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名探偵はあてにならない。  作者: 龍
CASE:1 或る村での出来事
4/34

第4話  中途半端な復讐【解答編】

解答編です。

「犯人が分かった、だって!?」


 食堂に戻った出町が「犯人が分かりました」と宣言すると、たかしさんが素っ頓狂な声をあげた。


「本当なのかい、出町くん」


 渡さんも目を丸くしている。


「ええ。紀夫さんと山原氏を殺害した犯人は、この中にいます!」


 どよめき。お互いの顔を見合わせる一同。


「で、でも、山原先生が池に落ちたとき、私達は皆、部屋の外にいたのよ? どうやって先生が殺せたっていうの?」


 水穂さんが不思議そうに尋ねる。そう、それは俺もまだ疑問に思ってるぞ。出町、犯人はいったいどうやったっていうんだ?


「それもやっと分かりましたよ。犯人は自ら手を下すことなく、山原氏を池に転落させたんです。ある方法を使ってね」



***



 気づけば既に日付は変わっていた。雪も風もかなり穏やかになり、少し速く流れる雲の隙間に冬の星空が見えていた。


「それではまず、犯人の行動を整理してみたいと思います」


 もはや一同は口を挟むこともなく、ただ名探偵の推理に耳を傾けていた。


「まず犯人は昼食のあと、部屋に戻った紀夫さんをナイフで刺殺。その後、山原氏の部屋に行き、彼に睡眠薬入りの飲み物でも飲ませて眠らせます」


 睡眠薬! たかしさんが失くしたやつか!


「山原氏が眠ったのを確認した犯人は、飲み物を処分し、彼の部屋の床に血をつけてから窓を開け、そしてドアから出て合鍵で鍵をかける。これで準備は完了です」


「え? でもそれじゃあどうやって犯人は……」


 さおりが首をかしげる。


「犯人のすべきことはそれでおしまいです。あとは時が来れば山原氏が勝手に転落してくれるんですよ」


 そんなことができるのか?


「あらかじめ睡眠薬の効果が切れるタイミングを知っていた犯人は、ちょうど効果が切れる午後6時過ぎ、水穂さんに紀夫さんの部屋へ行くよう頼みます。もちろんこれは、彼女に死体を発見してもらうため。第一発見者は疑いをかけられますから、それを避けたんでしょう」


 水穂さんがはっとしたように口元を手で覆う。


「水穂さんが紀夫さんの死体を見つけて悲鳴をあげる。そうすれば皆はそこに集まると同時に、山原氏が来ていないことに気づく。その頃、ようやく睡眠薬の効果が切れた山原氏は、まだ状況がのみこめずにいた。そこへ俺達は駆けつけ、ドアをどんどんと叩く」


 まさか……。


 「これは俺の推測ですが、恐らく犯人は、あらかじめ紀夫さんを殺すように山原氏をそそのかしていたんではないでしょうか。はっきりしない意識の中で山原氏は床の血痕に気づき、ドアの向こうで俺達が呼んでいるにも気づく。山原氏はてっきり自分が紀夫さんを殺してしまったのだと思いこんだ。でもドアから出ていくことはできない。そこで目にとまったのは開け放たれた窓。とっさにそこから逃げようとした山原氏はまんまと罠にかかって池に転落。睡眠薬の効果と池の水温でたちまち溺死するという仕組みですよ」


「まさか……。そんなことが」


 渡さんも絶句している。


「こうして犯人は自ら手を下すことなく山原氏を溺死させたんです。まあ、殺人ではなく未必の故意になりそうな話ですがね。必ずしも山原氏が逃げようとしたとは限りませんから」


「待って! それじゃあ犯人は……!」


 さおりの声を合図に、一同はある人物のほうを向く。


「そう。犯人はあなたです!」



***



「安藤忍さん! 犯人はあなたです!!」


 安藤さんは目を見開いたまま声を上げようともしなかった。小刻みに肩を震わせている。


「あなたが犯人である証拠は、あなたのアリバイ証言にある!」


「どういうことだ、出町」


「よく思い出してくれ。安藤さんは、午後は自室の掃除をしていたと言った。そしてそのとき、雑巾を使ったと言ったんだよ」


 出町の口調が心なしか穏やかになった気がした。


「今朝さおりは東京からたくさんの買い物を持ってきていた。その中には雑巾もあった。さおりは昼食の前に雑巾を入れかえ、古い雑巾はロッカーから無くなったんだ。あなたが雑巾を使っていたなら汚れた雑巾があるはず。そう思って古野に調べてもらったんですよ。そしたら……」


 出町のあとを受けて答える。


「ロッカーの中の雑巾は新品ばかりで……。使われた形跡はありませんでした」


 出町が満足そうにうなずく。


「そう、安藤さん、あなたは掃除なんてしていなかった。つまり嘘をついていたってことになる!」


 安藤さんは肩を震わせたまま答えない。それがしばらく続いた。出町はその間何も話さなかったし、他に誰かがしゃべるはずもなかった。やがて安藤さんの震えが止まり、彼女はひとつ大きく息を吐いてその場に座りこんだ。


「その通りよ、名探偵くん。私があの二人を殺したの」


「どうして!? どうしてなの、安藤さん!」


 駆け寄ろうとしたさおりを出町が手で制する。出町は大きくあくびをしてからこう聞いた。


「安藤さん。あなた、失踪した小田広成さんのお姉さんなんじゃありませんか?」


「な……」


「本当なのかい!? 安藤さん」


 水穂さんと渡さんが声をあげる。たかしさんとさおりも家政婦の意外な正体に驚きを隠せないでいた。


「もうお見通しのようね。そう、私は10年前に失踪した小田広成の実の姉よ! 弟は失踪したわけじゃないの。弟はあいつらに……殺されたのよ!」



***



「弟には婚約者がいたの。弟の失踪のショックで彼女も病気で亡くなったわ」


 安藤さんは虚空を睨みながら過去を語り始めた。


「結婚も決まって幸せだった弟が失踪なんてするはずがない。そう思った私は弟の行方を調べ始めたわ。でも分かったのは弟が長野県議の小早川紀夫の秘書をしていて、仕事の途中に忽然と姿を消したってことだけ。それでも粘り強く調査を進めて、気づけば弟の失踪から7年が経っていた。ついに私は結論にたどりついた。小早川紀夫は絶対に何かを知っている。私は顔と名前を変えて小早川家に家政婦としてやってきたわ……」


 安藤さんの顔に笑みが広がる。


「ここでの3年間は案外楽しかったわ。本来の目的を忘れるくらいに。私は家政婦としての仕事に熱中して紀夫に接触することを完全に忘れていた。でも、3ヶ月前のある夜、紀夫と山原のこんな会話を偶然聞いてしまったのよ」



『先生、本当に殺してしまってよかったんですか?』


『ふん。あいつが俺の贈賄に気づいたのが悪いんだ。あいつは秘書の分際で俺にやめろと言ってきた。だから殺した』



「その瞬間よ。私の中にメラメラと灼熱の復讐の炎が燃え始めたのは!」


 安藤さんは目を見開く。


「こいつらが殺したのは弟だけじゃない。弟の婚約者も、そして将来生まれるはずだった子どもまで殺したも同然よ! だから、この手であいつらを葬ってやったのよ。」



***



 朝はえも言われぬ快晴だった。思っていたよりも早く長野県警は到着し、安藤さんはパトカーに乗せられた。白髪交じりの刑事は、もう事件が解決したと知ると目を丸くして、出町を物珍しそうに眺めていた。


「安藤さん!」


 出町がパトカーの中の安藤さんに声をかける。


「なぁに、名探偵くん」


「ずっと気になってたんです。山原氏を眠らせるだけなのにごっそり盗まれた睡眠薬。送られた脅迫状と、極めて不確実な山原氏の殺害方法……」


 出町はそこで一呼吸をおいた。


「睡眠薬の残りは自殺用。そして脅迫状と殺害方法は復讐の方法としてはあまりに中途半端です。だから、もしかしたら復讐を止めてほしかったんじゃないかと思ったんですが、違いますか」


 安藤さんはふっと笑みを浮かべる。


「さあ? それを調べるのは名探偵くん、あなたでしょう?」


 そう言い残した安藤さんを乗せ、パトカーは雪道を遠ざかっていった。


「……出町くん。今回はありがとう。事件を解決してくれて。それと、安藤さんを救ってくれて」


 さおりが出町に声をかける。心なしか頬が少し赤いようにも見えるが……気のせいだよね? てか、俺にはお礼はなしかよ。


「別に。俺はただ謎を解いただけのことだよ。まあ、事件も無事に解決したんだし、俺は一休みさせてもらうよ」


 そう言って出町は大あくびをする。朝の冷たい空気をもろに吸い込んだせいか、軽くくしゃみをして一眠りのために屋敷へ戻っていった。


 何はともあれ、一件落着。はっきり言ってなまけてばかりであてにならない。それが出町昇之介。だが推理力は本物。それが分かってもらえたところで、そろそろ俺のつまらん話は止めにするとしよう。

 随分詰め込んだ気がしますね~。次回からはもっとゆったりと書いていきたいと思っています。


次回

 CASE:2 雪枕温泉殺人事件


 山形県にある温泉を訪れた出町と古野。しかし、そこで彼らを待っていたのは、その地に伝わる伝承「雪枕」になぞらえた殺人事件だった!!


犯人「雪枕」は誰だ!?

 白木雄造・・・雪枕温泉総支配人。

 赤沢彩絵・・・画家。

 緑川陣・・・俳優。

 紫藤淳也・・・ミュージシャン。

 佐伯青葉・・・東都高校1年。


 なるべく早く更新できるよう努力します。

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