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名探偵はあてにならない。  作者: 龍
CASE:7 竜宮湖畔殺人事件
21/34

第21話  集められた八人

◇メインキャラクター◇


 出町昇之介(でまち しょうのすけ)・・・主人公。東都高校2年。探偵クラブの創設者。天才的な推理力をもつが、天性のナマケモノでもある。


 古野直翔(ふるの なおと)・・・東都高校2年。探偵クラブのメンバー。出町の親友で、事件においては彼のサポートを担当している。



◇事件関係者◇


 浦島光治(うらしま みつじ)・・・竜宮湖畔リゾートホテルのオーナー。謎解き企画「レイクサイド」の企画・運営を務める。


 鳥羽明夫(とば あきお)・・・歴史学者。地元の大学で竜宮湖の歴史について研究している。


 新藤雪彦(しんどう ゆきひこ)・・・鳥羽の助手を務める若い男性。


 魚原真吾(うおはら しんご)・・・ジャーナリスト。元々は硬派な記事を書いていたが、最近では専らゴシップ記事ばかり書いている。


 園真沙美(その まさみ)・・・少女漫画家。代表作は『センチメンタル・レイクサイド』。


 八重崎岳(やえざき がく)・・・推理作家。代表作は『湖畔に死す』。


 弓丘(ゆみおか)いずみ・・・クイズ女王。得意分野は文学と歴史だという。


※浦島以外は『レイクサイド』の参加者。

『出町昇之介様


 この度は、ゴールデンウィーク特別企画「レイクサイド」にご応募いただき、誠にありがとうございます。あなたは見事、参加者の一人に選ばれましたのでここにお知らせいたします。


 それでは改めまして、企画のご説明をさせていただきます。「レイクサイド」は竜宮湖畔リゾートホテル主催の、宿泊客参加型謎解きゲームです。参加者は8名限定。この8名を犯人役、被害者役、探偵役にそれぞれ分け、犯人役と被害者役が最後まで探偵役を欺き通すことができれば、犯人&被害者の勝利。探偵役が犯人とその証拠を提示できれば、探偵役の勝利となります。勝利したグループの全員に、当ホテルの宿泊券を進呈いたします。


 以下、大まかなルールとなります。


・期間は5月3日から7日までの計5日間。主な予定は次の通り。


 1日目:交流会

 2日目:事件発生

 3日目:推理

 4日目:推理

 5日目:結果発表


・参加者は8名。犯人役1名。被害者役1名。探偵役6名。犯人&被害者チーム、探偵チームに分かれて争う。


・役は、主催者側がランダムに指定。同封の通知をご確認ください。


・犯人、被害者は互いに協力し合い、完全犯罪を演出して探偵役を欺くことで勝利となる。なお、事件を起こせるのは2日目のみ。時間帯は問わず。


・探偵役も互いに協力し合って、演出された完全犯罪を崩し、犯人とその証拠を提示することで勝利となる(6名のうち、誰か1人でも推理を的中させればよい)。


・勝利チームには当ホテルの宿泊券を進呈。


・その他、ご不明な点は主催者にお聞きください。


 以上でご説明を終わります。竜宮湖畔での素晴らしい連休を心ゆくまでお楽しみください。


竜宮湖畔リゾートホテルオーナー 浦島光治 』


◇◇◇


「こんなのが本当におもしろいかなあ?」


 富士山麓にある竜宮湖畔リゾートホテルへ向かうバスの車内で、出町がぼそりとそう言ったのを、隣の席に座る古野はただ黙って聞いていた。いつもなら何か言い返すところだが、今回は古野のほうに責任があるのでそうはできない。

 というのも、この「レイクサイド」という企画を最初に発見したのは古野だったのだ。8名限定で、どうせ当たらないと思いつつ自分と出町の分を勝手に応募したところ、どういうわけか二人とも当選してしまったのだ。恐る恐る出町にそれを伝えると、むすっとした表情でこんな言葉を返してきた。


「それ、いつなんだ?」


 謎解きゲームということもあってか、出町は妙に食いつきがよかった。これはいけるぞと思いながら、期間がゴールデンウィークであることを伝えると、今度は一転、こんな言葉が返ってきた。


「うへー、まじかよ」


 出町の言い分では、どうやら連休は寝て過ごしたいらしかった。だが、それでは出町の分の参加枠がムダになってしまう。そこで、何とか説得を試みた結果、今に至るというわけである。


「あ、そうだ、出町。お前、検診はどうだったんだ? 何か事件があったらしいけど」


「どうもこうもないよ。お前のせいで余計な事件に巻き込まれるし、お医者さんには『あなたは寝すぎです。睡眠は少し控えたほうがいいでしょう』なんて忠告されちまうし。散々だったぜ……」


 気分を変えるつもりで言ったのだが、余計に出町ににらまれてしまった。


「そ、そうだったのか。でも体はどこも悪くなかったんだな」


「まあな」


 あれだけ寝ててよく体を壊さないな、と古野が内心あきれていると、バスが竜宮湖と書かれた木製のゲートをくぐった。


「ほえー。これが竜宮湖……」


 出町は口をあんぐりと開けて眼前に広がる雄大な湖に見とれていた。何しろ竜宮湖は、国内でも有数の透明度を誇る美しい湖で、新緑と紅葉の季節は特に観光の目玉になる場所なのだ。出町が圧倒されるのも無理はない。


「フッ……」


 何だかんだ言って、やっぱり出町を連れてきたのは正解だったのかもしれない。このままゲームに勝って、賞品の宿泊券をもらえれば最高だ、などと古野は想像を巡らせていた。



***



「古野様に、出町様ですね。お待ちしておりました。私は当ホテルのオーナーで、『レイクサイド』の運営を務めさせていただきます、浦島光治と申します」


 竜宮湖畔リゾートホテルは、その名に比してかなりこぢんまりとした造りだった。浦島オーナーの話によれば、もともとは誰かの別荘だったものを5年前に改築したらしい。確かに、3階建ての簡素な建物にはどことなく別荘のような面影もあった。

 チェックインを済ませ、部屋に荷物を置くと、さっそく古野は出町を誘って外に出た。


「うおおおお! すげえ……!」


 ホテルの裏はテラスになっていて、すぐ前に湖が迫っていた。強い西日を受けたそれは鏡のように輝き、ひとたび風が抜ければ波が立って光は不規則に揺らめいた。


「地球に生まれて良かった……」


 古野は思わずつぶやいた。隣で出町も涙ぐんでいるように思えたが、よく見てみると出町はあくびをしただけだった。


「あら、お二人も参加者ですか?」


 不意に声が聞こえた。見ると、テラスに置かれたロッキングチェアに女性が座っていて、柔らかな笑みを浮かべていた。隣の椅子には背筋のピンと伸びた男が座っている。


「は、はい。そうですけど」


「そう、よろしくね。あたしは園真沙美。一応、漫画家です」


「ははあ、漫画家の方ですか」


 出町が興味深そうにうなずくと、今度は園の隣の男が自己紹介を始めた


「僕は八重崎岳。推理作家だよ」


 その名前だけは、古野も聞いたことがあった。確かつい最近、有名な文学賞を最年少で受賞した気鋭の推理作家だったはずだ。


「お二人はなぜこの企画に?」


 出町の質問に、園がうっとりと湖を見ながら答える。


「創作活動のため……と言えばいいかしら。謎解き企画のほうはついでってとこね」


「そうそう。今も園さんと作品について語り合っていたとこなんだ」


 八重崎も合いの手を入れる。どうやらクリエイターどうし気が会うらしい。

 そうこうするうちに、湖に射していた西日も途切れ、辺りは途端に薄暗くなった。水面を静かに撫でていた風が首筋に冷たく当たる。


「そろそろ戻りましょうよ。だいぶ冷えてきたし」


 園の一声で、一同はテラスをあとにした。



***



「へええ、鳥羽さんって歴史学者なんですか」


 夕食に出された鱒のムニエルに舌鼓を打ちながら、古野は隣に座った初老の男性と話をしていた。鳥羽明夫と名乗ったその男性は、地元の大学で竜宮湖一帯の歴史を研究しているらしい。


「そう。この辺りの歴史は実に興味深いんだ。例えば……」


「先生。その辺で」


 鳥羽が意気揚々と話し始めたところで、その隣の若い男性が割って入ってきた。鳥羽は苦笑している。


「おお、すまんすまん。私の話はいつも長くなるからなあ。あ、彼は新藤雪彦くんと言ってな。大学で私の助手を務めてくれているんだ」


 新藤と呼ばれた男性が会釈をする。


「さて、それじゃあ私は一度部屋に戻るとするかな。歴史の話はまたあとにしよう」


 鳥羽は腰をさすりながら立ち上がると、新藤と何かを話しながら食堂を出ていった。あの二人も、どうやら謎解き企画のほうに熱心ではないらしい。

 炊き込みご飯にぱくつく出町を横目に、古野も食事を続けようとしたその時だった。


「少しぐらい話聞かせろや!! なんかマズいことでもあるんかい!」


 食堂の奥のほうから怒号が飛んできた。古野と出町が思わずそちらを見ると、坊主頭にタバコをくわえた男が、黙々と食事を続ける女性の隣でわめいていた。女性のほうはどこか見覚えのある顔だ。


「弓丘さんだ……。クイズ女王の」


 出町の一言で古野も思い出した。弓丘いずみだ。視聴者参加型のクイズ番組で、芸能人クイズ王を撃破し、話題になっているクイズ女王である。その弓丘に絡んでいる坊主頭の関西人は何者だろう。


「あ、おい、待てや! 逃げるんかい!」


 しつこい男をまるで相手にしないまま弓丘が部屋を出ていった。残された男は腹立たしそうにテーブルを蹴ってどこかへ消えた。

 入れ違いにやってきたオーナーの浦島に、古野は男のことを尋ねてみた。


「魚原様でございます。フリーのジャーナリストであるとか……」


「ジャーナリスト!? あの態度の悪い男が?」


 あの男も参加者なのか。古野は分かりやすく落胆すると、炊き込みご飯のおかわりをしようとしていた出町を残して先に食堂を退出した。



***



 1時間ほど自室にいたが、どうにも気分が優れず、古野は食堂に下りてきた。見ると、食後のお茶を飲む出町の周りに、鳥羽と弓丘が座っていた。いったいどういう組み合わせだろう。


「よお、古野」


「……『レイクサイド』の話をしてた……わけじゃなさそうだな」


「当たり前だ。誰が犯人役かも分からないんだからな」


 出町の言葉を聞いて、それもそうかと古野は思った。そう考えると、今日ここに到着してから出会った者の中に、犯人役に選ばれた者がいるということになる。いや、待て。出町が犯人役である可能性も当然あるだろう。こうなると、だんだんと疑心暗鬼になってくる。


「ふぅ……。で? 何を話してたんだ?」


 出町は、弓丘に古野のことを紹介してからそれに答えた。


「鳥羽先生の歴史の授業を聞いてたんだよ」


 その言葉に、鳥羽は照れくさそうに笑った。


「話が長くなりましたな。申し訳ない」


「いえ。興味深い話ですわ。もっと聞かせてください」


 弓丘は目を輝かせながら鳥羽に迫っている。古野としても、竜宮湖の歴史については少しばかり関心があったので鳥羽の話を聞くことにした。鳥羽はまんざらでもなさそうな様子で、一つ咳払いをしてから話し始めた。


「竜宮湖……。その名の由来、皆さんはお分かりですかな?」


 三人は一様に首を横に振る。


「竜宮。これは言うまでもなく、浦島太郎の昔話に出てくる竜宮城からきている。ではなぜ、この湖に竜宮という名がつけられたのか……?」


 鳥羽はそこで一度言葉を切り、三人の顔を見回す。


「それは、竜宮城がこの湖の底に眠っているからなのです」


「えぇ?」


 古野は思わず声を漏らした。他の二人は興味深そうに耳を傾けている。


「この説を裏付ける遺物が、近年湖から大量に発掘されているのです。最初は小判や置物の類いだったが、2年前の調査で思わぬものが見つかりました」


「おお……。思わぬもの、とは?」


「その頃、妻を亡くして意気消沈していた私は、今まで以上に発掘に力を注ぐようになっていた。そして! ついに見つけたのです! 湖の底に沈んだ遺跡を!!」


 もはや鳥羽の独壇場だった。


「その遺跡がいつ、どのような意図で建設され、なぜ湖の底に沈んだのか……。まだまだ分からないことは多い。だが遺跡の発見は、妻の助けによるものなのかもしれない。だから私は、生涯を竜宮湖の研究に費やすつもりなのです……」


 そこまで言って鳥羽は頭を下げた。


「また話が長くなるところでした。それでは、この辺で私は引き上げます」


 鳥羽が食堂を出ていったあと、古野と出町は弓丘に話の矛先を向けた。


「弓丘さんも、ああいう話に興味あるんですか?」


「ええ、まあ」


 クイズ女王であり、現役の主婦でもある弓丘は、落ち着いた口調で質問に答えた。


「そういえば弓丘さん。ちょっと聞きにくいんですけど、さっき魚原とかいうジャーナリストに絡まれてましたよね? 何かあったんですか」


 古野が、ずっと気になっていたことを恐る恐る尋ねると、弓丘はやはり落ち着いた様子で答える。


「私とあの人との間に何かあるわけではないわ。ただ、彼はゴシップ記事ばかり書いている名ばかりのジャーナリスト。彼のやり方は決まってるのよ。相手を脅してボロを出させる……そしてその標的になったのが私、というだけのことよ」


 そこで弓丘は小さくため息をついた。


「まあ、今でこそあんなことしてるけど、彼も若い頃はもっと立派なジャーナリストだったんだけどね。それこそ政治や歴史に関するまともな記事を書いてたみたい」


 それがゴシップ記事の魅力にとりつかれ、あれほどまでに変容してしまったということなのだろうか。古野は何となく複雑な気持ちになった。


「そうだ、弓丘さん。せっかくだしクイズの実力、見せてくださいよ」


 出町がそう提案すると、弓丘は笑顔で了承した。


「じゃあ古野。お前、問題出してくれ」


「えぇ? 俺が問題出すのかよ?」


「おう」


 当たり前だろ、と言いたげな出町を見て古野は、しかたなく問題を考えることにした。だが、いざ考えるとなるとなかなか難しい。


「えーと、じゃあ問題。オールコットの小説『若草物語』に……」


「メグ、ジョー、ベス、エイミー」


 問題を聞き終わらないうちに弓丘がすらすらと答えてみせた。出町は唖然とし、古野もあまりの速さに驚愕する。


「せ、正解です」


「フフ。『若草物語』のマーチ家の四姉妹の名前でしょ? 残念だけど、文学と歴史は私の得意分野なのよ」


「じゃ、じゃあノーベル文学賞受賞者は……?」


「全部分かるわ」


「アメリカの歴代大統領は?」


「守備範囲ね」


「俺の誕生日は?」


 出町が言った。いや、分かるか、そんなもん。すぐには答えず、不敵な笑みを浮かべた弓丘は、ゆっくりと立ち上がった。


「そうね。誕生日はさすがに分からないけど君の副業なら分かるわよ」


「えっ?」


「君、探偵でしょ?」


「ど、どうして、それを……」


「うーん、まあ雰囲気かしらね。じゃあ、おやすみ」


 足早に去っていく後ろ姿を見ながら、古野と出町は、弓丘が犯人役ならかなりの強敵になりそうだと勝手にわくわくしていた。



***



 翌朝。

 古野に叩き起こされ、出町は寝起きのおぼつかない足取りのまま外に連れ出された。


「おい、いったいどうしたんだよ」


「とにかく来てくれ、出町。お前の出番だぞ」


 湖の対岸にあるボート乗り場に人が集まっていた。見ると、皆『レイクサイド』の参加者だった。出町は訳が分からぬまま人だかりの中心にたどり着く。そこで初めて、自分が呼ばれたわけを知ることになった。


「魚原さん……」


 昨夜、食堂でわめいていたジャーナリストの魚原が桟橋に倒れていた。頭から大量の血が流れ、うつ伏せのまま全く動く気配がない。

 出町は一瞬で探偵モードに切り替わると、魚原の死体のそばにひざをついて調べ始めた。


「だいぶ冷たくなってる……。昨夜のうちに殺されたと見ていいでしょう」


 死体を眺めていた出町は振り向いて話を続ける。


「死体を発見されたのはどなたですか」


 おずおずと手をあげたのは、オーナーの浦島だった。


「わ、私でございます。毎朝、見回りも兼ねて湖畔を散歩しているんですが、その途中で……」


「死体に触りましたか」


「と、とんでもございません」


「警察にはもう通報されましたか」


「ええ、済ませました。1時間ほどで来るそうでございます」


「そうですか……うん?」


 何かに気づいたのか、出町は魚原の指先を凝視していた。その指は、桟橋につけられた手こぎのボートの白い舳先に伸びている。


「なるほど。ダイイングメッセージか……」


 出町はそう言って、死体の指先を指差してみせた。よく見るとそこには、血で拙く書かれた「74」という数字が残されていた。

◇被害者◇

 魚原真吾・・・撲殺


◇魚原の書いた「74」が指す犯人は誰か?◇


浦島光治

鳥羽明夫

新藤雪彦

園真沙美

八重崎岳

弓丘いずみ



ダイイングメッセージを解けば、この時点で犯人が分かりますよ……!


次回、お楽しみに!

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