。

斬られたのは――

「不意討ちなら殺れると思ったか?」

「何でまた僕らを狙いますかね。」

尊王攘夷派の刺客。もとい、三等分された肉塊。

「初撃の速さ、示現流。薩摩だな。」

「若いねーもうちょっと命を大切にしとけば剣士として大成したかも。まぁ、この時代じゃあ無理かな。」

さて、検分するか。

ふむ、差料は妖刀。薩摩刀だな。能力は分からんが、使いこなしていたわけではないらしい。俺もまだ若いが、こいつもまだまだ若侍だ。刀が痩せてねぇ。

血気盛んなヤツが早まったか……いや、俺を狙ったところを見るとそれだけじゃねぇ。

計画がばれてやがる。

「仕事があるんだろう?ここは僕に任せて、君は行きな。」

「おう、任せた。」

……はぁぁぁぁぁ。

今から江戸に着くまでにどのぐらい切ったはったをすりゃいいのか。

「前途多難だなこりゃあ。」



十五日後、江戸日本橋付近。

さてと、ここの旅籠だったかな。

「ああ、お侍様。本日はもう満室でございまして……」

主人は断ろうとする。それを手で遮って

「斎藤と申す者だが、ここに(ほとけ)はおるか?」

「あっ!ああ、お侍様でございましたか。ささ、こちらへ。」

二階の座敷に案内される。さて、護衛対象はどんなヤツだろうか。

なにせ南蛮人と会うのは初めてだ。言葉通じるのか?

「こちらです。」

障子の向こうに複数の気配。廊下に跪く。

「拙者、新撰組は斎藤ハジメ。公務にて参上つかまつった。」

「入れ。」

低い声で返事が聞こえた。

障子を開け、座敷に入る。そこには二人の南蛮人と幕府の役人が居た。

「こちらが遠く仏蘭西からいらっしゃったブルボン伯だ。」

南蛮人の女の方がそう言った。

なかなかの美人であるが、声が冷徹というか刺々しいというか。何にせよ、嫌いな女だ。

で、その隣の太った男。こいつがブルボン伯か。

この見下したような視線。女以上に嫌いだ。ぶった切りたくなる。

「会津松平公お預かり、新撰組三番隊長斎藤ハジメ。御身を護衛させていただきます。」

努めて押し殺し、跪いてそう言った。

「(ふむ、このような痩せた男で余の護衛が務まるのか?)」

こいつ、くびり殺してやろうか。

俺は自分を下に見るヤツの心が読める。これは利き手と同じ、生まれつきだ。

だからこそこんなひねくれた性格になるのだろうが。

「ええ、この男がきっと貴公のお役に立ちましょう。」

この役人も役人だな。さも当たり前であるかのように仏蘭西の言葉をしゃべっている。

それに、心は読めんが、眼を見りゃわかる。貴族を完全に馬鹿にしてるな、心の中で。

「私が仏蘭西より来た護衛の騎士。『ドンレミ』のジャンヌ・ダルクだ。以後宜しく。」

女が挨拶をする。こっちも当たり前に言葉を話している。

騎士とはおそらくあっちの武士のような者だと思われるが……女も居るんだな。

まあ、こっちにも似たようなおてんばは居たりするが。

「さて、顔合わせも終わりましたので、明日から出発、ということでよろしいですかな?」

「うむ。」

「では、明日の朝また伺います。それまではこの護衛と、それに複数人の見張りを旅籠の前に立たせますので。」

そこまで言って役人は座敷を出た。

後に残ったのは南蛮人二人と俺だけ。

「余は眠る。下がっておけ。」

「はい。おいサイトウ、伯爵は下がれとおっしゃっている。」

「はいはい。それでは拙者はこれで。」

そう言って俺も女も屋敷を出た。

しばし無言。

そして、女が口を開いた。

「……お前、腕は立つようだな。」

「ふん、それはまだ分からんぞ。実際見てみらんとな。」

「襲撃がある、と?」

「今日はどうか分からんが、狙ってるヤツはいるし、どっかから情報が漏れてるのは確かだ。現に俺はこっちに来るまでに七人ほど斬ってきた。」

「なっ!」

あちらさんは驚いていらっしゃるようだ。

そもそもこっちの事情を知っているのかね?

「おいあんた。」

「な、なんだサイトウ。」

「あんた、こっち国の実情分かってるのか?」

「い、いや。よく分かっていない。」

やっぱりな。どーせそんなことだろうと思った。

「しゃーねー。教えてやるよ。」



まず基礎知識だ。

ここがどこか。いや、別に馬鹿にしてんじゃねぇよ。おさらいだ、おさらい。

そう、ここは鬼の国『豊葦原』。ここの住人はみんな鬼族だ。

まあ、そこまでは知ってるさね。

で、だ。豊葦原は島国なんだが、だからこそちぃと排他的らしい。

その代表格が俺さね。

ま、それはいいとして。その排他的な鬼族はこれまでずっと閉じこもって暮らしてきたんだが、最近そうも行かなくなってきた。

そう、亜米利加やら何やらが迫ってきた『開国』よ。

まあ、幕府だって最初は渋っちゃいたんだが……大砲ドカンとされたらねぇ。

てな訳で開国したんだが、反対派もいる訳よ。開国に、じゃねぇ。幕府のやり方に、だ。

俺か?俺はどうでも良いね。鉄の棒ぶんぶん振り回したいだけさ。

って訳で、今は幕府対反幕府の天皇陛下争奪戦。先に手を結んだ方が勝ち、ってね。

そいつらにとっちゃ、幕府も、取り締まる新撰組(おれたち)も、憎らしい。

ちょうどその時外国から要人が来てるんだ。面目潰したきゃ、そいつを斬ればいい。

そんで、今襲撃を受けてる訳よ。

分かったか?

ん?俺は幕府に忠誠を誓った騎士、だって?

馬鹿言うんじゃねぇよ。

俺は別に幕府のためでも要人のためでも天皇のためでもあんたのためでも親のためでも女のためでも無く、ただ俺のために生きてんだ。

……他人に生き甲斐を押しつけるなんてのは、クズ共のすることだからね。



一通り説明してやったところで、女は黙った。

俺も旅の疲れが出ていた。眠い。

どうせ見張りが居るんだ。何かあったら起きるさ。

うつらうつらしながら、自分に用意された部屋に行き、寝た。

明日からまた旅が始まる。

クソったれめ。

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